惑星記号の由来

惑星記号はいつ、誰が決めたのか?


 2003年の科学館友の会夏の合宿観測会は佐治天文台で行いました(科学館友の会会報・月刊うちゅう2003年9月号参照)。宿泊したコスモスの館の部屋名が惑星になっていたため、参加者名簿では惑星記号で部屋割りをしました。その時「この記号はどういう意味?」「惑星の記号はいつ、誰が決めたの?」という質問を受けましたので、ここでまとめてみます。ただし文献が少なく、分からないことが多いので、詳しい方がいらっしゃいましたら教えてください。
 主要な5惑星(水星、金星、火星、木星、土星)の記号は15世紀ごろの占星術で使われ始めたようです。16〜17世紀には錬金術でも使われていました。
 コペルニクス以前は5惑星+太陽+月が"惑星"で、地球は惑星ではありませんでした。また、天王星以遠の惑星についても記号が決められたのは、ずっと後のことです。
 各惑星記号の意味としてよく言われている説は次の通りです。

水星Mercury:

 ローマ神話の伝令の神メルクリウス(ギリシア神話のヘルメス)の持つ、二匹の蛇が絡み付いた杖を図案化したもの。角の生えた♀ではない。水星は太陽の近くをすばやく行ったり来たりするので伝令の神に見立てられた。またメルクリウスは商売の神でもあるため、杖のデザインは商業系の学校の校章として使われることがある(例えば一橋大学)。錬金術では水銀を象徴した(水銀は英語でmercury)。


金星Venus:

 ローマ神話における美と愛の女神ウェヌス(ギリシア神話のアプロディテ)の持つ手鏡を図案化したものというのが俗説としてよく知られているが、古い形ではギリシャ文字のφに似たものがあり、フランスの古典学者 de SAUMAISE は Phosphoros(明けの明星)の頭文字Φが変形したものだとしている。ちなみに、3世紀のローマのタイル画で、手鏡を持った美の女神ウェヌスが描かれているものがある。錬金術では金ではなく銅を象徴(金は太陽。ちなみに月が銀)。


地球Earth:

 横棒は赤道、縦棒は子午線を表す。島津家の家紋ではない。Earth以外にもテラTerraやガイアGaeaという呼び方がある。それぞれラテン語のterra(土地;※大地の女神Tellusだという説もある)、ギリシア神話の大地の女神Gaiaからきている。16世紀の"コペルニクス的転回"によって一惑星に成り下がった。


火星Mars:

 軍神マルス(ギリシア神話のアレス)の槍を図案化している(俗説)。18世紀にリンネがオスの記号として使い始めた。錬金術では鉄。3月Marchはマルスに捧げられた月である。2003年8月27日の大接近が記憶に新しい。


木星Jupiter:

 数字の4をデザインしたもの。木星は地球を除いて知られていた5惑星の4番目だったから。最高神ユピテル(ギリシア神話のゼウス)の雷を図案化したもの、あるいはゼウス(Zeus)の頭文字Zの変形という説もある(de SAUMAISE)。錬金術ではスズ。 観測技術の発達により近年衛星の発見数が激増し、現在60 個を超えている


土星Saturn:

 木星に次ぐ5番目の惑星なので、数字の5を図案化している。農耕の神サトゥルヌス(ギリシア神話では時の神クロノス)のもつ鎌とも言われる。クロノスはゼウスの父。錬金術では鉛。英語読みのサターンを悪魔サタンSatanと混同する人がいるが、全く関係がない。


天王星Uranus:

 1781年にW.ハーシェルが発見。それまで5惑星+太陽+月で占っていたのに、本当はそれ以外にも惑星があったわけで、占星術の存在意義を根幹から揺るがした。発見後しばらく「ハーシェル」と呼ばれたため、天王星の記号はハーシェルの頭文字Hを図案化したものになっている。後にボーデがギリシア神話にちなんで「ウラヌス」(ウラヌスはウラノスのラテン語読み)を提案した。唯一、ギリシア神話系の名前がついている(ウラノスはクロノスの父)。ウランは天王星にちなんで名づけられた。


海王星Neptune:

 海の神ネプチューン(ギリシア神話ではポセイドン)の持つ三叉の槍を図案化(ポセイドンはゼウスの兄弟)。海王星は1846年にアダムズ、ルべリエおよびガレにより発見された。以前は木星型惑星に分類されていたが、最近は天王星とともに「天王星型惑星」とする考え方がある。海王星以遠の小惑星をカイパーベルト天体(EKBO)と呼ぶ。


冥王星Pluto:

 1930年にトンボーが発見した。いろいろな記号が使われるが、PとLを組み合わせたものが一般的。冥王プルトー(ギリシア神話では冥界の王ハデス)の最初の2文字であり、トンボーの勤務先であるローエル天文台の創始者パーシバル=ローエルの頭文字でもある。ギリシア神話では、ハデスはゼウス、ポセイドンとクジを引いて、冥界を支配することになった。プルトニウムは冥王星の元素という意味だが、冥王星がプルトニウムでできているわけではない。2006年、冥王星は惑星ではなく、太陽系外縁天体に分類しなおされた。

参 考:

  ・ナインプラネッツ(このページの惑星記号はナインプラネッツから転載)
  ・セラムンと占星術
  ・イメージの博物誌「占星術」(平凡社)
  ・立花観二「生物学における雌雄記号の由来」科学史研究98、p59(1971年)

2008.5.9改/2004.1.29記(石坂:月刊うちゅう2003年12月号の記事に加筆した)

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