誰でも知っている空気。だけど、その中身は知らない。ならば、サイエンスショーで紹介しましょう。空気の力を。

1.はじめに
空気は、地球の地表では1kgf/cm2の圧力を及ぼしている。これは、私たち人間のみならず、すべての物質に等しい力=圧力が及ぼされていることを意味するが、実生活において、その空気の存在を意識することは少ない。そこで、普段感じることのない空気にどの程度の力があり、私たちの生活にどのような影響を及ぼしているのかを身近な道具を使用しながら来館者に実感または、理解してもらうこととした。さらに、夏休み時期に実施するサイエンスショーということで、小さな子供たちも多く見学するので、できるだけ見栄えのする実験を取り上げ、ショーにできるだけ高い関心を持ってもらうようにも留意した。


2.実験内容
(1)巨大風船のキャッチボール
直径1mにもなる風船を作り、その中に入っている空気の重さを実感してもらう実験。風船に入れる空気はブロアーを用いた。また、風船は何度も使用するため、口を紐で結び何回も使用できるようにした。作った風船を客席に投げたり、見学者の一人とキャッチボールをすることで、空気の重さを実感できるかどうか確認した。

<実験のコツ>小さな風船と大きな風船での比較を行うと良い。

(2)吸盤の実験1 吸盤は、空気の力でくっついていることを確認する実験。まず、真空鐘の中に吸盤を貼り付け、空気を抜くことで吸盤が落下することを確認した。 また、アクリルの板に吸盤を張り付け、水を入れた2リットルのペットボトルが何本吊り下げられるかの 実験を行った。また、直径20cmほどもある巨大吸盤を使い人間がぶら下がれるようにもした。

<実験のコツ>真空鐘の実験では、中と外に複数個くっつけると違いがわかりやすい。また、ペットボトルの首に紐をかけて吸盤につるしやすくした。

下敷きと吸盤
(3)吸盤の実験2 先の実験で使用した小さな吸盤と下敷きを使用した実験。凹凸のない机の上に下敷きをおき、そこに吸盤を張り付けて、吸盤を真上に引っ張り上げても下敷きが持ち上がらないことを確認した。

<実験のコツ>下敷きの中心に吸盤を張ること。見学者に実験してもらう時には、真上に吸盤を引っ張り上げてもらうこと


(4)フラスコの中で膨らむ風船 少量の水を入れた2リットルの平底フラスコを電熱器にかけ、水と沸騰させることで内部の空気を追い出し、14インチの風船でふたをすると、大気圧によって風船がフラスコの内部で膨らむ様子を確認した。

<実験のコツ>水蒸気でフラスコ内部の空気を完全に追い出すこと。内部のお湯は、捨てても、捨てなくてもできる。ただし、捨てた方が空気が入りやすいが、早く風船を引き込むことができる。


(5)空き缶つぶし (4)と同じように350〜500mlのアルミ製空き缶に少量の水を入れ、加熱沸騰させた後、水の入った容器の飲み口をつけると、一瞬のうちに缶がつぶれる様子を観察してもらった。

<実験のコツ>缶が大きいほど迫力が増す。

掃除機を使ってボールを浮かせる
(6)掃除機を使ったボーリングボールの吸引 ボーリングのボールとほぼ同じ直径で長さ1mのアクリルパイプの上部にふたをする。ふたの真ん中部分には、市販の掃除機のパイプを取り付けたものを用意する。ボーリングのボールが入れてあるアクリルパイプの下部は、空気が入り込むことができるように枠だけでできた台上にのせた。 その状態で掃除機のスイッチを入れるとアクリルパイプのボーリングのボールをはさんだ上下で空気の圧力差が生じ、ボーリングのボールが持ち上がる。

<実験のコツ>アクリルパイプと、ボーリングの玉の間の隙間をセロテープで、できるだけ少なくすること。アクリル板の上部と、ふた、掃除機のホース取り付け部分の隙間がないように注意すること。



3.解説
(1)巨大風船のキャッチボール
本サイエンスショーの導入として行った実験だが、最初に小さな風船を膨らませ、その重さを感じるかどうかを来観者に尋ねた。その後に直径1mになる風船を膨らませ、その重さを実感できるかどうか確認した。空気の標準状態での密度を1.29kg/m3とする。風船の直径が1mとするとその容積は約0.52m3となり、風船内部には約670gの空気が存在することになる。風船を触ったときの面圧ではなかなか重さを実感できないが、キャッチボールなどを行うと受け取ったときにある程度のショックを受けるなど、それなりに空気の存在を理解できるようである。  それ以前に、これほど大きな風船を見ることが珍しいので、子どもや大人をはじめとても興味を持って見てくれた。風船は、教材用のものとして販売されているものを使用したが、その後、大きな風船を安く手に入れることができるショップを発見した。

