サイエンスショー「電池のヒミツ」実施報告 小 野 昌 弘 概 要 2010年3月~5月期においてのサイエンスショーは、電池に関する内容で実施した。基本的には、2005年に行った電池の実験と同じ内容だが、新しい実験及び、改良点があるので、それらを中心に本報告を行う。 1.はじめに 1800年にボルタが製作した電池の発表をしたことにより、電池の歴史が始ったが、このサイエンスショーでは、その電池の仕組みを紹介するとともに、身近な道具を用いた、電池作りの実験を紹介した。その中で、電池は、化学反応によって、電圧を発生し、電流を取り出せるものという解説を行った。本稿では、改良点を加えた部分について述べ、過去と同じ内容については、以前の研究報告誌に譲る。 2.改良実験ならびに新実験内容 (1)ボルタ電池(改良) ボルタ電池は、亜鉛板と銅版の間に電解質を介在させることで作られたものだが、これまでの実験では、タオルを板材の大きさに合わせたものを使用してきた。今回は、厚さ約5㎜のセルローススポンジに部材を変更し、実験を行った。 このセルローススポンジを使用することにより、塩水で作った電解質溶液を充分含ませることができるようになった。また、セルロースの厚みが適当であるため、銅板と亜鉛板同士の接触がなくなり、ショートして電池にならなくなるという失敗がなくなった。(図1) 図1.使用したセルローススポンジ(左)と金属板で挟んだ状態(右)。 程良い厚みのため、金属坂どうしの接触がなくなる。 (2)人間電池(改良) これまでの人間電池の実験では、アルミ缶とスプーンを利用して実験をしていた。しかし、アルミ缶は、表面に樹脂皮膜がコーティングしてあり、その皮膜を取る手間がかかっていた。また、空のアルミ缶を使用していたため、実験参加者に握らせると、どうしてもつぶれてしまい、定期的に新しい缶を用意しなければならないという問題もあった。今回は、そのような手間隙を省略するため、市販のアルミホイルをそのまま利用することとした。芯棒があるため少しくらいの力をかけても、つぶれることがなく、またアルミが汚れるなどした場合に、新しい面をすぐ取り出すことができる。コスト的にも、1本100円もせず購入できるので、非常に便利な素材として使うことができた。 また実験方法においても、アルミとスプーンをこれまでは、ワニ口クリップで接続していたが、今回はクリップを介さず、直接アルミホイルとスプーンを触れさせるようにした。そのため、クリップを付ける手間隙がやはりここで省略でき、実験の流れもスムーズになった。 ただし、子ども達に実験をさせる場合、動いてしまうため、アルミホイルとスプーンが離れてしまうことがあるため、しっかりくっつけておくよう、指導する必要はある。 (3)燃料電池 将来に向けてその利用が期待されている燃料電池の原理実験を今回取り入れた。電極及び酸素と水素を溜め込む素材として、今回は備長炭を使用した。電導性に優れるだけでなく、非常に細かい穴をその中に有するため、電極兼ガス充填材として利用できる優れものである。大型の洗濯ばさみにアルミ製のテープを巻き、備長炭をそこに挟めるようにした。そして、電解質溶液は、薄い塩水を利用した。 図2-1.電極とする備長炭を挟み込む。 大型の洗濯ばさみにアルミテープを巻き、導通できるようにしたもの 塩水を入れた容器の中へ、備長炭を2本入れ、そこへ約10Vの電圧をかけた。電流値は約2Aで、約5分後には、充分な水素と酸素を備長炭の内部に取り込ませることができていた。ほぼ理論値どおりの1.1~1.2Vの電圧が取り出せるので、電子オルゴールを鳴らすことや、モータを使った回転塔を動かすことができた。塩水が濃い場合(重量濃度1%以上)には、塩素が発生し、刺激臭を発生する場合があるので、濃い塩水を使用する場合は、せまい空間で電気分解しないほうが良い。 図2-2.電気分解をしているようす。 (4)96V電池(改良) 今回から、白熱電球を電池で点灯させるようにした。これは、導通を確認せずアーク放電をさせる場合、接触不良により、カッターの刃を溶解させることができず、しばしば、導通確認をすることで、実験の流れがともまってしまうことがあった。 その改善の意味と、白熱電球が電池で点灯するという、普段は行わない現象を見学者に見せることができるという2点の目的から導入したものである。 3.屋井先蔵の紹介 本サインスショーでは、日本で乾電池を発明した屋井先蔵についても簡単に紹介した(図3)。 屋井は、電池の発明者ボルタに対し、そのウェットな状態のやや使いにくい初期の電池を改良し、持ち運びに便利にした人物である。現代の乾電池の発明者であるが、世界的な特許を押さえられなかったなどから、その業績並みに評価が得られていない人物である。残されている資料も少なく、今回は、社団法人電池工業会から資料をお借りし、屋井の顔写真などをサイエンスショーで使用させていただいた。 ![]() ![]() 図3.屋井先蔵と屋井電池 4.備長炭電池キットの作成・販売 本サイエンスショーの中で行った備長炭電池実験のキットを製作し、当館のミュージアムショップで販売した(図4)。 ◆キット内容 ・備長炭 2本 ・電子オルゴール 1個 ・ワニ口クリップ付きリード線 1本 ・解説書 図4.備長炭電池キット 実験を見るだけでなく、実際に行ってみたいという人のために、キットを製作した。それぞれの単価が高く、1キット1,300円と当館の商品としてはやや高めの値段設定になったが50セットを用意し、販売した。サイエンスショーでの実演しながらの販売促進効果は高く、売れ行きは順調で、完売となった。 謝辞 今回のサイエンスショーを実施するに当たって、社団法人電池工業会より資料をお借りしました。 この場を借りて、改めてお礼申し上げます。 参考文献 ・小野昌弘 「サイエンスショー電池の実験実施報告」大阪市立科学館研究報告15(2005) ・「日本乾電池工業史」 日本乾電池工業会 (1960) |