長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告11,79-81(2001)



サイエンスショー「なんでも楽器」実施報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 多くの楽器では、大きさ・長さ・張力などを調節することによって音の高さを変化させている。そこで、2000年9月2日から11月26日まで実施したサイエンスショー「なんでも楽器」では、さまざまなものを使って、どのようにすれば音の高さがどのように変化するかについての実験を行なった。以下に実験内容等を報告する。

1.はじめに
 今回のサイエンスショーでは、「なんでも楽器」というタイトルで、音をテーマに実験を行なった。
 ものにはそれぞれ固有振動があり、私たちはその固有振動を音と感じている。その固有振動は、ものの大きさ・長さや堅さ・張力などによって変化する。例えばギターを普通に演奏する場合には弦の長さを変えて色々な高さの音を出しているが、チューニングには弦の張力を変化させている。また、固有振動には基本周波数の振動だけでなく、倍音・3倍音…などが含まれているが、今回のサイエンスショーでは、なるべく基本周波数の音に限った話だけにした。
 また、多くの楽器には共鳴器があり、その共鳴器の形や大きさによって特定の音がよく響く。このため、この共鳴器のサイズを変化させることによってさまざまな高さの音を響かせることもできる。笛などでは、共鳴器全体の長さは変わらなくても、穴を指でふさぐことで共鳴する音を変えている。

2.実験内容
 サイエンスショーでは、以下のような実験を行なった。ただし、時間的にすべての実験を行なうことは不可能であり、お客さんの層や演示担当者により、実験の選択や順序は異なっている。
(1) いろいろな長さの棒
写真1.水を入れたグラス
 いろいろな長さのアルミニウムや木の棒を叩いた。長い棒を叩くと低い音がして、短い棒は高い音がすることがわかる。また、木琴がこのことを利用していることを紹介。


(2) ワイングラスを叩く
 ワイングラスのように一本足のグラスは、叩いても音の減衰が小さいために、よく音が響く。そこでさまざまな大きさのグラスを用意し、音の高さとグラスの大きさの関係を調べた。しかし、グラスによってガラスの厚みが違うために、比較的大きくてもガラスが厚くて高い音がするグラスもあり、必ずしも小さいグラスほど音が高いというわけではなかったが、おおむねその傾向は見られた。
 尚、グラスは100円ショップで購入した物で、安く、しかも色々な大きさ・形の物を手に入れることができた。


(3) 水をいれたグラス
写真2.水の入ったビンを吹く
 同じ大きさ・形のグラスを多数用意し、グラスに水を入れながら、叩いたときの音の高さを調節した。水を多く入れるに連れ、叩いたときの音は低くなっていくので、水をいっぱいまで入れたときが一番低い音になる。逆に水を入れていない状態で叩くと一番高い音になるので、この範囲の高さの音を出すことができる。また、水で濡らした指先でグラスの縁をこすっても、同じ音階になる。
 なるべく多くの音階が出せるように、カップの部分が大きいグラスを使用したが、それでもさすがに1オクターブの音階を出すことは無理で、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラの6音までであった。
 尚、実験に際しては、あらかじめグラスに水をどこまで入れたらいいのかマジックで小さな印を付けて目印とした。


(4) 水を入れたビン
 グラスと同様に、ガラスのビンに水を入れて叩くと、やはり水が多い方が音が低くなる。
 ところが、このビンに息を吹き込んで霧笛のような音を鳴らすと、逆に水の多い方が高い音になる。この逆転現象は、叩いた場合にはビンと中に入っている水が振動して出る音がメインで効いているのに対し、吹いた場合にはビンの中の空洞(水面より上の空気)で共鳴した音がメインで効いているからである。
写真3.ストロー笛
 但し、叩くか吹くかのどちらかで音階を合わせておくと、もう一方の方法で音を鳴らしたときには、音程がずれてしまう。
 ちなみに、最近では小さなサイズのジュースでも、たいていペットボトルか缶にに入っており、手頃な大きさの透明なガラスのビンが手に入りにくくなっている。ただ、叩いた時の音色がかなり異なるが、ペットボトルでも同様の実験は可能である。


(5) ストロー笛
 (3)と同じように、音が共鳴する部分のサイズによって音の高さが変化するのがよくわかる例として、ストローで笛を作った。このストロー笛を吹きながらハサミで切って短くしていくと、どんどん音が高くなっていく。
 また、曲がるストローや太さの違うストローを組み合わせれば、トロンボーンのようなストロー笛もできるが、ストロー全体が長くなると音を出すのが難しくなるため、実際のサイエンスショーではトロンボーン型ストロー笛は使用しなかった。


(6) パイプホン
写真4.パイプホン
 直径6cmでいろいろな長さの塩化ビニルパイプを並べ一端をブロアで吹くと、ストロー笛と同じように長ければ低い音、短いと高い音がする。またスリッパ等で一端を叩いても、同じように長い方が低い音がする。
 これらの音は、ブロアーで吹いたりスリッパで叩いた時に発生したさまざまな音の内、パイプの長さに応じた音が共鳴してよく聞こえるからである。このため、音源はさまざまな音を含んでいればどのような音でも構わない。例えば、何もせずにパイプの一端に耳をあてれば、周囲の雑音の内、パイプの長さに応じた音が共鳴して聞こえる。ただ、まわりの雑音だけでは音量が小さいため、放送局を合わせていないラジオのスピーカーからのノイズ(ホワイトノイズ)を、パイプを通して聞くと音階がよくわかる。
 尚、使用した塩ビパイプ(直径6cm)には、片方の端にエルボと呼ばれる直角に曲がったパーツを取りつけて使用した。パイプの他端からエルボパーツまでの長さは、
1133mm691mm
989mm600mm
864mm512mm
ファ804mm472mm
とした。


(7) 固有振動モデル
写真5.固有振動モデル
 板バネにスーパーボールを取りつけたものをゆらして、固有振動以外の振動ではほとんど揺れないことを観察。3種類の長さの違う板バネに同じ質量のスーパーボールを取りつけたもの、バネの強度が異なる2本の板バネに同じ質量のスーパーボールを取りつけたもの、同じ板バネに違う質量のスーパーボールを取りつけたものを用意し、サイエンスショーの内容・流れに沿って適宜利用してもらった。


(8) 共振なべ
 「ものが振動して音がでる」ということを、視覚的にとらえるため、共振なべを利用した。これは、水を入れたなべの取っ手を水で濡らした手のひらでこすると低い音が聞こえるが、このときなべが振動し、水しぶきが上がるというものである。
3.考察
写真6.共振なべ
 今回のサイエンスショーでは、基本周波数の音だけに限り、倍音や3倍音などの音については触れなかった。しかし、長い物の方が低い音になる、グラスに水を入れれば低い音になるといったことはほとんどの観覧者は既に知っており、驚きが少なかった。
 逆に、単純な例として長さの違うアルミ棒を用意しようとしたが、直径1cm程度のアルミ棒をさまざまな長さに切って叩いてみたところ、音の高さの順と長さの順が必ずしも一致しなかった。これは、叩いたときの音には基本周波数の音以外に、倍音や3倍音などの高音が含まれており、そのうちどの音がよく聞こえるかといったことで、長さの割りに高く聞こえることがあるからだと考えられる。しかし、なぜそのように特定の倍音だけが強く現われるのかはよくわからなかった。
 このように、サイエンスショーの内容としては比較的単純な内容になってしまったが、どんな高さの音がでるかについては、以外と複雑で難しいものであった。