サイエンスショー「電池の実験」実施報告
小野昌弘
大阪市立科学館学芸課



概要
乾電池はいたるところで使われているにもかかわらず、その原理についてはあまり理解されてはいない。そこで電池原理を紹介する演示実験を開発・実施したのでその内容を報告する。


1.はじめに
1899年にイタリアの物理学者アレッサンドロ・ヴォルタが電池を発明して200年ほど経過し、現在さまざまな電池が使われている。今回のサイエンスショーでは非常に身近にありながら、その中身についてあまり知られていない電池の原理を理解してもらうサイエンスショーを行った。 なお、演示者により実験内容や演出が異なる点があるが、筆者の演じた内容について報告する。


2.実験内容
(1)静電気の実験 プラスチックコップの外側にアルミ箔を巻き付けたものを2つ作り、重ね合わせるとコンデンサー(ライデンびん)ができあがる。そこに、アルミ箔で作った長さ3cm位のベロをだしておく。 そのベロの近くで塩ビのパイプをティッシュペーパーでこすり静電気を発生させると(写真1)、コンデンサーに静電気がたまる。見学者数人に手をつないでもらい、一人がコップを持ち、もう一人がアルミのベロの部分に触れると静電気のショックがはしる。

静電気コンデンサ

写真1.コップのコンデンサ

(2)銅板とアルミ板によるヴォルタ電池。 10cm×15cmの大きさにした銅板とアルミ板の間に塩水を浸した布をはさみ(写真2)、それを数組直列に接続させ、電子オルゴールを作動させた。(写真3)

アルミ板と銅版 アルミと銅で作る電池
写真2.アルミ板(左)と銅板(右)の上の布    写真3.電子オルゴールを鳴らす


(3)10円と1円によるヴォルタ電池 いろいろな所で紹介されている実験である。内容的には(2)と同様の実験だが、単なる銅板、アルミ板ではなく、銅を原材料としている10円玉、アルミを原材料としている1円玉(ここでは、1円玉とほぼ同じ大きさのアルミ板)を利用して電池を作り、電子オルゴールを鳴らした。(写真4)
コインで作る電池
写真4.コイン電池


(4)人間電池
ステンレススプーンと飲料水のアルミ缶を持たせ た人間を5〜6人直列につないで電子オルゴールを鳴らす実験。(写真5)
人間電池
写真5.人間電池。約5人でオルゴールが鳴る。


(5)Mgリボンと銅板を利用した電池 プリントごっこ用ランプを入れたソケットから出ているリード線にMgリボンと2cm×5cmにした銅板をとりつけ、6mol/lの塩酸に浸すと、その瞬間にランプが発光する。

(6)備長炭電池 10〜15cm程度の備長炭にキムワイプを巻き付け、それを食塩水に浸す。キムワイプの部分にアルミホイルを巻き付け電池を作る。その電池で電子オルゴールを鳴らしたり太陽電池のモータを回転させる。(写真6,7)

備長炭電池 モーターを回す
写真6.備長炭電池 写真7.備長炭電池でモーターを
まわす


3.解説
(1)静電気の実験 本サイエンスショーの導入実験とした。電池ができるまでの電気の実験というと静電気の実験があるが、連続した電流が取り出せないなどの性質 を知ってもらう実験である。また、本実験では、実験では、実験参加者のみが静電気のショックを通してその性質を理解できるが、他の見学者が理解できるように10Wの蛍光灯を入れ、発光させる事で電気の流れを知る事ができるようにもした。

(2)ヴォルタ電池 ヴォルタは銅板と亜鉛板の間に電解液を浸したものを挟み込み、さらにそれらを積み重ねる事で電池を作った。本実験では、銅板とアルミ板の酸化還元電位の差を利用して電池を作った。この実験では銅−アルミ1組あたりの電位は0.5V、電流は5〜10mAを発生した。11円電池でもほぼ同様の電圧を得られた。 今回音源として製作した電子オルゴールを鳴らすためには、〜1V、5〜10mAが必要であり、どちらの電池でも2組で音が出て、3組つなぐと完全なメロディーを奏でた。なお、今回使用した電子オルゴールは電子部品屋からICと電解コンデンサーを使用して製作したものである。

