長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告9,109-113(1999)



サイエンスショー「ひかり・ぴかり・きらっ」実施報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 分光は、科学のさまざまな分野において重要な測定・観測手段である。しかし一般には分光というものはあまり知られていない。そこで、1999年3月2日から(1999年5月23日まで実施予定)のサイエンスショー「ひかり・ぴかり・きらっ」では、さまざまな光のスペクトルを来館者に観察していただくなど、分光に関する実験を行なっている。そこで、以下に本サイエンスショーについて報告する。

1.はじめに
 今回のサイエンスショーでは、「ひかり・ぴかり・きらっ」というタイトルで、光をテーマに行なっている。しかし、ひとくちに光と言ってもさまざまな性質を持ち合わせており、切り口によりさまざまな展開が考えられる。
 例えば幾何光学という観点からは、反射の法則(入射角と反射角)、屈折の法則(入射角と屈折角)などの性質により、レンズや凹面鏡などによる実像や虚像といった話から、望遠鏡や顕微鏡、カメラレンズなどの仕組みについて展開することもでき、プリズムを用いれば分光することもできる。また、光が波動であることからは、回折や干渉といった波独特の性質も現われるので、ヤングの実験などで干渉パターンを作ったり、回折格子によって分光することもできる。特に光は横波であることから、偏光という性質もある。さらに、光は波動性とともに粒子性も持ち合わせていることから、光電効果といった現象も見られる。また、光を見る人間の視覚という観点では、光の三原色や色素の三原色といったことから、錯視や盲点といったことまで取り上げることも可能である。
 このような光のさまざまな性質の中でも、今回は主に分光をテーマに取り上げた。分光は、物理や化学・天文などの分野において、実験や観測の重要な測定手段として用いられている反面、太陽の光が虹で七色に分かれることは一般にもよく知られている。そこで、導入に虹を用いてさまざまなスペクトルを見ていただくことにより、分光というものに慣れ親しんでいただくことを目的とした。

2.実験内容
 サイエンスショーでは、以下のような実験を行なった。ただし、時間的にすべての実験を行なうことは不可能であり、お客さんの層や演示担当者により、実験の選択や順序は異なっている。
(1) プラスチックビーズによる虹
写真1.プラスチックビーズによる虹
 90cm×180cmのベニヤ板を艶消し黒色に塗り、細かな透明プラスチックビーズ(虹シート用として中村理科機器より販売されている)をスプレー糊で貼り付けたものを用意した。これに裸電球の光をあてると、ベニヤ板と電球を結ぶ直線上では虹が観察される。ただし客席が広く、全員に見ていただくために電球をあちらこちらへと動かした。なお、板に触れるとビーズが落ちるため、舞台横、放電装置等を置いてある部分のガラスの内側に立てて使用した。


(2) フラスコを使った水球による虹
写真2.フラスコの水による虹
 空にかかる虹は、空中に漂う水滴に太陽の光が当たってできる。このときの仕組みは幾何光学的に決まるので、水滴のサイズによらない。そこで丸底フラスコに水を入れ、スライドプロジェクターの光(スライドなし)を当てることにより、かすかに虹を観察することができる。


(3) プリズムによる分光
写真3.プリズムによるスペクトル
 水球ではあまりはっきりと分光することができないので、小学校の理科でも登場するプリズムでも分光を行なった。アクリル製の大型プリズムに、スリット状のスライドを通して絞ったスライドプロジェクターの光を当て、分光を行なった。


(4) 回折格子による分光
 (3)と同じスライドプロジェクターの光を、回折格子(反射型)に当てることにより、分光を行なった。回折格子の仕組みについてはあまり解説しないが、プリズム以外でも分光できることを見ていただいた。


