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■最強!濃硫酸の100万倍の酸 newsより




 濃硫酸の100万倍(!)も強力な酸が合成されました。その物質は、カルバボラン酸の一種で、H(CHB11Cl11。 「現代化学」2005年2月号に以下のように紹介されました。

 この物質を合成したのはアメリカ、カリフォルニア大学のChris Reed教授のグループ。合成されたこの酸は、プロトン(H)供与体として作用するブレンステッド酸。
 超強力な酸であるにもかかわらず、プロトンを放出しても残りの部分が安定な正二重面体構造をとる、瓶に保存できるほど安定な物質。たとえばフラーレン(C60)を加えても分解されず、HC60の塩(えん)が生成する。これまで最強の酸であったHFSO3/SbF3では、フラーレンを加えると室温でも分解してしまっていた。

 さて、学校で登場する「強い酸」の代表といえば、濃塩酸(HCl)、濃硫酸(H2SO4)、濃硝酸(HNO)。そして、教科書の中で最も強い酸(酸化力が強い)が、王水(濃硝酸:濃塩酸=1:3の体積比で混合したもの)で、金をも溶かすと習ったものです。 このような学校でお馴染みの酸にくらべると、今回合成された酸 H(CHB11Cl11はとてもに複雑な化合物であるといえます。強力な酸が誕生したことで、どんな新しいことができるようになるのでしょうか…。

 合成した化学者は、これまでだれも成功していないキセノン(Xe)の酸化が夢だそう。また、強力、かつ安定な酸として、石油の改質などの実用面で役立つことも期待されている。


 カルバボラン (carbaborane) : ポリボランの網目状の構造をもつボラン類の一部のホウ素原子(B)が炭素原子(C)で置き換えられたものの総称。以前はカルボランとも呼ばれた。
 正二十面体構造のものでは極めて安定なB1012が有名。 これは下の[B12H122-の正二十面体構造の、2つのホウ素原子(B)が炭素原子(C)に置き換わった構造。

 ポリボラン(poly borane) : 分子内に水素化ホウ素(B-H)を多数もつ化合物。一般式は、(BpHq )n。
     [B12H122-の正二十面体構造 (この図はすこし歪んでいますが)

      ・・・ホウ素(B)原子。水素(H)原子は省略しましたが、ひとつのホウ素原子にひとつの水素原子が結合しています。


 ブレンステッド酸 (Brφnsted-Lowryの酸塩基の定義) : 他の物質に陽子(プロトン:H)を与えることのできる物質を酸という。反対に、他の物質から陽子を受け入れることのできる物質を塩基という。


 (岳川有紀子:科学館学芸員)

(2005.01.28.)

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