大阪市立科学館 特別展示


2012年2月11日(土)〜4月22日(日)
大阪市立科学館アトリウム(無料スペース)  


黒漆塗六十二間筋兜(くろうるしぬりろくじゅうにけんすじかぶと)

出展資料と担当学芸員

超電導ケーブル【寄贈:住友電気工業株式会社】
 世界初の長尺実系統路運転(2006〜2007年)に用いられた3芯超電導ケーブル。ケーブル内の超電導線が液体窒素で冷やされると、電気抵抗のない送電ケーブルになる。この運転では平均1.2万kW、最大3万kWの電力がニューヨーク州オールバニ市の一般家庭に供給された。
 斎藤吉彦 物理担当学芸員
 学芸員歴21年。南部博士が提唱された「自発的対称性のやぶれ」(2009年ノーベル物理学賞)が分かる展示を開発し大塚賞受賞。「科学的思考で感激」を追い求めています。

「天経或問(てんけいわくもん)」全4冊
 『天経或問』は、17世紀前半に中国の游子六(ゆうしろく)が書いた、天文、地理、気象に関する書物である。この資料は、江戸時代中期の1730(享保15)年に、天文家の西川正休が原文に訓点を施して、刊行したものである。
 この本は、西洋科学の知識が書かれていることから、江戸時代初期には禁書とされていたが、人々は手書きでコピーを作って、読んでいたという。その後、時代を経て、ついに公刊されたのが本資料で、江戸時代を通じてベストセラーとなった。
 嘉数次人 科学史担当学芸員
 学芸員歴22年。日本の天文学の歴史を中心とした科学史を専門としています。地元大阪で活動していた江戸期の科学者の紹介にも力を入れています。

Adivce to Lecturers
 Advice to Lecturers(講師へのアドバイス)は、英国王立研究所に所属した2人の科学者による金言集である。発行は1974年。発行元も英国王立研究所である。薄い冊子に講演をするにあたって重要な事項が語られている。いわば「プレゼン」の教科書である。アドバイスするのは、19世紀最高の科学者といわれるM.ファラデーと、史上最年少(25歳)のノーベル賞受賞者であるW.L.ブラッグ。いずれも、子どもや一般向けの講演会でも絶大な人気を博したプレゼンの達人であった。
 渡部義弥 天文学担当学芸員
 学芸員歴22年。ブラッグいわく「表現する才能は科学者にとって重要である。」プラネタリウム、講演、マスコミ出演や執筆…様々な場での科学の表現に注目している。

黒漆塗六十二間筋兜(くろうるしぬりろくじゅうにけんすじかぶと)
 室町時代(1336〜1573)に製作された鉄製の兜(かぶと)。銘(めい)としては天文三年8月とされているので、1534年製作となる。作は、明珍信家(みょうちんのぶいえ)。当時、甲冑(かっちゅう)を作る最高人物として、評判が高かった。
 人類が鉄を使用し始めたのは、紀元前3千年より前とされるが、日本における鉄の普及・利用は11世紀を過ぎてからになる。この兜が作られた頃は、国内で鉄砲の生産も行われている。また、農機具などについても鉄製品が一般的に利用されるようになっていた。
 小野昌弘 化学担当学芸員
 学芸員歴20年。ピカピカする金属が好きです。香りも好きです。そのあたりを3階で展示にしました。著書「元素がわかる(技術評論社)」は科学館のミュージアムショップでも販売中です。

1桁加算器
 日本では、電卓が普及するまでそろばんが広く使われていたため、そろばん以外の計算道具はあまり使われていなかった。経理の仕事や研究などでは、手回し式計算機や計算尺も使われていたが、一般にはあまり普及していなかった。しかし海外では、いろいろな計算道具が使われていた。
 この1桁加算器は、キーを押すことで1桁のたし算が計算できる。筆算でたし算をするときには、1桁ずつたし算を行なうので、その手助けをする計算機である。
 長谷川能三 物理担当学芸員
 学芸員歴20年。こういった計算道具などの身近な製品から虹や蜃気楼などの光学現象まで追いかけています。大阪湾で蜃気楼が見られることも発見。

