長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告10,85-87(2000)



新展示「衝突実験」「ジャンピングボール」製作報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 展示改装に伴い、4階サイエンスタイムトンネルでの力学のハンズオン展示として、「衝突実験」と「ジャンピングボール」を製作したので報告する。

1.はじめに
 今回の展示改装で導入した「衝突実験」と「ジャンピングボール」は、理科教材や科学おもちゃとして知られているものを展示化したものである。 これらは、以前にアメリカのスミソニアン航空宇宙博物館およびコネチカット・サイエンスセンターで展示装置として見たこともある。 しかし、展示化においては、教材やおもちゃにはない問題がいろいろと現われた。

2.「衝突実験」
 衝突実験は、エアクッションで浮かせた物体どうしを衝突させるもので、2つの物体の質量が同じ場合や異なる場合にどのような動きになるかを観察するものである。
 このような装置は、理科教材として販売されており、衝突に際しては板バネを利用し、完全弾性衝突に近い状態を実現している。
 今回の展示改装でも島津製作所の既製品を使用した。 この製品は長さが2mあるが、これでは展示場では小型の展示になってしまう。 そこで、今回は予め機器を2台つないで、長さを4mにすることが可能なことを検証した上で、展示装置は長さ4mにすることを決定した。
 しかし、この教材の装置をそのまま展示場にだすと、すぐに壊れてしまう可能性があるので、装置はガラス板で覆うことにした。 ただ、そのガラスの外からどのように操作するかが問題となった。 結局、磁石の反発力を利用して操作することにしたが、直接さわるのに比べるとスピードがでないため、その動きのおもしろさは半減している。 そこで、これからも他の操作方法を検討していきたい。
 
写真1.スミソニアン航空宇宙博物館での展示 写真2.「衝突実験」

3.「ジャンピングボール」
写真3.コネチカット・
  サイエンスセンターでの展示
 ジャンピングボールは、質量の違うボールを上の方が軽いボールになるように縦に並べ、そのまま落下させるものである。 こうすると、床と衝突したときに、一番下のボールが床で跳ね返り、そのボールがしたから2番目のボールを勢いよくはね返し…、となり、一番上のボールが非常に高く跳ね上がるというものである。 この動きは非常に面白く、スーパーボールなどで作られたものが科学おもちゃとして販売されている。
 今回、このボールを大きくして展示にしたのだが、大きくすることによりスーパーボールでは重くなってしまう。 そこで中空のボールを使いたいのだが、まっすぐ並べて落とすために、ポールに通さなければならない。 しかし、穴をあけることにより、そこからボールが割れてしまうという耐久性の問題が出てきた。
 いろいろな材質で検討してもらったが、全く割れないという素材は見つからないまま、比較的強度のあるボールで展示改装オープンを迎えた。
 しかし、オープン初日から子どもたちの反応は大きく、ボールをそっと落とさずに、下に投げつけたり上に投げあげるという行動もあった。そのため、わずか1日でボールはつぶれてしまった。
 その後も、素材・穴の形状・ストッパーの追加など、さまざまな工夫をこらしれもらったが、ボールはあまり長持ちしなかった。 結局、コネチカット・サイエンスセンターに問い合わせ、使用しているペット用のボールを使用することにより、現在比較的ボールは長持ちしている。また、底の部分もこれまでの半球では強度不足であるため、ステンレス製の小型のものに変更した。
 
写真4.割れたボール
    (後方は現在使用中のもの)
写真6.現在の「ジャンピングボール」
 
写真5.割れた底部分 写真7.ステンレス製の底部分
 こうして、「ジャンピングボール」は現在の形に落ち着いているが、この間のボールの変更により、その跳ね具合は非常に微妙なものであることがわかった。 ジャンピングボールは、床に落とした時の一瞬の跳ね返りの間に多段衝突を起こしており、これが下から順に起こることによって、大きく跳ね上げることができる。 しかしボールが大きくなってくると、ボールの材質や厚みによる堅さの違いによって、衝突にかかる時間が変わり、下での衝突が終わらない内に上から次のボールが衝突してしまうと、あまり跳ねないようである。 また、現在でもボールを落とすときに、少しボールに隙間をあけておくと、大きく跳ねやすいようである。