長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告14,151-(2004)



夏休み自由研究「望遠鏡づくりにチャレンジ」実施報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 2003年の夏休みの教室では、夏休み自由研究と銘打って3つのテーマに関する教室を行なった。その中の一つ、「望遠鏡づくりにチャレンジ」を担当し、安価で簡単に望遠鏡を作る方法などを模索したので、教室の内容を含めここに報告する。

1.はじめに
 2003年度夏休み自由研究「望遠鏡づくりにチャレンジ」では、夏休み前半に実験を交えながら望遠鏡の仕組みの解説・簡単な望遠鏡の作成を行なう教室を開き、さらにその参加者に対して、夏休み後半に解説教室を行なった。解説教室では、夏休み中に作った望遠鏡を参加者が持ち寄り、各自が工夫した点を紹介したり、参加者の疑問点に答えるなどした。

2.実施日時・参加者数
 2003年7月31日(木)11時〜12時30分参加34名
  14時〜15時30分参加31名
 解説教室
 2003年8月28日(木)14時〜15時30分参加12名

3.内容
 当日は、ピンホールで景色を映し出す実験から始め、以下のような流れで進めた。
 
3-1.ピンホールによる像
 工作室の窓を段ボールで覆い、1ヶ所だけ小さな穴をあけて、外の景色をトレーシングペーパーに映し出し出した。当日は良く晴れていたために、外の景色がよく映った。また参加者の中から数名に外へ出てもらい、ピンホールの前で動いてもらった。ピンホールを小さくすると像はシャープになるが暗くなり、大きくすると明るくなるが像がぼやけることを実験した。
 
3-2.凸レンズによる実像
写真1.使用したレンズ
 次に、大きなピンホールにレンズをあてると、明るいまま像が非常にシャープになることを実験した。しかし、レンズを使用すると、対象物の距離によってピント位置が異なり、ピント合わせが必要になることも実験した。
 
3-3.レンズを組み合わせる
 望遠鏡は、3-2のトレーシングペーパーに映った像をルーペ(接眼レンズ)で拡大したようなもの(実際には、空中の実像を接眼レンズで見ているので、トレーシングペーパーは無い)であること、望遠鏡はレンズを組み合わせていて発明されたことを話し、実際に遠くのものが大きく見えるかどうか試してもらった。老眼鏡やルーペを参加者に配布し、どのようにレンズを組み合わせると遠くのものが大きくはっきり見えるのかしばらく試行錯誤している内に、望遠鏡になる組み合わせを見つける参加者も現われた。
 
3-4.簡単な望遠鏡の製作
写真2.当日製作した望遠鏡
 レンズを組み合わせると望遠鏡になることを確認した上で、望遠鏡を製作した。教室当日に作成する望遠鏡は、短時間でできる非常に簡単なものとした。
 材料は、黒画用紙2枚、度数3.0の老眼鏡のレンズ、ルーペ、セロハンテープのみである。まず、黒画用紙1枚で筒を作りセロハンテープで固定する。さらに、この筒のまわりにもう一枚の画用紙を巻き、もうひとつ筒を作る。この2つの筒は望遠鏡の鏡筒とドロチューブになる。片方の筒には老眼鏡のレンズを、もう一方の筒にはルーペをセロハンテープで固定する。この2つの筒を差し込むことで望遠鏡となり、筒の抜き差しでピントの調整も可能である。
 
3-5.自由研究のためのヒント
 夏休みの自由研究として追加の材料を渡したり、ここからさらに発展させていくためにどのような点に注目すればいいかヒントを出した。
 追加材料としては、度数の違う老眼鏡のレンズ3枚(度数1.5、1.0、0.5)を渡した。また自由研究のヒントとしては、倍率について、望遠鏡らしい外観や架台について、倒立像にならないようにするにはという点について簡単な話をした。
写真3.見本として作った望遠鏡
 また、対物レンズに度数1.0の老眼鏡のレンズを用い、鏡筒は塩化ビニルのパイプなどで作り、長さ1mあまりで外観も望遠鏡らしくしたものを見本として見せた。
 
3-6.解説教室
 前半の教室の後、各自が製作した望遠鏡を持って、再び集まってもらった。参加人数は、前半の教室が計65名参加したのに対し、解説教室への参加は12名にとどまったが、中には解説教室の当日に用事があるとのことで、別の日に自作の望遠鏡を持ってきた参加者もいた。
写真4.鏡を組み合わせた正立プリズム
 解説教室を行なうにあたって、度数0.5の老眼鏡のレンズを用いた長さ2mあまりの望遠鏡や、鏡を組み合わせた正立プリズム、ルーペを組み合わせた正立の接眼レンズを用意した。
 参加者が持参した望遠鏡で多かったのは、筒の材料を食品用ラップの筒や塩化ビニルのパイプを使って丈夫にしたものや、さらに外側にきれいなデコレーションを施したものであった。さらに、対物レンズと接眼レンズの間に、もう1枚凸レンズを加えることにより、正立像が見えるものもあった。これは、中間に入れたレンズと接眼レンズが、正立の接眼レンズになっているのであるが、さらにこの2つのレンズを独立して動かすことができるため、ズーム機能も備えるものであった。

4.考察
 今回、望遠鏡の材料のレンズとして、対物レンズには老眼鏡のレンズ、接眼レンズにはルーペを用いた。どちらもいわゆる100円ショップで入手したもので、レンズ代が望遠鏡一組分で150円と、非常に安価に押さえることができる。
 対物レンズに用いた老眼鏡はさまざまな度数、つまり焦点距離の異なるものが販売されている。さらに老眼鏡の度数は、焦点距離(m)の逆数であるために、望遠鏡の設計に応じて簡単にレンズを選ぶことができる。
 接眼レンズに用いたルーペは、レンズ1枚で焦点距離が約4cm、レンズ2枚で約2cmと短く、高倍率を得やすく、レンズの枚数で倍率も変えることができた。しかし、大手の100円ショップではこのタイプのルーペを置いておらず、比較的焦点距離の長いルーペしかなかった。
 今回作成した望遠鏡は、安い材料で簡単に作ることができるだけでなく、遠くの風景を大きくして見るのには十分なものであった。しかし、天体を見るようとすると、レンズの精度が十分ではなく、性能不足であった。ちょうどこの夏は火星大接近が話題になっていたため、実際に対物レンズに度数1.0の老眼鏡のレンズを用いた望遠鏡で火星を見てみたが、火星そのものが恒星とは違って少し面積があるように見えるかなという程度であり、模様を識別することは全くできなかった。他に、月や土星も観察してみると、月は比較的大きなクレーターが何とか確認することができたが、土星は丸形でないような気がするという程度であった。

5.テキスト
 教室の当日に配布したテキストを次ページ以降に掲載する。ただし、テキストは教室の進め方に沿って4ページずつ配布し、後で綴じる形式にした。また、テキストには、教室の時間内に観察して気がついた点などを書き込むスペースもあけておいた。