長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告15,181-184(2005)



サイエンスショー「見えたり、見えなくなったり」実施報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 これまで、光の性質を取り上げるサイエンスショーとして、1999年3月〜5月の「ひかり・ぴかり・きらっ」および2003年3月〜5月の「虹でさぐる光の世界」を行なった。 これらのサイエンスショーでは主に分光についての実験を行なったが、分光以外の光に関する実験もサイエンスショーで取り上げたいと考えていた。
 そこで、2004年9月1日〜11月28日のサイエンスショーでは、「見えたり、見えなくなったり」というタイトルで偏光に関する実験を行なった。 ここで、その内容等について報告する。

1.はじめに
 2003年春にサイエンスショー「虹でさぐる光の世界」を行なうにあたり、分光に関する実験だけでなく、偏光に関する実験もいくつか用意した。 しかし、限られた時間のサイエンスショーで「分光」と「偏光」という大きく異なるふたつのテーマを盛り込むことは見学者の混乱を招くことになる、偏光の概念を伝えるのに5分や10分では不十分である、といった意見もあり、「虹でさぐる光の世界」ではテーマを分光に絞った。
 今回、偏光をテーマに取り上げるにあたって、「虹でさぐる光の世界」の予備実験の段階で用意した「ブラックウォール」「セロハンテープでステンドグラス」「計算の見えない電卓」だけでなく、さらに実験を増やしたり解説道具を用意してストーリーを組み立てた。

写真1.ブラックウォール
2.偏光とは
 光には波の性質があるが、波といっても海の波よりも、長く伸ばしたロープを振って、揺れが伝わっていく様子の方が、偏光の概念がわかりやすい。 ロープを上下に振れば、上下に揺れるのが伝わっていき、左右に振れば左右に揺れるのが伝わっていく。 光の場合、揺れが伝わっていく方向(張ったロープに沿った方向)が光が進む方向に、ロープを振る方向が電場の振動方向に相当する。
 自然界の光はいろいろな方向に偏光した光が重なり合っており、偏光板はその中からある方向の偏光成分だけを通す。 このため、2枚の偏光板を、90度向きを変えて重ねると、縦偏光の成分も横偏光の成分も通さなくなるため、まっ黒になる。

3.実験内容
 サイエンスショーでは、主に以下のような実験を行なった。 ただし、演示担当者や見学者層により、実験の選択や順序は異なっている。
(1) ブラックウォール
 まず導入として、ブラックウォールと呼ばれる偏光板で作った筒を見せる。 この筒は、上半分と下半分で偏光板の向きを90度変えるてあるために、筒の真ん中に黒い膜が張ったように見える。 実際には筒の真ん中には何もないため、この筒にピンポン球を通し、来館者に不思議であることを感じてもらう。


(2) 偏光板の配布
 (1)のブラックウォールの材料と同じ材料であることを言って、3cm×4cm程度の偏光板を見学者に配布した。 このように、実験に使用する道具を見学者全員に配布・回収する方式は以前にも「ひかり・ぴかり・きらっ」「虹でさぐる光の世界」で回折格子レプリカフィルムの配布を行なっており、多少手間がかかるものの非常に効果が高いことがわかっている。 回折格子レプリカフィルムは、袋に入れ、スライドマウントに挟み、返却を促すシールを貼ったものを配布したが、今回配布した偏光板は厚さが0.74mmと分厚いものだったので、角を丸くし、回収を促すシールを貼るだけで、マウント等は使わなかった。 なお、回収率は99%程度(見学者が100人の場合に紛失が1枚程度)であった。
写真2.配布した偏光板 写真3.偏光板を通して見たブラックウォール
 偏光板を配布し、偏光板を通して向こう側が見えることを説明すると、見学者の中で少しずつブラックウォールの筒が半分だけ黒く見えることに気付きはじめた。 さらに、偏光板の向きにより、筒の反対側半分が黒く見えることにも気づきはじめる。 このように、なるべく見学者自身が現象を発見するように心がけた。


(3) 光弾性
 一旦ブラックウォールは片づけ、大型のライトボックスに偏光板をかぶせたものを用意した。 見学者が手持ちの偏光板を通して見ると、手持ちの偏光板の向きによって、ライトボックスがほとんどまっ黒に見えたり、普通に明るく見えたりする。 このライトボックスにかぶせた偏光板に、セロハンテープを斜めに貼り付けると、まっ黒に見えていたライトボックスが、セロハンテープの部分だけ明るく見えるようになる。 さらに、荷造り用の幅広透明テープを貼ると鮮やかな色に見え、テープを重ねたり、手持ちの偏光板を回転させると、色が変化して見える。 ここで、色がついて見えるのは手持ちの偏光板とライトボックスにかぶせた偏光板の間に貼ったときであり、ライトボックスにかぶせた偏光板の向こう側にテープを貼っても変化がないことも示した。
写真4.テープを貼った偏光板 写真5.「偏光ステンドグラス」
写真6.ガラスコップ(左)とプラスチックコップ(右)
 また、 展示場3階に、偏光板を通して見るとさそり座やてんびん座の星座絵がカラフルに見える「偏光ステンドグラス」を展示していたが、サイエンスショー「見えたり、見えなくなったり」実施期間中は展示場からはずし、サイエンスショーの中で見せた。
 他にも、偏光板をかぶせたライトボックスに、いわゆるコンビニ弁当の蓋やCDの透明ケースなどをかざしたり、ガラス製のコップとプラスチック製のコップの比較、透明プラスチック製L字アングルをねじったり、ビニール袋を引っ張って伸ばしすなどを行ない、透明なプラスチックに色がついて見える光弾性を見てもらった。
 他にも、玉子のパックやペットボトルなども光弾性が起こるが、細かい縞模様になってしまうため、多人数を対象とする演示実験には向かなかった。


