ホシ ヲ メグル センイチ ワ

 

星や天文にまつわる短いお話を1001話書こうと思います。スタートは2005年2月25日。目標は1日1話。なかなか目標通りとはいきませんが。


公序良俗に反さないかぎり、配布・コピーは自由とします。出展を、小さくてもけっこうなので、明記してください。WEBに転載される場合は大阪市立科学館の渡部ページにリンクをお願いします。

大阪市立科学館 学芸員 渡部義弥

2008年3月9日 第50話 アメリカ地質調査所(USGS)

天体やその地形の名前は、国際天文学連合IAUが定めています。ただ、個別の実務はさまざまな研究機関がそれぞれの得意分野を生かし分担して行っています。たとえば、スミソニアン天体物理観測所は、太陽系の小天体の名称について管理をしています。

そんななか、意外な研究所が、月や惑星などの地形名称の管理をしているのです。アメリカの地質調査所(USGS)がそうで、ここのホームページには、クレーターのリストや、惑星表面の公式地図などが掲載されています。日本でいえば、国土地理院や地質調査総合センターが、ほかの星の地理まで担当しているわけですね。なんともアメリカらしい話です。

2008年2月21日 第49話 星座の決定

空にある星を適当につなぎあわせて絵をつくり、それに名前をつけたものが「星座」です。英語では、constellation で、ラテン語の stella(星)から派生した言葉(ODE英英辞典)だそうです。星のまとまりといった意味でしょうか。

星は非常に遠くにあるのと、その変化が人間の尺度ではとてもゆっくりであるため、数千年程度で星座の形がくずれることはありません。一度決めた星座は非常に長く使えるのです。実際、2000年以上前から使われてきているオリオン座やさそり座などは、いまでも問題なく使えます。

適当につなぎ合わせるときにあまり無茶はしないものですから、古典的な星座を覚えるのは星の配置を覚えるのに役にたちます。星座の紹介はプラネタリウム解説の定番となっています。

こうした星座は、世界各地で様々な時代にいろいろなものが作られてきました。日本でも、オリオン座の中心の3星を、ミツボシと呼んだり、カシオペヤ座をイカリボシとしたりしています。中国では体系的に300近い星座を作られています。有名なものでは北斗(七星)が中国の星座です。

また、17世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパの天文学者は、従来星座が明確でないスキマに新星座を作り始めました。北半球の中緯度ではみられない、南方の星座もこのころに整備が進んでいます。

そして、天文学研究の発展と、交通機関や通信手段の発達によって、人と人との交流が盛んになると、人や地域によって別々の星座を使うのが不都合となってきました。

そこで1922年、国際天文学連合(IAU)は、星座を正式に定める作業に着手します。作業を行ったのは第3委員会で、座長に選ばれたのは、ベルギー人天文学者 E. Delporte で、1925年〜1928年までの作業で、星座とその境界を定めました。当時、広く使われていた変光星の名前(V Ori のように、星座名をあとにつける)や流星の放射点名などとの整合がとれるように気を配ったようです。

定められた星座の一覧は、IAUが公表しています。

2008年2月21日 第48話 国際天文学連合(IAU)

国際天文学連合(IAU)とは、世界のプロの天文学者がつくる団体で1919年に設立されました。各種の国際研究会を開催したり、天文学上重要な決定を行っています。最近では、惑星の定義をさだめ、冥王星を惑星からはずれることになったことで知られています。

IAUは、International Astronomer Union の略ですが、フランス語では UAI と逆順になります。そのために、両方を組み合わせたマークを採用しています。

2008年2月7日 第47話 環境省・全国星空継続観察

毎年二回、環境省の外郭団体から星空を調べようという呼びかけがなされます。環境省が「星」を調べるというと、不思議な気もしますが、正確には「空」を調べているのです。

通称スターウォッチングといわれるこのプロジェクトは、1988年にはじまったものです。星の見え方を毎年調べて、大気汚染や、光害(ひかりがい)がどの程度変化しているのかを調べようというものです。

調査は、年2回冬と夏(1)天の川が見えるか? (2)すばる、または織り姫星の周囲にどれだけ星が見えるか? を肉眼、双眼鏡で調べ、さらに(3)カメラで空を撮影する。ことで行われます。といっても、キャンペーンとしての位置づけが強いもので、調査員は、全国の天文ファンや、天体観望会に参加する初心者などもふくまれます。データをとるのは(3)がメインで、あとは参考程度、経験してもらうのに意義があるという内容です。

この調査、気がつけば20年も続いているのですが、近年は(3)のためのフィルムカメラが珍しいものになりつつあり、キャンペーンとしても折り返し点に近づいているのかなと思います。

2008年2月3日 第46話 宇宙を旅する歌

ビートルズの後期の曲に Across the Universe というのがあります。直訳すると、宇宙を越えてとなりますね。アルバム Let it Be に収録されているこの曲、作詞はジョン・レノン。こちらに歌詞があります(教育目的以外では使用不可)が、ちょっと難しいですね。あふれる言葉が宇宙を越えるいった意味かなと思いますが。それほど情熱的な曲でもありません。

2008年2月4日東部標準時間の夜7時。NASAは、この曲を宇宙機との通信用設備ディープスペースネットワークから電波に乗せて、北極星に送信するのだそうです。NASA設立の50周年と、この曲の収録40周年を記念してとのことです。ビートルズファンもイベントを行います。

