長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告14,63-66(2004)



さまざまな製品を資料とした周期表の試作


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 展示改装基本計画に関連して、身近な製品と元素を結びつける展示を試作した。今回は最終的な形が周期表ではなかったが、周期表のひとつの形として有効な方法であったと思われるので、試作した展示、および周期表としての可能性を報告する。

1.はじめに
写真1.試作した展示
 当館の展示場4階に周期表の展示があり、可能な限り各元素の単体を展示している。周期表は学校の理科でも登場するためか、資料展示の中では比較的人気の高い展示となっている。しかしながら、読むのすら難しい元素名などが並んでおり、学校の理科で覚えさせられたといった負のイメージも拭えない。
 そこで、元素をもっと身近に感じる展示として、各元素を特徴的に使っている製品を集め、周期表の形にする事を考えた。ただし、今回は周期表全体ではなく、50種類の元素に限って展示した。

2.展示内容
 現在、人工元素を含め、全部で115種類の元素が知られている。この内、放射性元素や人工元素を除くと81種類であり、その多くはさまざまな形で私たちの暮らしに使われている(一部の放射性元素は、夜光塗料や蛍光灯の点灯管などに使われている)。
 当初、周期表全体を展示することを考えたが、周期表の下の方の段は放射性元素や人工元素が並んでおり、またそれ以外の元素でも、身近なものにはほとんど使われていない元素も多い。そこで、一部の元素に限って展示することにしたのであるが、元素を絞る方法として、原子番号の順や人体に多く含まれる元素、クラーク数の順などを考えた。この中で、比較的身のまわりでよく使われている元素が多くなることなどから、クラーク数の順で展示することにした。
 クラーク数は、地球化学者のクラークが提唱した地下10マイルまでの地殻および海・大気における各元素の存在量(重量)順位であり、今回、クラーク数が1〜50の元素について展示した。クラーク数が提唱されたのが1924年であるために、正確に地殻および海・大気に多く含まれる元素を表わしているわけではないが、おおむね私たちの身のまわりに多い元素の順になっていると思われる。
 展示した資料は表1の通りであり、元素によっては資料の製品を4点展示することができたが、資料が1点しかなかった元素が18種類、全くなかった元素が12種類あった。全く資料がなかった元素については、資料の代わりに「はずれ 残念ながら身近なもので○○原子をつかったものはありませんでした」と書いた札を入れた。
写真2.半透明な引き出しに入れた資料
 また、クラーク数の順位で展示することから、展示の名称を「原材料:地球」とした。この名称には、我々人類は地球(地表付近)にあるものを利用してきており、化学反応をさせても原子の組み合わせが変わっているだけで、原子そのものは地球にあるものを使っているという意味を込めた。
 資料の展示方法については、なるべく資料をさわることができるようにしたかったため、展示ケースに閉じこめる方法はとらなかった。当初、オープンな棚に並べることも考えたが、最終的に、半透明な引き出しに入れて展示することにした。また、展示資料は全て引き出しから出してさわることができるようにし、包丁など危険な資料については、今回展示しなかった。
 各引き出しの横には、元素名および元素記号を記した丸印を書き、丸印の色は元素によって違う色にした。ただ、元素の色については、炭素は黒、酸素は赤、水素は白(もくしは水色)というように決まっていると思われがちだが、特に取り決めがあるわけではなく、一般に共通して使われる色が決まってる元素もほんの一部である。そこで今回は、各元素のイメージをある程度尊重しながら、適当に色を割り当てた。
写真3.資料に取り付けたタグの例
 それぞれの資料には、「塩素原子がつかわれている漂白剤」や「マグネシウム原子がふくまれているにがり」というように、特徴的に使われている(含まれている)元素名と製品名を記し、その下にはその元素が使われている理由・その元素の特徴など、その製品と元素についての解説を書いたタグを結びつけた。また、タグの裏面には分子模型(または結晶構造)の絵を入れる予定であったが、調査が十分できなかったため、今回は割愛した。

