基礎物理定数は「定数」か?

微細構造定数は確かに"定数"だった!

 私たちが住んでいるこの世界「宇宙」の姿を「あるべきものはあるように」しているのは、 基礎物理定数と呼ばれる20個ほどの数 (たとえば、万有引力定数、真空中の光速、素電荷、プランク定数、など)です。
 これらの数がほんのわずか違っていただけでも、宇宙は現在とは全く違うものになっていたでしょう。 現在の値と1%違っていただけでも、私たち生命や地球、夜空に輝く星、あるいは宇宙そのものが存在していなかったかもしれません。

 非常に重要な数でありながら実は、これらの定数が本当に"定数"なのか、つまり時間的(昔も今も)・空間的(宇宙のどこもかしこも)に変化しないのか、 ということには決着がついていません。
 大統一理論(GUT)やM理論でも、基礎物理定数が"定数"であることは予言しませんし、 ブレーン宇宙などの11次元の世界では変化することがありうる、と言われています(定数でないとしても変化の仕方が非常に小さいことは今までの観測・研究から分かっています)。

 さて、そんな基礎物理定数の一つである微細構造定数αについて、 「確かに定数である」との研究結果が発表されました。

 微細構造定数αは電磁相互作用の強さを決める比率で、 α=1/137.03599976という値をとります(理科年表による)。
 微細構造定数は原子における電子の位置(エネルギー準位:微細構造)を決めます。 光が原子に当たったとき、電子がどこの準位に移るか、また電子の準位が移ったとき、 どういうエネルギーの光が出てくるか、が、微細構造定数の値によって変わるのです。 

 そこで、インドのチャンド博士らの研究グループは100億光年以上かなたのクェーサー18個からの光を詳細に観測しました。
 クェーサーからの光には、クェーサーと地球との間にある物質(原子)によって吸収線ができます。 もし微細構造定数が定数でないならば、同じ元素の原子による吸収線間隔が距離(時間)によって変わっているはずです。

 しかしチャンド博士らがヨーロッパ南天文台(ESO)の巨大望遠鏡VLTを使って詳細に観測をおこなったところ、 時間的には100億年(空間的には100億光年)以上にわたって、 微細構造定数αは1000万分の6未満の範囲内で定数だったのです。
 
 ただ、いままでの他の同様な観測からは微細構造定数が変化している、との研究もありましたし、 今後、さらに精度のよい観測装置による確認が必要でしょう。
 また、なぜ定数なのか、ということも今後の理論的研究から説明されていくでしょう。

参考サイト:
原文は英語ですが、 ESOのホームページをご覧ください。

2004.4.4記(石坂

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