このように、音楽を宇宙に発信するのは、今回にはじまったことではありません。同じ元ビートルズのポール・マッカートニーが2005年に、Good Day Sunshineという曲を、国際宇宙ステーションに向けて演奏しています。また、人間が宇宙に行くと、食べ物などと同じように音楽は不可欠であるらしく、宇宙ステーションでは毎朝モーニングコールに音楽をならしているそうですし、もっと前には1960年代後半から1970年代にかけてアポロ計画で音楽テープが宇宙飛行士の手で再生されています。この様子は、映画アポロ13でも再現されていました。

また、人間があいてでない場合だと、2004年、土星探査機カッシーニの子機で、衛星タイタンの探査をしたホイヘンスには MUSIC2TITAN というアルバムに4曲が搭載されていました。大気がある(つまり音が聞こえる)タイタンなら、音楽も聞こえるはずということで組まれたプロジェクトで、フランスのロック歌手Julien Civange and Louis Haeri are によるオリジナル演奏でした。

さらに、1977年には、直接レコードが宇宙に向けて飛び立っています。宇宙探査機ボイジャー1号と2号にそれぞれ搭載された The Sounds of Earth というレコードには、世界各国の55言語での挨拶のほか、様々な自然や都会の音、そして音楽が収録されていました。日本からも尺八演奏が収録されていました。現在、これらの探査機は太陽から遠ざかっており、太陽系の果てを探しています。

その他にも、イギリスのBlurというロックバンドが2003年に火星探査機ビーグル2用に楽曲を提供していました(メンバーが天文ファンだった)が、この探査機は着陸に失敗しています。

なお、ボイジャーのレコードを提案した、カール・セーガンの小説「コンタクト」の映画では、宇宙へ地球の電波が漏れ出して聞こえているような描写がありました。音声が電波になったのは、20世紀初頭に、無線音声通信がアメリカの発明家リー・ド・フォレストにより発明されたのが端緒です。テストには音楽が使われました。以来、1920年にはラジオの放送が、1940年代にはテレビの放送が行われています。電波は光の速さで伝わりますから、地球から半径100光年までの天体には、地球の音楽が届いていることになりますね。

2008年1月27日 第45話 野尻抱影

野尻放影(1885年-1977年:本名 正英=マサフサ)は、英文学者ですが、日本における、星と星座のお話の普及者として大活躍をした人として有名です。多数の著作を著したほか、講演やラジオ番組を通じて、日本の星の和名の収集にもつとめました。その著書はいまだに再版を重ねており、星座の紹介のスタンダードになっています※。

また、新惑星Pluto を冥王星と訳したのも野尻氏ですし、日本天文学会が監修した学術書シリーズの「新天文学講座」の1巻「星座」は、野尻氏によるものでした。まさしく、この世界の代表的人物でした。

この人のことを詳しく書き始めるとキリがないのですが、書類と資料の中にうずもれるようにして暮らしていたそうで、各地からの手紙なども大切にとっていたそうです。元同僚のKi氏が野尻氏の手紙を見せてくれたことがありましたが、釘でひっかいたような独特の(読みにくい)書体で書かれていました。手紙もずいぶん書いたようです。

野尻氏は、山梨県甲府市の中学校の英語教師としてしばらくいたこともあるので、山梨県立文学館に資料があり、展示されているのを見たことがあります。また、野尻氏の弟は、 「鞍馬天狗」で有名作家の大佛次郎で、横浜の大佛次郎記念館に資料があります。また、兄弟で鎌倉にいたこともあるようです。

生前交流があった天文学者の石田五郎が、野尻放影の伝記を書いています。

石田五郎著 『野尻抱影―聞書“星の文人”伝』 リブロポート(1989・絶版)

※野尻氏の著作ですが、ただ、間違いもあるし、もっと新しい研究で否定されたものもあると指摘されています。それらの訂正がなされないのを問題視する向きもあります。

※プラネタリウムでの解説も東日天文館でやったことがあるらしいのですが、出典がみつかりません。

2008年1月27日 第44話 オリオンの綱

すばるの鎖を引き締め
オリオンの綱を緩めることがお前にできるか。
時がくれば銀河を繰り出し
大熊を子熊と共に導き出すことができるか。

天の法則を知り
その支配を地上に及ぼす者はお前か。

これは、旧約聖書の「ヨブ記」の38章に書かれている文章です。聖書にはいろいろな翻訳があるのですが、ここでは近年ひろく使われている「新共同訳」といわれるものを参考にしました。

ここに出てくる固有名詞は、星座などを表していることは、星が好きな人にはわかります。もちろん、例えとして引き合いに出されているわけで、聖書が星座を教えようとしているわけではありません。でも、この表現、ちょっと気になります。

聖書上の解釈はおくとして、それぞれの表現はどういうことなんでしょうか。

すばるの鎖 というのは、すばる=プレアデス星団がラケットのような形をしていることから何となく連想できます。

銀河を繰り出し 銀河は帯状ですので、それを繰り出すといっているように思います。

大熊と子熊を共に導き出す 両方とも生き物の星座ですので、それを動かせるかといっているように思います。

とこれらはいいのですが、オリオンの綱、が問題です。はてさて? オリオンはなにか綱を持っているわけではないですし、なにかに縛られているわけでもないし、ベルトを緩めるというつもりなら、そう書くでしょうし。

