■こぼしたタマゴ
  タマゴをこぼしてしまったら、どうやって掃除しますか?やった頃がある人はご存知でしょうが、これって結構たいへんなのです。
黄身くらいでしたら何とかなるのですが、白身のヌルヌルが何とも取りにくくて厄介です。

楽に取るにはどうやったらいいのでしょうか?

1.お湯をかける
2.酢をかける
3.塩をかける
4.ドライヤーで温める

 全部、面倒ですか?でも、タマゴをこぼしたのだから何かひとつ選んで処理してみませんか?
答えは、3番です。何故でしょう?


■タマゴのタンパク質
 タマゴは何からできているのか。一番多いのは水分48.2%、ついで脂質33.5%、タンパク質16.5%、灰分1.7%、炭水化物0.1%となっています。この中でタマゴをタマゴらしくしているのは、タンパク質によるところが大きいのです。

 タンパク質は、たくさんのアミノ酸が結ばれてできている物質でたくさんの種類があるのですがいずれも、酸やアルカリ、熱、塩、金属で変性してしまいます。変性とは、もともとのタンパク質の形状や性質を失わせてしまうことです。

 タンパク質は、主に自分の分子内の水素結合といった電気的な力で形を形成しています。この電気的な力を分解する力を持つ上記の条件や、物質が現れるとタンパク質の形状が変化してしまい、その性質までが失われてしまうのです。

 いつの頃からか、「タマゴをこぼしたら、塩をかけて掃除するとよい」という話が一部で、おばあちゃんの知恵のような形で伝わるようになりました。では、何故塩なのでしょうか。他のものは、良くないのでしょうか。


■実験してみよう
 そこで実験をしてみました。
 まず、1番の「お湯をかける」ですが、これは、温度を高くすることでタマゴを固める、まあ、一種のゆで卵を作るということになるでしょう。しかし、タマゴを固めようとするとかなり高温のお湯でないとできませんし、お湯が余計に周りをぬらしてしまいます。卵白の一部を固めるのには有効ですがその後の掃除も大変です。 卵白を取り去ろうというのには、あまり有効とはいえないでしょう。


2番の酢をかけるですが、ある程度卵白のヌルヌルが小さくなって、箸でつかめるようになりました(写真1)。
   写真1.卵白に酢を混ぜてみると…。

 しかし、タオルでぬぐおうとしても、まだ一部が残ってしまいます。おまけに酸っぱいにおいが漂います。これもいまいちです。

3番の塩は、少し多めに塩をかけて5分程度放って置くと、やがてヌルヌルがかなり水っぽくなってきます(写真2)。タオルでぬぐうと簡単に卵白が取れましたが、結構いけそうです。前の2つよりは、かなりぬぐいやすくなりました。
 塩がタマゴ中の水分でNa+とCl-に分解したこのイオンが、卵白アルブミンの水素結合を分解するのに非常に有効なのです。おかげでヌルヌルした状態から、かなり水っぽいさらさらした状態に変化したので、タオルで簡単にぬぐうことができました。ただ、塩でざらざらしてしまいましたが。

4番目のドライヤーで温めるのはどうだったかというと、ドライヤーを当てたところから、卵白が風に流され、広がっていきます(写真3)。そしてなかなか温度が上がらない。温度は、がんばっても50度くらいまでしか上がりません。結局、何とか水分は飛ばすことができたのですが、ガビガビのタンパク質の膜が残ってしまっただけでした。

ということで、3番の塩が一番タマゴの卵白を取り除きやすかったのです。

  写真3.ドライヤーで加熱中。周りはガビガビ
    写真2.塩をかぶせて5分程度まつ

どれも有効には思えないですか?
でも、私が実験した限りでは、塩が一番です。

もちろんお湯やドライヤーのように、温度を上げてタンパク質を分解することもできます。ただ、卵白アルブミンを温度で分解するには75℃以上必要です。今回は、そこまで温度を上げられなかったため上手く処理することができませんでした。


タンパク質は、このように熱、酸・アルカリなどといったものにより変性します。その性質を利用して、実はたくさんの美味しい料理ができているのです。このあたりの解説は、また別の機会に。

■タンパク質の特徴
・たくさんのアミノ酸が(ペプチド)結合したものをタンパク質という
・内部の水素結合などで複雑な形を作っている
・生体を作るために欠かせない物質
・熱、酸・アルカリ、塩などで変性する


(2005.10.20記)
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