アフタヌーン・レクチャー第1シリーズ

相対論的宇宙論入門〜ビッグバンの正しい間違え方〜【3】


2005年9月30日(金)14:00〜15:30

『宇宙について最も理解できないことは、宇宙が理解できる、ということだ。』 (A.アインシュタイン)


0.相対論的宇宙論が描く宇宙

 相対論的宇宙論(1917年)は時間・空間・物質を定量的に記述し、ビッグバン以後の宇宙のふるまいを説明できるようになった。
 今回は相対論的宇宙論が予測する宇宙のふるまいについて見ていく。


1.アインシュタインの宇宙方程式

 4次元時空(1次元の時間+3次元の空間)についての16個一組の式

 時空の構造(宇宙の振る舞い)=質量・エネルギーの分布(引力としての重力)+宇宙項(宇宙を膨張させる斥力)
  
 アインシュタインは宇宙を"静止"させるために宇宙項を導入し、宇宙膨張が発見された後は「間違いだった」と撤回したが、 現在では別の意味で必須の項になっている。


2.宇宙原理:非常に重要かつ強力な仮定「宇宙は一様・等方である

宇宙には特別な場所も方向もない。すべての場所で同じ密度、同じ温度、同じ物理量をもち、同じ物理法則が成り立つ(一様)。また、どちらの方向を見ても同じに見える(等方)」という仮定。

 ・だから、任意の2点間のふるまいを調べれば宇宙全体に適用できる(距離によらない)。
 ・また、人類が得た観測量を、宇宙全体を代表する物理量として使える(地球は宇宙の中心にいるわけではない)。

※宇宙を大局的に見た場合、宇宙原理に反する観測事実はない。
  宇宙背景放射、ハッブルの法則、銀河の分布・・・

ビッグバン宇宙論(相対論的宇宙論)は宇宙原理を仮定している
 このことを正しく理解できていれば、ビッグバンに関する様々な誤解や誤ったイメージは生じないはずである(第4回で解説する)。


3.宇宙のふるまい・・・宇宙はどのように膨張してきたか

(1)相対論的宇宙膨張

 宇宙原理を仮定すると、アインシュタイン方程式は非常に単純な式に書き換えられる。

   

ここで、

 a・・・スケールファクター  a=1/(1+z)   (z・・・赤方偏移)
 H0・・・ハッブル数(現在の膨張率):観測値 H0 = 71 km / s / Mpc
 Ω0・・・密度パラメータ(宇宙の物質密度を表す):観測値 Ω0 = 0.27 (2.7・10-30g/cm3
 ΩΛ・・・宇宙項(宇宙を膨張させる斥力) :観測値 ΩΛ = 0.73 (正体不明)


 スケールファクターは現在を1とした距離の比率なので、Ω0+ΩΛ=1

 また、パラメータの数値を代入すると、この方程式は積分できて、
  宇宙の年齢〜1/H0 = 137億年

宇宙膨張

となる。

※ビッグバン以降、宇宙は減速膨張をしてきたが、最近(40億年ほど前から)加速膨張に転じたらしい(第2のインフレーション?)


(2)相対論的宇宙論では解けない謎
  • なぜ宇宙論パラメータはその値なのか?・・・あまりにも人類の存在に都合のいい値になっている。
  • ダークマターの正体は何か?・・・Ω0 = 0.27のうち、通常の物質は0.04に過ぎない。
  • 宇宙項の正体は何か?・・・何が宇宙の斥力を生じさせるのか?
  • なぜ宇宙は膨張を選んだのか?・・・方程式は「どのように膨張してきたか」は教えてくれても、「なぜ膨張か」は語らない。

※ちなみに、Ω0 = 0.27に対応する宇宙の平均密度2.7・10-30g/cm3は水素原子に換算すると、約1個/m3である。 1気圧の空気中には約1025個/m3もの分子が入っており、 人工的に作り出せる"真空"にも約1020個/m3、 スペースシャトルが飛ぶ"宇宙空間"(地上400km)でさえ、約1011個/m3、 また星雲(分子雲)などで約109個/m3程度の分子(原子)が含まれていることを想起すれば、 この宇宙を大局的に均した場合、いかに真空であるか、が分かる。 この高真空状態にあっても、宇宙はとても広大なので重力が主要な項となるのである。

4.宇宙の歴史年表・・・その時、宇宙がうごいた

■現在〜46億年前(z〜0.4):地球の歴史
 ※たとえばにほんまつ動物病院のホームページを参照のこと

 宇宙が加速膨張に転じた頃に地球が誕生した。これは単なる偶然か、それとも何か意味があるのか・・・

■100億年前(z〜2)から:星と銀河の世界
★星は銀河の中で誕生と消滅を繰り返している。
★銀河は宇宙の中で集団(銀河団・超銀河団)を作っている。

■130億年前(z〜10):銀河と最初の星々の誕生コズミック・ルネッサンス
★宇宙が誕生して数億年のうちに最初の星が誕生し、銀河になる塊が合体を始める。
 →原始銀河探しは世界的に熾烈な競争になっている。
★最初の星は太陽の100倍もの質量をもつ巨大なもので、水素(と少しのヘリウム)だけからできていた。こうした星は寿命が短く(100万年程度)、すぐに超新星爆発を起こして、周りに元素(炭素、酸素、鉄など)をばら撒いた。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した129億光年彼方の赤ちゃん銀河(NASA/ESA/STScI)

■130億年前〜137億年前(z〜1000)暗黒時代
★観測すべき構造が何もない:星はないが、宇宙全体が月夜ぐらいの明るさだった。

■宇宙のはじまり:137億年前
★宇宙の始まりから38万年後:"晴れ上がり"(陽子と電子の出会い)
   
 宇宙背景放射CMBは宇宙全体が3000度くらいだったときの光の名残

★宇宙の始まりから3分後:ヘリウムの合成(陽子と中性子の出会い) T〜109K

  陽子と中性子から軽元素(He,Li,Be)が作られた・・・ガモフの火の玉宇宙

★宇宙の始まりから1秒後?:陽子の形成(クオークの自由が奪われた) T〜1010K
  クォークが通常の物質の中に閉じ込められた(素粒子論的宇宙)

★宇宙の始まりから10-6秒後?:クオークの出現(反物質の消滅)  T〜1013K
  熱(光)エネルギーが物質に変換された

★宇宙の始まりから10-12秒後?:ビッグバン(インフレーション終了) T〜1016K
  ダークエネルギーが熱(光)エネルギーに変換された(宇宙の相転移

★宇宙の始まりから10-36秒後?:膨張宇宙の誕生(インフレーション開始)
  強い力が電弱力と分岐した(量子論的宇宙)

★宇宙の始まりから10-44秒後:時間・空間の誕生?
  重力が生まれた(現代物理学の限界):プランク時間より短い出来事は現代物理では記述できない
  →百家争鳴状態(無からの生成ブレーン宇宙multiverse、・・・)


★参考文献:

P.Peebles「Principles of Physical Cosmology」(Princeton)
佐藤勝彦ほか「素粒子論的宇宙論の新展開」(数理科学2003年2月号)
L.M.クラウス「コスモス・オデッセイ」(紀伊国屋書店)


※宿 題:

 宇宙の年齢は長すぎてなかなか実感できません。宇宙の始まりからあなたの誕生までの宇宙の歴史(できごと)を1年間(365日)のカレンダーに換算してみてください(※宇宙カレンダーは故カール・セーガン博士が提唱しました)。
 カレンダーの作り方→こちらを参照のこと。


相対論的宇宙論入門【4】

石坂千春のページ


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