長らく、ここは意味がよくわからなかったのですが、先日、野尻抱影さんの「星の民俗学」という本をパラパラ読んでいたら、こう書いてありました。

なんじ昴宿のくさりを結び得るや、参宿のつなぎを解き得るや。

という有名な句がある。この原語はキマアで、「団り」あるいは「堆積」の意味である。参宿は、詩経の引用の中の参というのも同じで、すなわち、オリオン座、主としてそのミツボシのことである。

この訳だと、すばるの鎖を結べるか? 三ツ星をバラバラにできるか? と素直に読めます。つなぎ か 綱か、原語の聖書に当たって読んでもわからない私には追求のしようがないのですが、とりあえず、これで納得することにしましょうか。

2008年1月26日 第43話 NASAのコンピュータグラフィックス

1970年代、まだパソコンが登場する以前に、おどろくほど鮮明な宇宙の映像がお茶の間に流れました。木星を背景に、宇宙船が飛んでいく映像は大変リアルで、どうやって撮影したのかと思われましたが、実はコンピュータグラフィックスだったのです。

NASAは、1958年に「スプートニクショック※」を受けて発足した機関です。奇しくも今年で50周年になるんですね。発足してしばらくは、有人宇宙飛行、特に月に人類を送るという大目標で活況を呈していました。しかし1969年に達成し、その後のベトナム戦争などでアメリカが疲弊すると、その存在をかけてのPRにさらに力を入れるようになります。

その副産物が、リアルな宇宙を描くコンピュータグラフィックスの作成です。それは、アニメやSF映画や想像画のレベルを遙かに超えていて、感動的でした。以来、宇宙というとコンピュータグラフィックスとなった感があります。

いまでは当たり前になったコンピュータグラフィックスですが、NASAのものの感動が、多くの作家を生むきっかけになったのは間違いありません。

当時のコンピュータグラフィックスは、NASAのサイトで見られます。さすがに今みると見劣りしますけれど、30年前のものと思うとびっくりです。

※スプートニクショック

 1957年、アメリカに先駆け、新興国のソビエト連邦(現ロシアほか)が、人工衛星スプートニク(旅の連れ合いの意味)の打ち上げに成功したことによる社会現象。世界最高と思っていたアメリカが、科学技術により新興国に遅れをとったことで、教育が問題になり、科学技術重視の体制がとられた。また、宇宙開発も、陸軍、海軍、大学などがばらばらにやっていたものが、一つに統合された。

2008年1月26日 第42話 望遠鏡っていくらぐらい?

天体や宇宙に興味を持つと、ほしくなるのが望遠鏡です。望遠鏡で見る土星の環、月のクレーターなど、本当に感動的ですから、確かに価値ある買い物です。

望遠鏡はいくらくらいでしょうか? 最近、望遠鏡の購入先としてはホームセンターやネット通販が多いようです。ためしに広告を検索してみると、「入門用」として、こんなのがありました。

望遠鏡の性能をはかるのに重要なのは、

・どれだけ暗い星が見られるか?

・「どれだけ倍率があげられるか?」です。

それぞれ、レンズ直径と焦点距離が目安になります。広告に歌っている「倍率」は、無理矢理あげていることもあるので、参考にしないほうがいいと思います。

また、望遠鏡をしっかりと天体に向けるためには、しっかりした台座が必要です。また、天体は24時間かけて空を一周します。1分間あたりわずか0.25度という微妙なスピードなので、それに対応できる微動装置がついていると使いやすくなります。

・しっかりとした台座、三脚等

・微動装置

さて、そういうポイントをふまえつつ見てみましょう。まずは、ネット通販から。

レンズ直径 焦点距離 備考 価格
5cm
30cm
簡易三脚付き
4200円
7cm
30cm
簡易三脚付き
12000円
4cm
27cm
キット
1580円
7cm
35cm
簡易三脚付き
13800円

結構ばらつきがあります。望遠鏡をはじめて買う人は、悩ましいと思います。口コミなどもばらつきがありますね。

ただ、台座はしっかりしておらず、微動装置も省略されています。10〜20倍程度の低倍率で使うならいいのですが、50倍やまして200倍で使うためには、別途高級な部品を追加しないといけません。丈夫な三脚は1万円、微動装置も1万円はします。それに専用品でないと使いにくいのが実情です。

一方、望遠鏡専門店では、次のものがおすすめだそうです。

レンズ直径 焦点距離 備考 価格
8cm
91cm
微動装置付き
49800円
8cm
40cm
コンピュータ制御
49800円
7cm
50cm
微動装置付き
45000円
6.3cm
54cm
微動装置付き
75000円

さすがにちょっと高くなります。でも、昭和40年ごろから、望遠鏡の値段ってこれくらいなので、昔からみたらずいぶん割安になったともいえます。そして、内容をみると、さすがにフルセットです。あとで部品を買い足す必要はなさそうです。これらメーカーは、看板通りの商売をしているケースが多いので、あまり間違いはないでしょう。

さらに、最近、より安価でしっかりした望遠鏡を作ろうというメーカーがでてきました。そこでは、1万円かそれ以下で、ポイントをしぼってそこそこの望遠鏡を提供しています。こうした動きが続くといいと思います。