(5) 回折格子レプリカフィルムによる分光
写真4.回折格子レプリカフィルム
 スペクトル観察を容易にするために、回折格子レプリカフィルムを多数用意し、お客さんに配布した(サイエンスショー終了後に回収)。この回折格子レプリカフィルムは正方格子状で、格子間隔は4.8μm程度である。格子間隔が広いため、スペクトル幅は狭いが、直接見える光源(0次)と1次のスペクトルがあまり離れておらず、スペクトルを探す必要がない。また、正方格子状であることからスペクトルも正方格子状に並び、光源の形状(スリットの向き)や回折格子の向きを気にせずにスペクトルが観察できる。


(6) 電球のスペクトル
写真5.電球のスペクトル(右は管型電球)
 現在のタングステンフィラメントの電球の光を回折格子レプリカフィルムで観察する。ガラス面が透明な裸電球では、フィラメントが細いため、スリットなしでもスペクトルがはっきり観察できる。また、約18cmのフィラメントを使った管型の電球では、非常に幅の広いスペクトルが観察できる。


(7) エジソン電球
写真6.炭素フィラメントの電球
 炭素フィラメントを使用した電球では、フィラメントの温度が低いため、光の色調が黄色っぽいが、連続スペクトルが観察された。ただし、紫から青にかけては非常に暗いスペクトルとなる。


(8) シャープペンシルの芯をフィラメントにする
写真7.シャープペンシルの芯を用いたフィラメント
 フィラメントの材料は、寿命や温度を追求しなければ、シャープペンシルの芯などでも代用できる。スライダックで10V程度の電圧をかけると、エジソン電球と同程度の明るさで輝き、色調も似ている。ただし、空気中で行なうために寿命が短い。


(9) スペクトル管の光の分光
写真8.スペクトル管(ネオン)のスペクトル
 連続スペクトルにならないものとして、スペクトル管の光を観察した。スペクトル管は中央が細いため、スリットなしでも容易にスペクトルが観察できる。ここでは比較的明るい窒素・ヘリウム・ネオンなどのスペクトル管を観察し、連続スペクトルになっていないこと、中の気体によってスペクトルパターンが異なることなどを観察した。


(10) ナトリウムランプの光の分光
写真9.ナトリウムランプのスペクトル
 不連続なスペクトルの特殊なケースとして、ナトリウムランプを観察した。客席のどの位置からも見えるように、ナトリウムランプにはらせん状のスリットをかぶせた。ナトリウムランプの光は、分光してもほとんどD線以外は見えないので、回折格子レプリカフィルムを通して見ると、ランプが多数あるように見える。また、トンネルの照明に使われていることや、台所での吹きこぼしの時にこの光が見えることを解説した。


(11) 殺菌灯と紫外線
 家庭にもある放電管として、蛍光灯の点灯原理について簡単に解説した。ただし蛍光灯では内部が見えないため、殺菌灯で解説し、紫外線についても蛍光ペンなどを利用して解説した。


(12) 蛍光灯の光の分光
写真10.蛍光灯のスペクトル
 蛍光灯にスリットをかぶせ、回折格子レプリカフィルムで分光して観察した。蛍光灯はメーカーや種類によってスペクトルパターンはさまざまであるが、基本的には連続スペクトルではなく輝線スペクトルの集まりであることがわかる。


(13) 電球型蛍光灯とボール電球の比較
写真11.電球型蛍光灯(左)とボール電球(右)
写真12.電球型蛍光灯とボール電球のスペクトル
 最近では電球型をした蛍光灯も普及してきている。そこで、外見(形・色調)の似たボール電球と電球型蛍光灯を用意した。この2つの正体を伏せたまま、筒状のスリットをかぶせてスペクトルを観察してもらった。このことから、一方は電球型の連続スペクトルが観察されるのに対し、もう一方は蛍光灯型の輝線スペクトルが観察される。このことより、一方は中身が蛍光灯であることを推測させた。また、消費電力や発熱量の違いがあることを解説した。  消費電力の比較にはデジタル電力計を用いることにより、電球に比べ蛍光灯の消費電力が約1/4であることが一目瞭然となった。
写真13.デジタル電力計
 以上の実験以外に、内容を補うために、演示担当者が以下のような実験を付け加えることもある。
(14) 光の三原色
 さまざまなスペクトルパターンをもった光源があるのに対し、人間の目は赤・緑・青の三色の合成で色を識別している。このため、赤・緑・青の3色の混合だけで、さまざまな色を表現することができる。そこで、3台のスライドプロジェクターに、それぞれ赤・緑・青のセロファンをかぶせたものを使い、3色を合成することにより白色になることなどを実験した。