(2)吸盤の実験1
まず、真空鐘の解説から行った。真空鐘の内部は真空ポンプにより空気がなくなっていくことを吸盤二ペットボトルを吊り下げる鐘の内部に風船を入れて解説した。その後、吸盤を鐘の内部に貼り付け、空気を抜いていくと貼り付けた吸盤が落ちる様子を確認した。 さらに、その吸盤を板に張り付け、ペットボトルを吊り下げたが約6〜7本重さにして12〜14kgまで吊り下げられることに見学者は驚いていた。吸盤の大きさから計算すると理屈の上では25kgまで荷重をかけてもはずれないが、実際は前述したとおりである。 写真3では、吊り下げた板に吸盤を張り付け、ペットボトルを吊り下げているが、筆者は、アクリルの板を参加者に持たせて実験を行った。子どもの場合は、吸盤がはずれる前にその重さに耐えられないこともある。ただし、この場合は、突然吸盤が外れて、アクリル板を顔にぶつけるなどの危険性があるため、怪我には注意する必要がある。

(3)吸盤の実験2
今回の実験で使用した下敷きはB4サイズであるので、約450kgの重さの空気がのっている計算になる。机と下敷きの間には空気がないため、下敷きは空気の重さで押さえつけられていることになる。そのため吸盤では持ち上げることができず、吸盤のみがはずれてしまうことになる。見学者にとっては、ただの下敷きが持ち上がらないことに驚いていた。やり方によっては机が持ち上げることもできる。
フラスコの内部に膨らむ風船
(4)フラスコの中で膨らむ風船
沸騰したお湯を捨てて、風船でふたをすると、フラスコ内の水蒸気が水に戻り内部の気圧が下がるため、空気が流入し風船が内部に膨らむ。今回は、2リットルのフラスコを使用したが、この場合は、風船の大きさは14インチのものが適当のようである。また、風船の取り付けをまっすぐにしないと風船は内部に入りきらず、途中で風船が割れてしまうことになる。

(5)空き缶つぶし
缶がつぶれるのは、(4)と同じ原理である。一瞬で缶がつぶれるため見学者には、強い印象を与えられたようである。水が吸い上がるより早く、大気圧により缶がつぶれてしまうという点も興味深い。 3リットルのアルミ缶も一瞬でつぶれてしまうので、次回以降は、迫力のある大きなものを使って実験したい。


(6)掃除機を使ったボーリングボールの吸引
本実験の前に見学者にボーリングのボールの重さを実際に確認してもらいボールを吸い上げた。ボーリングのボールは円周が27インチと規格が決まっており、直径にすると約22cmになる。用意したアクリルのパイプは、ほぼボーリングのボールと内径が同じものである。若干ボールとパイプの間に隙間があったため、幅5cmほどのセロテープを巻きパイプとの隙間をうめた。 掃除機は約0.1hPaで空気を吸い続けている。つまり掃除機を動かし続けていると常に大気圧より約0.1気圧ほど低い状態を作り出せることになる。この力は、面積に比例するので面積を広げれば、それに比例し大気圧に押される力も強くなる。 そのため、理屈の上ではこのアクリルパイプを使用すると約38kgのものまで吸い上げることができる。実験で使用したボーリングのボールは12ポンド≒5.4kgなので押し上げる力の14%でしかない。そのため、ボールは何のストレスもなく上昇していく。要は、ボーリングのボールとアクリルパイプ、パイプの上部と天板、掃除機のパイプと天板のそれぞれの隙間をなくせば、ボールの上下で大気圧の差が生じボールがあがるのである。 見学者には、ボールが浮かぶ様子を「掃除機が吸い上げている」とみなす人が多かったようだが、現場での解説では、ボールをはさんだ上下の大気圧差で持ち上げられているということを強調した。


4.まとめ
今回のサイエンスショーでは非常に身近である大気圧を取り上げたが、見学者の意識の中では、やはり大気圧の存在はあまり身近ではないようだった。そのような中でも今回の実験内容は、興味深かったようで、大気圧(空気)の存在や、その事象についての類推をしてもらえるように解説を行った。 空気に関するサイエンスショーは、これまでも大気圧や流体といった取り上げ方で何度か実施しているが、見えないものを取り扱う割りには、どちらも現象的には見学者の興味を引くものが多い。 今回取り上げた実験は、見学者の関心を容易につかむことができるものだったので、その意味ではショーとしては成功だったようである。 特に今回はボーリングのボールを掃除機を使って浮かせたが、実際に子供らにボールを持たせ、重たいものを確認させることで、目の前で重たいものがどこにでもある掃除機で浮くという点が強いインパクトを与えたようである。ダイナミックな現象は、見学者に与える印象が非常に大きいのは、言うまでもない。

理屈の上では、人間も持ち上げることができる。これは、予備実験段階でも成功しているし、その後、その道具を改良したものも用意したが今回の実験の中では、時間的に余裕がなかったのでお蔵入りとなってしまった。機会があれば掃除機で人間を持ち上げる実験も披露していきたい。 また、今回のサイエンスショーからは、展示物「空気パワー」(別掲:展示製作「空気パワー」「おしりの形」について参照)と売店での商品「フラスコの中の風船」を作ることができた。ショーのみならず、関連するテーマを別な形で展開できたもことは、今回のサイエンスショーの大きな収穫である。

おかげさまで、この実験をテレビで毎日放送(MBS)とサンテレビ(神戸)で取り上げてもらった。MTVの場合は、生放送であったため、空き缶つぶしや、掃除機の実験がきちんとできるか不安だったが、何とか無事終了することができた。テレビを見て科学館に来てくれた人もいて、大変うれしかった。

参考文献 ・斎藤吉彦 「大阪市科学館研究報告誌第8号 p71〜75」 大阪市立科学館 (1998)



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