ただ、ここで気をつけなければいけないのは、望遠鏡はしばしば買った人に冷遇されているということです。小学校の時に買ってもらったのだけれど、2,3回つかったら面倒になって、あるいは飽きて、部屋のすみや押し入れにしまいっぱなし。そのうち、レンズにカビが生え、部品がなくなり、取扱説明書もどこかにいってしまう。ということもよくあります。となると、いかにいい望遠鏡ももったいないということになります。

また、最初から使い方がよくわからない、あるいは、粗悪品でまともに使えないということもあります。

おすすめは、とりあえず知り合いに見せてもらったり、博物館、プラネタリウムなので望遠鏡を見るイベントに参加することです。これらは、結構いろいろ行われています。探してみてはいかがでしょうか。

 

2008年1月25日 第41話 星を見ながら音楽会

音楽は、人類の文化と切っても切れないものでしょう。仕事をしながら、談笑しながら、あるいは音楽専用ホールで、あらゆる場所で音楽は楽しまれています。

それは、星空の下も同様です。音楽家の、あるいは企画者の考えで、単なる野外コンサートではなく、星を楽しみながらのコンサートというのも実施されています。

しかし、夜、野外でのコンサートとなると、照明をつけないと演奏者の顔も見えません。また、演奏者も暗闇では演奏できませんし、音響機器などにも、来場者の誘導にも照明は必要です。そうなると、星を見る環境はどんどん悪くなるわけで、何のためにやってるのかわからなくなります。「星空コンサート」といいながら、星空は見えなくなるわけです。

なかなか難しい、星を見ながらの音楽会です。野外ではなく、プラネタリウムでもよく行われますが、悩みは同じ。

でも、これ、音楽演奏を聞くというのにこだわりすぎるからいけないような気がします。星空の下で、鼻歌をうたえば、それでも星を見ながら音楽会じゃないですか。星が主役で、音楽が脇役でも、結構バランスがとれそう。そんな気がします。

2008年1月25日 第40話 星の和名

第39話で書いた「すばる」ですが、この「すばる」という呼び方は和名です。ただ、生物分野などとちがって、確固たるラテン語の学名は存在しません。また、和名も誰かがオーソライズしたわけではなく、慣用的に使われているものです。天体の戸籍簿のようなものは、完備されていないのです。

そういうわけで、星の名前というのはかなり曖昧ではあります。しっかり名前の付け方が決まっているのは、太陽系内の天体(彗星、小惑星ほか)と、星座の名前ぐらいで、あとは、どれだけ慣用的に使われるかで決まってきます。

まあ、それでもあまり困らないのがいいところです。なにしろ、生物は「ソメイヨシノ」が何百万本もあるわけですが、天体はそれ一個です。種類の判定に名前を使っているわけではないし、どっかにいっちゃうわけではない(移動するのは、名前が決まっている太陽系内の天体)ので、困らないのです。しばしば、名前は SNR2012+1253 とかいう感じで位置で呼ばれることが多いのです。

さて、話をもどして和名ですが、近代科学の登場後に追加された和名はそれほど多くありません。天文学に地域性がうすいのが最大の理由で、天文学者は英語を使います。数少ない例外は、惑星である天王星、海王星。惑星とされていた冥王星くらいでしょうか。あと、何かあるかな? 月の模様の「静かの海」とかは、直訳だし。

それ以前の和名は、ほとんどが肉眼で見える天体や現象にかかっているものになります。そして、それらは庶民がつけたものも多くあり、素朴なものが目立ちます。

たとえば、さそり座のアンタレスは、日本では「アカボシ」「酒酔い星」と呼ばれましたが、これはその色から連想されたものでしょう。おおいぬ座のシリウスも「アオボシ」と呼ばれました。ふたご座のポルックスとカストルは「キンボシ」「ギンボシ」です。それぞれの色合いだけでなく、二つの同等の星が競い合うように輝く位置関係も関連しています。

見える時期などからつけられた和名もあります。上のアンタレスを「豊年星」とも呼ぶのは、夏に宵空によく見えるためでしょう。冬から春先に南にちょっとだけ見えるりゅうこつ座のカノープスを「みかん星」と呼んだ記録もあります。みかんが成熟することに見えるということからきています。

そのほかに有名な和名は「織り姫」「彦星」でしょう。ただ、これは中国の伝説を翻案した名前ですね。

あらためてみてみると、単独の星に独自の和名がついている例はあまり多くないようです。豊かな固有名がある、アラビアやギリシャ期限の西欧の星名群に、その点は見劣りするような気がしますが、何か調査すれば、覆されるのでしょうか。ただ、織り姫のように中国渡りの名前は多数あります。それがあるために、知識人の間で和名をつけようというのが進まなかったのかもしれません。

うーん、にわか勉強ですので見落としがありそうですが、ちょっと考えてしまいます。

参考資料:野尻放映「日本の星」中央公論社

       北尾浩一「ふるさと星物語」神戸新聞総合出版センター    

 