蝋管音溝のスキャナ写真と音声データ【寄贈:ニューリー株式会社】
 エジソンの円筒型蝋管(レコード)の音溝のスキャナ拡大写真である。LPレコードの音溝とそっくりだが、この写真のもとになった蝋管は1907〜1908年頃のものなので、今から100年以上も前の音が刻まれた音溝だ。
 音溝に刻まれた音は、本来は針を通じて、リプロデューサー、あるいはサウンドボックスと呼ばれる装置で拡大されるが、それら無しで再生が可能となる。
 大倉宏 物理担当学芸員
 学芸員歴18年。静電気の歴史と飛行機やブーメランに関心を持っています。学生時代は原子核構造の理論的な研究をしていました。

S3トランシット【寄贈:大阪市文化財研究所】
 遺跡の発掘や土木工事などで使う測量機器。世界最古の企業とされる「金剛組」の流れを汲む八田スタンダード測機製作所製。
 トランシットは、セオドライト、経緯儀ともいう。水平、上下に動かせる小さな望遠鏡と、望遠鏡の向きを示す目盛盤を使って、目標物の角度を計測する。ものさしなど、目標物の大きさがあらかじめ分かっているものを観察すれば、見込む角度から、距離を測定できる。
 石坂千春 天文学担当学芸員
 学芸員歴15年。天文学や宇宙が研究テーマです。宇宙を知る楽しみを伝える著書「宇宙がわかる」(技術評論社)ミュージアム・ショップで好評発売中です!

キーソケット
 松下電器製作所(現パナソニック)製のキーソケット。1929年(昭和4年)5月製造。同年、大阪市此花区(現福島区)大開町に竣工した工場で製造された。キーソケットとは、ソケットの側面にキー型のオン・オフ用のスイッチがついたもの。
 素材には、1907年に誕生した世界初の実用的な合成プラスチック"フェノール樹脂(ベークライト)"が使われている。アメリカで開発されたフェノール樹脂は、電気を流さない性質があり、電気製品の発展に貢献した。
 岳川有紀子 化学担当学芸員
 学芸員歴14年。プラスチックの化学を、歴史や文化の視点を交えて調べています。「プラスチック100年」の研究発表では日本化学会優秀講演賞を受賞(2008年)。

アクアマリン単結晶
 アクアマリンは、「ベリル」という鉱物の中で、青系統の色を示すものにつけられた名前。この標本では、残念ながら割れ目が生じているが、それでも非常に大粒の結晶を観察することができる。周囲の白い鉱物は水晶。
 水晶は先端がとがった形に結晶するが、アクアマリンは両端が平らな六角柱の形に結晶する。鉱物ごとに結晶の形が異なるのは、構成する原子の配列が異なっていることに由来している。
 飯山青海 惑星科学担当学芸員
 学芸員歴10年。宇宙の石(隕石)も、地球の石も、担当しています。JAXAが小惑星の石を拾うお仕事(「はやぶさ」ミッション)も少しお手伝いしました。

気象衛星「ひまわり」衛星画像
 気象衛星「ひまわり」は1977年より気象観測を行っている。宇宙から気象観測が可能になったことにより、天気予報は飛躍的に進歩した。
 「ひまわり」は「可視画像」と「赤外画像」を取得している。2つの画像を比べることで、雲の高さや種類を調べることができる。可視画像は低い雲もはっきり写るが、夜は写らない。赤外画像は温度の違いで雲をとらえているため、夜でも撮影できる。テレビの天気予報で登場するのは、主に赤外画像である。
 江越 航 天文担当学芸員
 学芸員歴6年。「ひので」「すざく」といった天文衛星による最新の天文学の成果の普及のほか、気象予報士の資格も持ち、気象に関する普及活動も行っている。


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