(4) 偏光板とは何か?
写真7.魚焼きの網と鯛の絵を使った解説
 ここで、そもそも偏光板とはどのようなものであるのか、魚焼きの網(持ち手が付いた縦の格子)を用いて解説した。 矢印に鯛の絵を貼ったものと平目の絵を貼ったものを用意し、魚焼きの網を縦にするか横にするかで、鯛が通ることができるか平目が通ることができるかを考えてもらった。 つまり、光の偏光面を魚の体の広がりで例え、縦偏光の光を鯛、横偏光の光を平目で表わした。 さらに、魚焼きの網を2枚にすると、重ね方によって鯛も平目も通れなくなることを示した。
 このような解説をした上で、自分の手持ちの偏光板と隣の人の偏光板を重ねることで、偏光板を同じ方向で重ねたときと、90度回転させて重ねたときの違いが、魚焼きの網での解説と同じであることを確認してもらった。
 また、セロハンテープなどは光の偏光面を変化させ、重ねる枚数や光の色によって変化の具合が異なることから、偏光板の間に貼ることで色がついて見えたことを簡単に解説した。


(5) ブラックウォールのしくみ
 ここで再びブラックウォールを出し、どのように偏光板を組み合わせているのか考えてもらった。 その上で、目の前で偏光板から筒を作ることで、何もない所に黒い膜のようなものが現われることを見せた。 また、太いブラックウォールの筒も用意し、横から見ると黒い膜のようなものが見えても、筒の中を覗くと何もないことも見せた。


(6) 偏光メガネ
写真8.3D映画用偏光メガネ
 偏光板が使われている例として、3D映画用の偏光メガネを掛けてみせた。 大阪では、サントリーミュージアム天保山のIMAXシアターや、ユニバーサルスタジオジャパンのアトラクションなどで使用されている。 このタイプの偏光メガネは、偏光板を斜め45度にして使ってあり、また、右目と左目では偏光板の向きが90度ずれているため、手持ちの偏光板を通してみると、右目がまっ黒に見えたり、左目がまっ黒に見えたりする。
 また、釣り道具店で売られているサングラスにも、偏光板を用いたものが多い。 こちらは水面での反射光をカットするためのものであり、横偏光の光を通さない向きに偏光板が使われている。 そこで、展示ケースの上面のガラスに映る蛍光灯の光が、手持ちの偏光板の向きによってどう変化するかを見てもらい、この偏光メガネが釣り道具店で売られている理由を説明した。 さらに、ガラス表面で反射した光が偏光することから、「偏光ステンドグラス」をガラスに映すと偏光板がなくても色付いて見えることも示した。


(7) 液晶
写真9.偏光板を取り外した液晶時計
 もっと身近に偏光板が使われているものとして、液晶パネルがある。 広告のディスプレイに用いられると思われる10cm角程度の液晶パネルを用意した。 通常、偏光板が付いた状態では、電源を繋ぐと透明になったり黒くなったりするものであるが、偏光板を取り外し、偏光板をかぶせたライトボックスの前で見てもらった。 これが液晶というものであると説明し、偏光板を取り外した液晶時計も見てもらった。


4.考察
 今回、テーマを偏光に限ることで、20分間のサイエンスショーとして成り立つのかどうか不安であった。 ところが、実際には20分に収めるのが難しいほどの内容となった。
 また、このサイエンスショーは11月7〜8日に日立シビックセンターで行なわれたサイエンスショーフェスティバルでも実演した。 その講評でも、ひとつのテーマに絞っているのに実験が豊富であったこと、サイエンスショーの進め方は比較的淡々としていたが、見学者の興奮が高かったといった評価をいただいた。 しかしながら、普段とは異なる環境での演示は難しく、特に見学者席の一番後ろまでがふだんの2倍以上もあったことや、舞台の背景が黒幕だったために、見学者から見づらい実験があったとの指摘も受けた。
 現象の面白さから見学者にはかなり評判の高いサイエンスショーになったと思われるが、その一方で偏光の概念を伝えるのは難しかった。 また、セロハンテープを斜めに貼ると色がついて見える現象が何故起こるかを正しく理解するのは案外難しく、限られた時間、幅広い見学者層を考えると、サイエンスショー内で伝えることは不適当であると考えた。 逆に、友の会例会など、対象や時間によっては面白い話題であるので、コンピュータソフトを用いた解説を試みた。 これについては別に報告する。