2007年11月18日 第39話 星はすばる

平安時代の随筆集、枕草子には「星はすばる」ではじまる段があります。

すばるは、冬の星座、おうし座の中にあり、欧米では Pleiades(プレアデス)と呼ばれます。6〜7個の星が直径1度ほどの狭い範囲にひしめきあう様子がみられます。双眼鏡をつかうと、さらに多くの星からなることがわかり、詳細な研究では1万個もの星がこの付近に集中しています。こうした星の集団を星団といい、その中でも散開星団に分類されます。距離は450光年ほどで、多くある散開星団の中でも近距離にあり盛んに研究されています。

このすばる、ですが、中国の昴(ボウ)の字をあててはいるものの、もともと日本の言葉で、むすばっている、統べるといった意味があります。欧州や中国とちがい、めだつ天体にのみ名称をつけていたのが日本ですから、和名があるというのはそれだけ注目されていた証拠といえます。また、六個の星が見えることから、六連星(むつらぼし)とも言われました。

この、すばるは、現代においても日本でもっとも親しまれている天体名称で、世界最高水準の望遠鏡である、国立天文台ハワイ観測所の主力望遠鏡の名称は、すばる と名付けられ、国際的に使用されています。

また、すばる は人の名前としてもしばしば使われていますし、映画館でもスバル座というのはしばしば用いられました(これもまもなく過去の記憶になりそうです)。

そして、日常的に耳にするのは、自動車メーカー富士重工のブランド名のスバル(SUBARU)でしょう。昭和33年(1958年)。庶民にも手がとどく軽自動車スバル360というベストセラーではじまるこのブランド名ですが、この和名と同じ由来dす。すなわち、戦前、中島飛行機として巨大な航空産業だったものが、戦後解体され、ふたたびそのうちの6社がむすばって、自動車メーカー富士重工としてスタートした意味を象徴しているとのことです。

なお、このSUBARUは、日本よりもむしろ欧米で高性能で壊れにくい車として名をはせており(ラリーレースなどの成績なども非常によい)、スバル=自動車メーカーのイメージは非常に強いようです。国立天文台の望遠鏡すばるも、富士重工(Fuji Heavy Insdutries)と関係していると思われるようで、FAQ:http://www.naoj.org/Information/subaruFAQ.htmlに次のようにあります。

The summit facility and the base facility together constitute NAOJ's Hawaii' Observatory, whose official English name is Subaru Telescope. Subaru Telescope is not related to Fuji Heavy Industries that manufactures the Subaru brand of automobiles.

2007年11月15日 第38話 火星が好き?

1957年にはじめて人工衛星スプートニク(旅の連れ合いの意味)が打ち上げられてから、ずいぶんたくさんの探査機が宇宙に送り出されました。

そのほとんどは地球をめぐる人工衛星ですが、中には、月やさらに惑星、太陽を飛び出したものもあります。

そんな中で目立つのが火星探査機です。これまでに30機が火星をめざし、近年中に4機が予定されています。参加国は、アメリカ、旧ソ連・ロシア、ヨーロッパ、日本です。

日本の唯一の火星探査機のぞみは、残念ながら故障を起こし、火星に接近はしたものの、火星を巡る軌道に入ることができませんでした。

また、日本に限らず、多数の火星探査機が失敗しています。1964年にはじめて火星に接近できたアメリカのマリナー4号の前に、ソ連とアメリカは1機ずつの火星探査機を失っていますし、その後も5割の火星探査機が目的を達成できていません。

それでも、火星に探査機は向かいます。アメリカなどは2年2ヶ月の火星の接近ごとに探査機を2機ずつ向かわせるという力の入れようです。

なんで、火星が好きなのか? 地球に似ているところがたくさんあるというのもあるでしょうが、それだけでは説明できない部分もあるような気がします。

2007年11月15日 第37話 star board

リーダース英和辞書で、star の項目をみていたら、star board=船の右舷、航空機の右側 と書いてありました。また、右投げピッチャーのことを、俗に star board ともいうそうです。一方、左舷は、port 。なんで、star というのでしょう。

大英和辞典をひくと、答えがでており、star はもともと steer であり、梶(steer)を操る場所が、右舷にあったためなのだそうです。一方、左舷の port は、荷物を上げ下ろしする港がわということらしいです。

つまりは、船は右ハンドルなわけですね。それが star になるとは。言葉はおもしろいですね。

2007年11月15日 第36話 1年間

1光年は、光が1年間に進む「距離」です。この光年は宇宙関係ではよくでてくる単位ですから、聞いたことがあるでしょう。ちなみに、光は1秒間に30万km進みます。これにかけ算をしていくと、1光年は9.46兆kmほどになります。

ところで、この1光年、ちょっと曖昧さがあることがわかるでしょうか。たとえば、1年は何日かと聞かれると・・・、365日だったり366日だったり、、、1日違えば、光は260億kmも進んでしまいます。また、平均の1年をとろうと思っても、これまた何を基準にすればもっともらしいのかが問題です。というのは、季節の一巡りのもとになる1年間は、地球の地軸の向きが変化するため、遠い星を基準にする1年間と違うのです。

国立天文台が毎年編集している理科年表(丸善)には、そうしたいくつかの1年間が載っています。日常的に使う1年間も加え、5種類。1年間。結構奥が深い!