(3)10円と1円によるヴォルタ電池 前述した銅とアルミを身近なものに置き換えて実験をしたものである。見学者が自宅でも実験できるような題材として取り上げた。

(4)人間電池 ステンレススプーンが正極、アルミ缶が負極となる電池である。当初アルミ缶(ジュース・ビール)の外側のラベル被覆をとらずに実験していたが、当館の長谷川学芸員より、濃硫酸で被覆を除去できる事を教えてもらった。そこで、ビーカーに濃硫酸を入れ缶の下半分の被覆をはがしたものを実験に使用した。さまざまな缶の被覆をはがしてみたが、一番はがしやすかったものはアサヒビールのスーパードライの缶である。他の缶では、きれいに被覆を溶かしきれないものがあったが、この缶に限ってはほぼきれいに被覆をはがす事ができた。なお、被覆を溶かす作業は、悪臭を放つガスが発生するのでドラフト内で行う事が望ましい。 また、この実験ではアルミ缶下半分を手で握ってもらい、プルリングにワニ口クリップを取り付け実験していたが、使用した缶の中には缶本体とプルリングの間が絶縁されているものがあり、最初のうち原因が分からず失敗する事があった。使用する缶の導通を調べる必要がある。 この実験でも電池をつくるためには2種類の金属板と電解質(人間の身体、汗)があれば電池ができる事が理解できる。

(5)Mgリボンと銅板を利用した電池 これまで述べてきた電池に比べ、はるかに強い電圧を発生することができる電池である。Mg電極では酸化電位が約−2.36Vの電位を発生させる。この電圧を利用して、プリントゴッゴのフラッシュランプを点灯させたが、直接見ると非常にまぶしいので、口径の大きい茶色の試薬瓶をフィルター代わりにして実験を行った。このおかげでだいぶ光量を落とす事ができた。ここでは、金属の種類と電解質を変化させる事で、強い電圧を取り出せる事を説明した。それでも光を直視しないように注意を促した。

(6)備長炭電池 一般に空気電池と呼ばれる電池をつくる実験である。備長炭の中の酸素とアルミによって以下のような反応が起きる。

     負極:Al → Al3++3e− (E°=−1.67V)
     正極:1/2O2+2H2O+2e− → H2+2OH− (E = 0.615V)

炭とアルミホイルの組み合わせで電池ができる事に見学者は一様に驚いていた。ここで取り出せる電位差も理論上では2Vを超え、電子オルゴール、太陽電池用モーターを使用したメリーゴーランドのおもちゃ(写真7)を動かす事ができる。備長炭電池を3個直列につなぐと2.5V用の懐中電灯用豆電球を明るく点灯させる事もできる。 (1)〜(5)で行ってきた2種の金属板と電解質によって電池ができるという実験とは違う方法でも電池ができるということは見学者に伝えられたと思う。

(7)使用したモーターなどについて 電子オルゴールは、部品を買って製作したものである(写真3、4参照)。グリーティングカードについているものも取り出して使えるが、音質の問題、また、取り出してからの加工のしにくさなどを考慮すると自作したものの方が費用も安く、音質も良いものができる。ちなみに、グリーティングカードは800円〜で、自作のものは電解コンデンサー(10μF)@25円、UMC社オルゴールIC「UM66T」@100円、圧電ブザー@180円、基盤@100円、合計405円である。この電子オルゴールでは〜1V、5〜10mAという低い電力で何とか音がでてくる。 また、本実験で使用した太陽電池モーターは田宮模型のRF−500TBで0.5V25mA時380rpmの能力を有するものを使用した。他に(株)ソーラーテックから出している0.4V16mAで300rpmの性能を持つH−151等のモータもある。


4.まとめ
可能な限り身近な材料を集めて電池の原理を探る実験を行ったが、その裏には、見学者が自宅に帰ってから自分で実験を行って再びその内容を理解して欲しかったというねらいもある。この点については、確認するすべもないが、実験現場では電池の基本原理をうまく伝えられたと自負している。一般に電池関係の実験は現象が小さく、なかなか演示化しにくいが材料を工夫したり、同じ実験でも数を複数個用意する事でそのあたりの問題はクリアできると考えられる。 現在さまざまな種類の電池が存在し、私達はそれを使っている。本サイエンスショーを見た見学者が電池の中でどのような反応が起っているのか、また、何が使われているのかなど興味を持ってもらえたら幸いである。


参考文献
 ・「いきいき化学アイデア実験」 盛口襄・高田博志 著 新生出版 (1990)
 ・「化学実験虎の巻」 日本化学会編 丸善株式会社 (1991)
 ・「おもしろ理科実験集」工学院大学企画部編 (1996)
 ・「実験で学ぶ化学の世界2物質の変化」 日本化学会編 丸善株式会社 (1996)
 ・「NHKやってみよう何でも実験Vol.1」 NHK出版協会 (1996)


大阪市立科学館研究報告誌第10号(2000年発行)より


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