3.考察
 展示方法として半透明な引き出し型にすることで、いくつかのメリット・デメリットが見えてきた。メリットとしては、何が出てくるのだろうという期待感をそそる(特に、引き出しが半透明であるために、外からうっすら見える)、資料が別の引き出しにしまわれるということがほとんどなかったことがあげられる。一方デメリットとしては、引き出しを開けなければ何の展示かわからない、小さな子どもには上段の引き出しを開けたり中の資料を取り出すことができない、数の圧倒感に欠けるといったことがあげられる。展示の高さについては、今回、既製の引き出しを流用したため、引き出しが深く、全体に高くなってしまった。さらに、引き出しという形態は上から見たり取り出したりすることもあり、子どもには見づらい高さになってしまった。また、製作途中で資料を机の上に並べている時点では、非常に資料点数が多いと感じていたが、引き出しの中にすっきり収まってしまうと、数の圧倒感はなくなってしまった。
 元素を身近に感じてもらおうということで、今回、中に入れる資料は、身近な製品に限った。例えば、イットリウムの引き出しに高温超伝導体や、サマリウムの引き出しにサマリウムコバルト磁石などを入れることも可能であったが、身近なものではないということで今回は入れなかった。このため、どの引き出しを開けても知っているものしか出てこないというデメリットもあった。
 周期表の形をとらずクラーク数の順に並べたが、クラーク数の説明も控えめだったため、周期表を知っている人からは、何の順にならんでいるんですか?という質問もあった。また、よく知られている元素でも、クラーク数の1〜50に入っていないものもあり、金や銀はどこ?と聞かれることもあった。
 これらのことを考えると、やはりこの展示は周期表の形にするのが自然であると考える。ただ、何も資料のない元素は極力少なくする必要はあるが、身近な製品に限らなくてもよいと考えれば、かなりの多くの元素が埋まるのではないかと思われる。あまり知られていない製品であっても、こんなところで使われているとか、なぜそんな製品があるかといった解説を加えることで、資料を活かすことが可能である。また、ほとんどの放射性元素や人工元素には入れる製品がないので、最初から引き出しにせずに元素名の由来などの解説パネルにするのが適当だと思われる。

 尚、この展示の試作にあたっては、小野昌弘学芸員・岳川有紀子学芸員と共に企画・製作を行なってきましたが、代表して長谷川が報告しました。

表1.「原材料:地球」で展示した資料
クラーク数元素名展示資料
1
酸素
 酸素ボンベ
2
ケイ素
 ガラス製品(ジョッキ)
 LSI
3
アルミニウム
 アルミ鍋
 アルミホイル
 アルミ缶
3
 フライパン
 釘
 スチール缶
5
カルシウム
 貝殻
6
ナトリウム
 塩
 うまみ調味料
 石鹸
7
カリウム
 低ナトリウム食卓塩
 マッチ(頭薬)
 肥料
8
マグネシウム
 にがり
 肥料
9
水素
 水
10
チタン
 めがねフレーム
 くもり止めシート(光触媒)
11
塩素
 漂白剤
 塩ビパイプ
12
マンガン
 マンガン電池
13
リン
 マッチ箱
 肥料
14
炭素
 炭
 脱臭剤(活性炭)
 ガラス切り
15
硫黄
 湯の花
16
窒素
 虫さされの薬
17
フッ素
 フッ素樹脂加工フライパン
 歯磨き
 防水スプレー
18
ルビジウム

19
バリウム
 レントゲン造影剤
20
ジルコニウム
 セラミック製のハサミ
21
クロム
 ステンレス製品(スプーン・ボルト・ナット)
22
ストロンチウム
 花火
23
バナジウム
 ドライバー(Cr-V鋼)
24
ニッケル
 50円玉
 ステンレス製品(スプーン)
 電池(ニッケルマンガン電池)
 充電式電池(ニッカド電池・ニッケル水素電池)
25
 排水口の網
 延長コード
 ケトル(やかん)
26
タングステン
 電球
 ルアーのおもり
27
リチウム
 リチウム電池
28
セリウム

29
コバルト
 ビタミンB12
 油絵の具(コバルトブルー)
30
スズ
 杯
 無鉛ハンダ
 ブリキのおもちゃ
31
亜鉛
 トタンの波板
 空気亜鉛電池
 真鍮製品(ヒートン・南京錠)
 5円玉
32
イットリウム

33
ネオジム
 ネオジウム電球(ガラスが青い電球)
34
ニオブ

35
ランタン

36
 釣りのおもり
 X線防護袋(フィルムの感光防止)
 はんだ
37
モリブデン
 ドライバー(Cr-V-Mo鋼)
38
トリウム

39
ガリウム
 青色発光ダイオード
40
タンタル

41
ホウ素
 ホウ酸だんご
 目薬
 耐熱ガラス(鍋)
42
セシウム
 電波時計
  ※電波時計にはセシウムは使われていないが、電
    波時計が示す時刻のもとになっている原子時計
    に使われているという断わりを入れて展示
43
ゲルマニウム
 初期のトランジスタラジオ
44
サマリウム

45
ガドリニウム

46
臭素
 写真の印画紙
47
ベリリウム

48
プラセオジウム

49
ヒ素
 赤色発光ダイオード
50
スカンジウム