太陽年:365.249219日

恒星年:365.25636日

近点年:365.25964日

平年の一年:365日

うるう年の一年:366日

 

2007年10月5日 第35話 地球の自転速度

私たちが自転する地球の上に住んでいます。地球の周囲は4万km。それが24時間で回るのですから、その速度は時速1666km。北緯35度付近でも時速1350kmとジェット戦闘機なみの速度です。しかし、それを感じることはありません。速度はすごくても、変化がゆっくりだからです。

しかし、その効果は、遠心力としては現れていて、時速0kmになる北極点と、赤道では、同じ体重の人でも0.35%ほど感じる重力がかわります。体重が50kgならば、赤道のほうが175gばかり軽くなります。まあ、でもこれは実感としてはわからないでしょうね。

星座の神話の紹介者として知られ、冥王星の和名命名者でいまだにファンが多い野尻抱影氏(1885-1977)は、インタビュアーに「地球が回っているのを感じなさい」と言ったことがあるといいます(初出がわからないんですが、松岡正剛氏との対話らしい)。そんな人はどれほどいるのでしょうね。

2007年9月30日 第34話 グローブ

ずいぶん前に、東京にグローブ座globeというシェイクスピア劇の専門劇場ができて話題になりました。現在は、シェイクスピア劇以外の利用が多いようです。グローブ座というのは、そもそもシェイクスピアが所有者の一人だった劇場で、1599年にロンドンに建設されました。シェイクスピアの劇がもっぱら公開されたそうです。

私は、グローブというと、やはり野球やボクシングのそれを思い出します。ただ、これのスペルはgloveで、グローブ座のそれとは違います。

グローブ座とスペルが同じなのは、地球、地球儀、球を意味するグローブです。国際的を意味するグローバルも語源は同じです。地球は Earth、球は ball でもいいわけですが、globe というのが使われることがあるのを知っていても損はないです。

ところで、グローブ座がなぜグローブ座なのか、これを書いた時点ではわかりませんでした。

2007年9月30日 第33話 惑星の名前と物質の名前

惑星の名前は、日本では3通りの付き方をしています。一週間の名前、つまり金星とか、火星といった陰陽五行の考え方に基づくものと、地球という概念を翻訳したもの、そして天王星のように欧米でついた名前を翻訳したものです。

欧米では、これが一通りで、すべてローマ神話の神様の名前に基づいています。彗星はマーキュリー(伝令神)、木星はジュピター(雷神)といった具合ですね。ところで、このローマ神話の神様のうち、天王星と海王星は、そのまま、物質の名前にも採用されています。2006年8月まで惑星とされてきたプルート(冥王星)はプルトニウムという1941年に発見された94番元素の名前になっています。原子番号92のウラン、93のネプツニウムがそれぞれ太陽系の惑星の天王星、海王星にちなんで命名されていたため、惑星と考えられていた冥王星 (プルート)から命名されたものです。

また、水星(マーキュリー)は、水銀の英名でもありますが、これはマーキュリーが錬金術の神であり、液体なのに金属である水銀の性質とイメージがあったためとされています。

2007年3月19日 第32話 意外とよく起きてる日食

日食は、太陽が欠けて見えるできごと。月が太陽の前を横切るために起こります。中でも、月がすっぽりと太陽を隠してしまう皆既日食は、それを見るために、ツアーが組まれ、場合によっては数万人が参加したり、南極にまで行ってしまったりと、人狂わせる魅力を持っています。

こうした日食、非常に珍しい現象のようですが、実は意外と頻繁に起きています。ここ数年の日食をNASA日食月食ページ から引っ張りだしてみましょう。時刻は日本時です。

2001 年 6 月 21 日
2001 年 12 月 15 日
2002 年 6 月 11 日
2002 年 12 月 4 日
2003 年 5 月 31 日
2003 年 11 月 24 日
2004 年 4 月 19 日
2004 年 19 月 14 日
2005 年 4 月 9 日
2005 年 10 月 3 日
2006 年 3 月 29 日
2006 年 9 月 22 日
2007 年 3 月 19 日
2007 年 9 月 11 日
2008 年 2 月 7 日
2008 年 8 月 1 日
2009 年 1 月 26 日
2009 年 7 月 22 日
2010 年 1 月 15 日
2010 年 7 月 12 日

ここ10年間は、年に2回ずつ日食が起こっています。また、だいたい半年ごとに起こっていることもわかります。あんがい起こるものです。

月は、その公転のために29日半ごとに太陽に接近します。ただ、重なるようになるためには、太陽と月の軌道が交差する2カ所に近くなければいけません。それにあうのが半年ごとなので、年に2回は必ず起こります。

さらに、多少の前後はOKなので場合によっては2連続、3連続があり、最大で年に5回起こりますが、それは非常にまれなことで、前回は1935年、次回は 2206年、その次はなんと2709年です。

2007年2月5日 第31話 土星は、大都会でも見える

土星は30年で太陽をめぐる惑星で、環があることでおなじみの天体です。この土星ですが、かなり明るい星で大都会でも楽々見ることができます。望遠鏡を使えば、もちろん環の観察もできます。

ということがあまり知られていないことに最近気がつきました。土星を土星と気づかずに人生を送っている人、とても多いのでしょうね。また、一生に一度は望遠鏡でこの自然の不思議な造形美を見てほしいとも思います。

