長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告10,89-90(2000)



新展示「静電気マシン」「トランス」製作報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 展示改装に伴い、4階サイエンスタイムトンネルでの電磁気学のハンズオン展示として、「静電気マシン」と「トランス」の製作に大きくかかわったので、報告する。

1.はじめに
 今回の展示改装で導入した「静電気マシン」と「トランス」は、いずれもこれまでのサイエンスショーで電磁気学関係のテーマを取り扱った時によく行なっている内容である。
 また、「静電気マシン」に使用しているウィムズハースト型起電機および「トランス」に使用しているコイルや鉄芯は、理科教材として販売されているものである。

2.「静電気マシン」
 静電気と磁鉄鉱については非常に古くから知られており、電磁気学の歴史をたどる上で、静電気は欠かすことのできないものである。 今回展示に使用したウィムズハースト型起電機は、電池が発明された1799年以降に発明されたものであり、またその仕組みもわかりにくいので、静電気の歴史を代表するものとしては必ずしも適切とは言えない。 しかし、簡単に高電圧の静電気を発生させることができるため、静電気の実験を行なうには非常に有用である。
 今回、この展示の導入を決定するにあたり、実際に試作品を展示場に出してみた。 試作品は島津理科機器製のウィムズハースト型起電機をベースにしハンドルの取り替えやライデン瓶を追加を行ない、紙テープを付けた金属球をライデン瓶の上に設置した。 ウィムズハースト型起電機は、ハンドルを一方向にしか回してはいけないので、ベースにした起電機はハンドルをねじ込んであるだけで、逆向きに回転させるとハンドルがはずれてしまう仕組みになっていた。 これでは展示装置には向かないので、ハンドドリルを改造したラチェット付きのハンドルに変更した。 また、起電機その物には触れられないようにアクリルのケースに入れ、ハンドルだけを外に出すようにした。 ライデン瓶については、起電機そのものに小型のものが取りつけられているが、より大型のもを別設し、その上に直径約10cmの金属球(中は空洞)を取りつけた。 金属球の上には、細くて薄い紙テープを何本も取り付け、静電気がたまると金属球と反発して逆立ちするようにした。
 このような試作品を展示場に置いてみたところ、来館者の反応は、ほぼ3種類に分かれた。
 (1)
ハンドルをひたすら回す
 (2)
放電が面白くてハンドルを回す
 (3)
金属球に取りつけた紙テープが逆立ち、放電すると垂れ下がるのに気付く
この展示の意図としては、(3)まで見ていただきたいのであるが、それぞれ来館者は自分にあった楽しみ方をしており、興味を引きつける展示であることは間違いなかった。
 また、試作品を展示場に出すことにより、いくつかの改良が必要なこともわかった。主な要改良点は以下の通りであった。
 (1)
ハンドルをかなりの力で回されるので、展示什器全体を頑丈に作る必要がある
 (2)
ハンドルと放電が起電機の反対の面にあるために、ハンドルを回す人からは放電が見えにくい
 (3)
放電間隔は2つの放電子の角度で調整できるようになっているが、振動によって間隔が狂いやすい
そこで、実際の展示装置の製作にあたっては、これらの問題点に対し、改良を加えてもらった。但し、改良は必要部分のみにとどめ、展示装置の不具合時には、なるべく既製の部品との取り替えですむように考慮した。
 
写真1.新展示「静電気マシン」 写真2.「静電気マシン」の試作品

3.「トランス」
 「トランス」は、現在では交流電流の昇降圧に用いられているが、今回の展示改装では、主にファラデーによる誘導電流の発見という位置づけで導入した。
 「トランス」においても、その鉄芯およびコイルは理科教材として販売されており、このような既製品を使用して試作を行なった。 その結果、電源電圧は3V程度でよく、コイルは一次・二次ともに500回巻きを使用した。 この電源を一次側のコイルにつなぎ回路のスイッチを入れたり切ったりすると、二次側につないだ豆電球が一瞬だけ明るく輝く。 ただし、一次側の回路のスイッチを入れたときと切ったときでは、切ったときの方が明るく輝く。 これは、スイッチを入れたときには、一次側のコイルが大きな抵抗となり、電源から十分な電流が供給できないからである。 これに対し、スイッチを切るときには、物理的に回路を遮断するため、一瞬にして一次側の電流が流れなくなり、二次側の豆電球は明るく輝く。
 このような試作を元に、展示装置を製作したが、実際に展示場に出してみると、スイッチの接触部分が火花放電で導通しにくくなるという不具合が見られた。 現在、スイッチの接触部分が互いにこすれて絶えずきれいになるように改良中である。 しかし、このような不具合は展示装置の使用頻度が非常に高いために起こるのであり、試作品ではそこまで予想できなかった。
 来館者の反応を観察すると、2つのコイルが電気的につながっていないことが、直感としてわかりにくいようである。 また、直接のスイッチ操作に応じて電球が点灯しているのではないが、スイッチ操作と関連しているため、あまり不思議であるとは感じないようである。 このあたりをどのように解決していくか、これからの課題である。
 また、スイッチを切った後の一次側コイルの端子間は感電するおそれがあるため、抵抗でバイパスした。
 
写真3.新展示「トランス」 写真4.「トランス」の試作品