2004年6月8日の金星太陽面通過

130年ぶりの金星太陽面通過!

 来る6月8日14時11分から、金星と太陽が重なる、非常に珍しい現象が起こります。 前回の金星太陽面通過(1882年12月)から122年ぶり、 日本で前回観測されたのはさらにその8年前の1874年(明治7年)12月9日でしたから、 実に130年ぶりということになります。
 
 次回の金星太陽面通過は2012年6月6日、その後は2117年12月まで飛びます。 この機会をお見逃しなく!

●金星の太陽面通過とは・・・

2003年5月7日の水星の太陽面通過
 「金星の太陽面通過」とは金星が太陽の前を横切るときに、太陽と金星が重なる現象です (※「太陽面通過」は英語では"transit"ですが、日本語では「日面通過」「日面経過」と言う場合があります。 混乱を招かないよう表記の仕方を「太陽面通過」に統一しよう、との提案がなされています)。

 金星は地球よりも内側で地球よりも早く224日ほどで太陽の周りを一周していますので、 地球は約584日ごとに金星に追い抜かれることになります (金星は、地球を追い抜く前には「宵の明星」として、追い抜いた後には「明けの明星」として見えます)。

 しかし、金星の軌道面と地球の軌道面とがずれているため、 太陽面通過はだいたい243年間に4回しか起こりません (軌道の関係上、8年おいて2回起きるので、1世紀以上経て2組の金星太陽面通過が起きることになります)。

 太陽面通過と似た現象に「日食」があります。日食は月が太陽の前を通過する現象です。 金星の太陽面通過は"金星による日食"と言えるかもしれません。
 
 また最近では2003年5月7日に
水星の太陽面通過が起きています。 金星は水星より大きく、また距離的に地球に近いので、見かけ上、太陽の30分の1ほどの大きさでくっきりした黒い点として観測されるはずです。

 さらに、最近、多数の太陽系外惑星が見つかっていますが、そのうちのいくつかは、 恒星の前を惑星が横切る現象によって発見されています(たとえばヨーロッパ南天文台(ESO)のプレスリリース)。 ただし、こうして発見される惑星は木星よりも大きいものなので、 たとえ地球外生物が遠くからたまたま太陽を観測していたとしても、地球や金星を発見することはできないでしょう。


●観測の歴史

1639年12月4日の金星太陽面通過を観察するクラブトリー

1627年:金星の太陽面通過がおよそ120年ごとに起きること、そして1631年12月7日がその日であることをケプラーが予測したが、本人は見ることができなかった(1630年ケプラー没)。

1631年:フランスのガッサンディが12月の金星太陽面通過をパリで観測しようとしたが、 予測の精度が悪く観測することはできなかった。

1639年:イギリスのホロックスと友人クラブトリーが12月4日の金星太陽面通過を観測。 クラブトリーはあまりの喜びに記録するのを忘れた(上の絵)。

1677年:イギリスのハレーは、金星太陽面通過を地球上のいろいろな場所で正確に観測すれば視差法によって金星までの距離や太陽の大きさが計算できることを指摘した。

1722年:デリスルはハレーの方法を改良し、観測可能な場所の条件を緩和した。

1761年:ラランデ(フランス)、マスケラン(イギリス)など多くの国の観測プロジェクトが組まれ、 ハレーの方法により金星太陽面通過の観測から太陽系の大きさを測ろうとしたが、誤差が大きすぎて正確な値を求められなかった。 キャプテン・クックは金星太陽面通過観測のための遠征途中でハワイを"発見"した。

1769年:この時の金星太陽面通過は世界70余ヶ所で150の観測が行われ、太陽−地球間の距離(1天文単位)が約1億5000万kmであることが求めらた。 この時の観測ではイギリスが大きな成果を挙げ、天候に恵まれなかったフランス隊は天文観測における凋落を印象づけた。 また、キャプテン・クックをはじめ、多くの人々が遠征途中で亡くなった。

1874年:写真による記録、正確な時計が導入され、技術的に大きな進歩があった。 日本は好条件に恵まれ、世界各国から観測隊が訪れた。

1882年:ニューコムは1874年の観測データや、火星・小惑星などの視差観測と合わせ、 精度よく太陽までの距離を求めたが、ニューコムの値が正確かどうかを確認するためには、 後のレーダーによる直接測定を待たねばならなかった。


●観察の仕方

 2004年6月8日の大阪での金星の潜入開始(第一接触)時刻は14:11で、 約6時間かけて金星が太陽の前を通過していきますが、大阪の日の入の時刻が
19:09ですので、 全経過を観察することはできません。

 観察には工夫が必要です。
  • 昼過ぎから夕方にかけての現象なので、観察するためには、西の方角にビルや木立などがなく、空が広く空いている場所で、 地平線近くまで見通せる必要があります。 また、雲やもやが西の方角に濃くかかっていると観察することはできません。


  • 太陽の光は非常に強烈なため、直接観察すると失明します。絶対に目で見たり、望遠鏡を覗いたりしてはいけません。 望遠鏡を通した光を白い紙(投射板)に映して観察するか、ピンホールを利用した簡単な観察装置を自作するといいでしょう。
科学館では当日に特別観察会を行います。 参加は無料、申し込みも必要ありません。平日ですが、ぜひご来館の上、世紀の天体ショーをご覧ください。


川上新吾作:太陽面通過安全観察装置 この装置では直径1cmほどの太陽が映る
 ピンホールからの距離の100分の1ほどの大きさに太陽が映ります。 ピンホールを大きくすると明るくなりますが、像がボケ、小さくするとシャープになりますが暗くなります。 この装置では、自動改札機用のプリペードカードの穴を利用しています。


●2004年6月8日の経過予想図(大阪)

大阪での経過をステラナビゲータVer.5で作図してみました。


●参考サイト:

2004年6月8日の金星太陽面通過については下記もご覧ください。とても参考になります。
  1. 国立天文台のページ:金星太陽面通過の説明や観察方法の解説
  2. 日本プラネタリウム協会・金星プロジェクト:金星トリビアやイベント情報
  3. 厚木市こども科学館のホームページ:分かりやすい解説
  4. ESO金星太陽面通過プロジェクト:非常に詳しい解説(英語)
  5. 月刊うちゅう2004年5月号:「金星の太陽面通過」を特集(ミュージアムショップにて販売中

2004.5.16記(石坂

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