公共の天文台プラネタリウムなどで開催される、天体観望会に参加するのが一つ。

また、お値段数千円程度の組み立て式望遠鏡の中にも、土星の環をちゃんと見られるものもあります。いろいろでていますが、ぼくが確認しているのはリンク先の商品です。

土星の環が見える組み立て式望遠鏡の例

もちろん、もっと高級な数万円以上する天体望遠鏡なら、ちゃんと環は観察できますよ。押入にしまっていたら、ぜひ引っ張り出して! 見つけ方は身近な天文関係の施設に問い合わせてみてください。

2007年1月5日 第30話 惑星の定義

惑星というのは、恒星を巡る天体のうち、主要なものをさすことばです。現在200個以上が発見されています。昨年は、太陽を巡る惑星のうち、冥王星が惑星と呼ばれないことになって、世間がちょっとした騒ぎになりました。天文学者の国際組織であるIAUが、太陽を巡る惑星の定義をはじめてはっきりさせた副作用だったのですが、「そもそも定義を決めるべきではなかった」「実用上、必要なかった」という声も聞かれました。

もっとも、冥王星より大きな太陽周回天体が発見され、冥王星に準ずる天体も次々と発見されてきたことで、惑星の線引きをそろそろしないといけなくなっていたのは事実です。そうしたことに目をつぶって「必要なかった」というのはいささかおかしく、必要に迫られた事象だったといえましょう。

一方で、大きな惑星も次々と発見されています。太陽ではない他の恒星のまわりを巡る「惑星」たちで、いまのところ観測技術の都合で地球の十倍以上という重い天体(当然大きいでしょう)しか見つかっていません。また、他の恒星のまわりに冥王星と太陽を巡る惑星で最小の水星の中間くらいの天体が見つかるかというと、これまた当分難しそうです。

ただ、一つ問題があって、大きいほうはどこまで惑星とするかということがあげられます。今回の、IAUの定義では、太陽系の惑星というのは、

1.太陽を周回する天体で、
2.自己重力が固体強度を上まわって球形になり、
3.(重力で)自分の軌道の近傍の他天体を掃きちらしているもの、

となっています。この中には(おそらく自明だからでしょうが)自ら輝かないというのは入っていません。しかしながら、輝くか輝かないか微妙なポジションにある、惑星と恒星の中間の褐色矮星というカテゴリーの天体が近年ずいぶんみつかってきているのです。今回は、私たちの太陽のまわりを巡る惑星のみの定義でしたが、今後、他の恒星の惑星にまで定義を広げる場合は、褐色矮星ほか様々な問題がふりかかることが予想されます。

惑星は伝統ある言葉ですが、一方でそれを科学的に使うのは難しいのだなあと思うわけです。

2006年8月7日 第29話 原子爆弾と星

1945年8月6日といえば、史上はじめて原子爆弾が実戦に使用された日です。目標になったのは広島市。アメリカが放ったたった一発の原子爆弾によって、広島市は壊滅。大多数が非戦闘員である何十万人という市民が犠牲になったわけです。3日後の長崎への原子爆弾とならび、その使用は人類の歴史上の汚点といっていいでしょう。

この原子爆弾のとてつもないパワーは、核分裂反応によって引き起こされます。地球も人間も多数の原子・分子から成り立っており、それらを化学的にわけていくと元素という単位になります。この元素は中心に原子核があり、その周りを電子雲が取り巻いています。

原子核はさらに、1個以上の陽子と0個以上の中性子が核力という力で結びついてできています。ところがこれらは、様々な状況では壊れて(分裂して)しまうのです。そのさい、核力は行き場を失ってエネルギーとなり放出されます。そして不思議なことに、核力に相当する質量が減るのです。これがとてつもなく膨大なエネルギーに相当するため、わずかな量であっても猛烈なパワーを引き出せるというわけです。

このパワーは宇宙のあらゆる物質に秘められていますが、取り出すとなると、壊れやすい元素を使うのがてっとりばやく、それがウランであったりプルトニウムであったりするわけです。

一方、星もこの核力がその輝きのエネルギーの源です。主として水素がくっついてヘリウムとなっていくときに、エネルギーが取り出されます。

これらの研究をした人に、ハンス・ベーテという人がいます。星の研究でも、原子爆弾の製造でも大きな役割を果たしました。というと、悪魔のような科学者に思いますが、単純にそう決めつけることはできないように思います。

ちょっと話がふくらみすぎたので、今回はこのへんで。

2006年5月28日 第28話 プラネタリウムとレーザー

1973年、アメリカ・カリフォルニア州のロサンゼルスのグリフィス天文台プラネタリウムに衝撃的なショーが登場した。それは、レザリアムとよばれるもので、プラネタリウムのドームに音楽にのってレーザー光線が飛び交うものだった。

これは、当時実験的にはじめられたレーザー演出を、音楽とシンクロさせたショーに昇華させたもので、2001年宇宙の旅でおなじみの「 The Blue Danube 美しき青きドナウ」などクラシックやアンビエント系の音楽(時にはビートルズ)にのって、レーザーが幾何学図形を描くというもので、後のレーザー演出や、WindowsのメディアプレイヤーのBGVなどにも影響を残している。