(15) ニュートンの七色板
 白色光をスペクトルに分けると、いわゆる虹の七色に分かれるので、逆に七色を合成すると白色に見える(原理的には光の3原色だけでも可)。そこで、七色に塗り分けた円盤を回転させることにより、白色に見えることを見ていただく。


(16) 炎色反応のスペクトル
 炎色反応の光も、分光すれば輝線スペクトルを観察することができる。そこで、食塩水などを混ぜたアルコールを霧吹きに入れ、バーナーの炎に吹き付けることにより炎色反応のスペクトルを見ていただいた。また、炭素粉を振りかけた場合は輝線スペクトルが見えないことも確認した。
 約20分という限られた演示時間や、今回は主に分光を取り上げることにしたため、実際にはほとんどサイエンスショーでは行なっていないが、以下のような実験も企画・準備した。
(17) ブラックウォール
(18) バネと格子による偏光モデル
(19) シャープペンシルの芯によるアーク灯

3.考察
 今回のサイエンスショーでは、結局ほとんど分光の話ばかりとなってしまい、「ひかり・ぴかり・きらっ」というタイトルのイメージとは、あまり一致しなかったかもしれない。しかし、回折格子レプリカフィルムを配った時のお客さんの反応は非常に大きく、説明をなかなか聞いてもらえないほどであった。このことから、今回のサイエンスショーでは「さまざまなスペクトルを見ていただいて、分光というものに慣れ親しんでいただく」という目的は達成できていると思われる。
 しかし、光源によるスペクトルの違いを観察してもらおうとしても、光源の形や明るさによる違いに気を取られがちであり、光源の形や向きををなるべく統一し、スペクトルの様子に注目していただくように心がけた。
 また、内容をほぼ分光のみに絞ったにも関わらず実験が多くなってしまい、時間不足になりがちであった。20分間で行なうには、もう少し実験を整理する必要があるかもしれない。
 回折格子レプリカフィルムの配布方法については、回収率を高めるために、スライド枠にマウントしたものを十個程度ずつワイヤーに通したものもや、1〜2m幅のスクリーン状にしたものも用意した。しかし、ワイヤーに通したものはワイヤーが絡みやすく、スクリーン状のものもスペクトル幅がやや狭いといった欠点があった。そこで、スクリーン状のものは非常にお客さんが多い場合のみの使用とし、普段はスライド枠にマウントしたものを、個々バラバラのまま配布した。ところが、実際に配布してみると回折格子レプリカフィルムの回収率は予想以上に高く、心配するほどではなかった。ただし、途中入場や途中退場するお客さんの対応が難しかった。ちなみに、この回折格子レプリカフィルムについては来館者から入手方法についての質問が多かったため、科学館売店で販売した(3月末までに539個販売)。
 また、今回このように道具を来館者に配布・回収するという形をとったが、思ったほど混乱はなかった。このことから、これからのサイエンスショーでは、このような形態で行なうことも可能であると感じた。
 最後に、このサイエンスショーを行なうにあたり、実験のアイデアやノウハウを公開されている書籍・各種報告書・インターネットホームページなど、さまざまなものを参考にさせていただきました。本来なら参考文献としてあげるべきことですが、数が多く、リストを作るにいたりませんでした。失礼をお詫びするとともに、みなさんに感謝申し上げます。