ほぼ毎月書いている(連載当事)「周期表の旅」。稚拙な文章でうちゅうを汚しておりますが、書くに当たって、いろいろ調べもものをしているとあれも書きたいこれも書きたいとなってきます。今回は、そんな中、鉛を取り上げましたが、これについても毒性がどうだこうだとたくさん出てきましたので、鉛について紹介しきれなかったものをここで取り上げました。決してついでに書いてるわけじゃありません。いえ、ホントに…。

鉛の毒
周期表の旅のPb にも記しましたが、鉛はローマ時代に水道管として使われていただけでなく、古くから医薬品や顔料などとして鉛白
2PbCO3・Pb(OH)2、密陀僧PbO、鉛丹Pb3O4が使われていました。 古代から使われていた鉛ですが、どんな毒性を有しているのでしょうか。基本的に鉛は常温の空気中ではその表面に酸化皮膜をつくり安定な物質ですが、何らかの形で体内に入ると主に以下のような症状が現われます。


  鉛による主な症状
  ・消化器系障害  初期症状では、食欲減退、食後胃部不快感等がおこる。 突然痙攣性の腹痛がおこる鉛仙痛もおこる。
  ・血液障害  血色素の合成過程を鉛が阻害するため貧血がおこる。顔が青白 くなり鉛蒼白とも呼ばれる。
  ・神経障害  初期症状ととして、筋肉・関節痛、筋力低下などがおこり、伸 筋麻痺などがおこる。さらに中枢神経障害として、
           嘔吐、昏睡、 けいれん発作等をおこす鉛脳症がおこる。



体内に入り鉛イオンを生じるものはすべて有害で、リン酸鉛Pb3(PO4)2として骨に蓄積されます。その結果として慢性的な症状が現われるようになります。 現在では、鉛をそう簡単に摂取することはありませんが、車のガソリンやペンキ等の顔料に含まれる鉛が大きな問題になったことがありました。 ガソリンについては、現在無鉛ガソリンが販売されていますが、1970年代までは有鉛ガソリンが販売されていました。何故ガソリンに鉛を入れていたのか?これは、ガソリンの不完全燃焼によっておこるノッキングを抑えるためです。ガソリンに四メチル鉛Pb(CH3)4や四エチル鉛Pb(C2H5)4などを添加するとガソリンのオクタン価が上がりノッキングしにくくなるのです(このオクタン価などについては別の機会に解説します)。そして、燃焼したガスには当然鉛が含まれていますので、大気を汚染していました。日本では、1975年にレギュラーガソリンについて、これらアルキル鉛の添加を禁止しています。またEUでも一部地域を除いて2000年1月1日から有鉛ガソリンの販売を禁止しています。 顔料での問題では、鉛白などの鉛を含む塗料を使用したこども用のおもちゃなどの塗料をこどもがなめたり、はがれた塗料を食べるなどして体内に取り込むなどして上述の鉛中毒があらわれます。特に学校や公園の遊具が問題のようです。こちらは、玩具に使用する鉛の規制があるのですが、塗料についてはなまりの規制がありません。何らかの対策が必要ではないかと現在も問題になっています。


動物の鉛中毒
人間以外でも鉛中毒はおこり、周期表の旅に書いたように、北海道ではオオワシなどの被害、また欧米では動物の鉛中毒は珍しくなく、牛や子犬などに多く現われます。これらは、鉛管や鉛板を使用した設備工事などで出てきた鉛の切れ端を金属の嗜好性がある牛が口にすることで中毒をおこすのです。他にも自動車のバッテリーに入っている硫酸にも鉛が溶けています。バッテリーを廃棄するとききちんと処理しないとその硫酸中に非常に多量の鉛イオンが含まれており、牛やブタは硫酸水などを飲むことにあまり抵抗を感じないそうで中毒になりやすいのです。


 動物の鉛中毒に関する特徴
  ・幼若動物は感受性が高く中毒になりやすい
  ・牛・馬・犬は鉛対する感受性が高く、ブタ、ニワトリなどは低い
  ・ 金属鉛は鉛化合物に比べて安全だが、牛は反芻胃の内部に金属鉛が滞留しやす胃 酸により溶解し中毒をおこす。
                                                「健康と元素」千葉百子編 (1996)より一部抜粋


水中の鉛
 鉛は当初水には溶け出さないという説が一般的でした。それは、― 水中に酸素と二酸化炭素が共存すると以下のような反応がおこる。 Pb+H2O+2CO2+1/2O2 → Pb(HCO3)2 ここでできた重炭酸塩は水に溶け出すが、ほとんどの水は硬度があり、Ca(HCO3)2やCaSO4などを含んでいるため、これらと反応すると塩基性炭酸塩や、硫酸鉛が皮膜としてできる。この化合物は難溶性塩のため、鉛の溶解がおこらない…。 しかし、最近の分析機器の性能が上がってきたため、実際には、鉛の水道管を使っていると水中に鉛イオンが検出されるようになり、水道管は現在ステンレス管等におきかわっています。 今回は、周期表の旅で紹介しきれなかった内容でしたが、例えば「ヒ素」なども周期表の旅と、このテーマで取り上げたい元素です。次回は、「ヒ素」の話にいたしましょう。


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