レザリアムは2002年まで続けられたのち、グリフィス天文台の大規模改装にともなって、独自の施設を建設し独立した。また、現在でもヨーロッパやアメリカ各地のプラネタリウムで類似のショーが行われている。いずれも人気で、プラネタリウムの収益事業にもなっているようである。日本でも、KBS京都の特設ドームに1975年、東京池袋のサンシャインプラネタリウムに1978年に登場したがあまり受け入れられずに終わったようだ。日欧米の文化の違いを反映しているのだろうか。

ところで、今度は日本が最初に取り入れたレーザープラネタリウムがある。2006年4月に福岡に登場したバーチャリウム2レーザーがそれだ。これはもともとアメリカのエバンス&サザランド社が開発した Digistar3LASERであり、日本が世界的にも一号機となった。レーザーだけで、星空から映像から全てを描いてしまうプラネタリウムである。いうならばドームをスクリーンにパソコンでプラネタリウムを描いているのであるが、明るさやコントラストなど通常のプロジェクターに比べ優位であるといわれている。

そして、その上では、昔ながらのレーザーショーを、ビデオ映像として見せることも可能だ。実際にやっているかは知りませんが。

なんともこんがらがるはなしだが、このレーザープラネタリウム、レザリアム発祥の地、ロサンゼルスのグリフィス天文台にも間もなく導入されると伝えられている。

 

2006年5月28日 第27話 北斗七星は周極星か?

星のことをわからない、という人でも、オリオン座と北斗七星はなんとか分かるという人が多い。その特徴的な「ひしゃく」形は、アメリカでは Great Dipper つまり大きなおさじと呼ばれている。

北斗七星は、北半球の中緯度以上なら、一年中見ることができる。これは、北極星の近くにあって、地平線の下に沈まない「周極星(しゅうきょくせい)」だからである。

といった感じの説明が書いてあったり、あるいはそう信じている人がいるのだけれど、実際はどうなのか調べてみた。

周極星になる星は、北半球の場合、おおざっぱ(注)には、土地の緯度+その星の赤緯>90度となる星で、たとえば京都は北緯35度なので、赤緯が55度以上の星が地平線に沈まない。北斗七星の7つの星の赤緯を調べると、次のようになっている。

星の名前(北斗七星の入れ物の先から順に) 赤緯

ドゥベ +61度45分

メラク +56度23分

フェクダ +53度42分

メグレス +57度2分

アリオト +55度58分

ミザール +54度56分

アルケイド +49度19分

うーん、柄のはしっこのアルケイドは確実に沈むね、これは。「北斗七星」がそろって一年中見えるということだと、北緯41度まであがらないといけない。それは津軽海峡くらいだったりする。北海道なら一年中見えるといってもいいということですね。

なお、この41度線はヨーロッパだとイタリアのローマやスペインのバレンシアのあたりを通り、北米大陸ではカリフォルニア北部から、シカゴの南、ワシントンDCの北を通る。さらにアジアでは黒海からカスピ海の中を通って、中国の真ん中を貫く。

(注)おおざっぱには と書いたのは、厳密にいうと、周極星になる星がもっと増えるからである。その原因は、地平線付近では星が浮き上がって見える(大気差)、土地の高度が高いと、0m地点よりも地平線が下に下がるといった効果がはたらくから。とはいえ、その効果は1度分程度なので、やっぱり京都や大阪の平野部では一年中見えるとはいえないでしょうね。

2006年1月15日 第26話 土星の環の厚さを調べる

土星は巨大な天体である。科学の基本データブックの理科年表(丸善)によると本体の直径は12万km。小型の望遠鏡で見えるA環とB環といわれる環をいれるとさしわたし27万kmに達する。地球が横に20個ならぶサイズだ。

では、環の厚みはというと、これは理科年表には載っていない。では、というとので、こんどは天文年鑑(誠文堂新光社)を見てみた。こちらには載っていてA環とB環では〜0.1〜1kmとなっている。E環では15000kmとあるが、これは非常に希薄なもので見えないので、土星の環の厚さはA環とB環の厚さである〜0.1〜1kmとしていいだろう。

しかし〜0.1〜1kmというのは変な書き方だ。1km程度以下、0.1kmより薄いかもしれないくらいと読むわけだ。どうもあいまいだ。

では、ということで天文学者が使う基礎データブックである、Allen's Astrophysical Quantitiers(Springer社)を見てみる。最新の第4版には備考(NOTE)にこうある。

・Thickness of A-ring about 50m(A環の厚みはおよそ50mです)

この記事のネタもとであるNASAのゴダード宇宙センターのデータWEB(最初からこれを見ればよかった・・)にはこうある

環の厚さ

 B環の内側フチ 5m

 B環の外側フチ 5-10m

 A環の内側フチ 10-30m

 A環の外側フチ 10-30m

なんとびっくり、これはぼくがいままで調べた環の厚みの記事でも、最も薄い。30mとしても、7〜8階建てのビルになる。それが、70万km、地球の周囲の20倍も続くのである。とんでもないものだ。

薄さでたとえれば、27万km(2,7000,0000m)に対して、27mだから、千万分の1だ。薄さ0.1mmのティッシュペーパーで土星の環の模型を正しい割合で作ろうと思えば、百万ミリ。つまり十万センチで、千メートル。直径1kmのティッシュペーパーをつくると、それが土星の環の薄さとなる。

あれ、厚さの話しをしていて、いつのまにか薄さになってしまいました。

1〜25話