アフタヌーンレクチャー「相対論的宇宙論入門」実施報告

石坂千春

大阪市立科学館



概 要

 2005年9〜10月、アフタヌーンレクチャー第1シリーズ「相対論的宇宙論入門〜ビッグバンの正しい間違え方」を実施した。
レクチャーの教育効果を調べるために、聴講者に対して講義初日と最終日にアンケートを行った。その集計結果を報告する。


1.はじめに

 2005年は世界物理年であった。 大阪市立科学館でも世界物理年にちなみ、アフタヌーンレクチャーと題する普及教育行事を実施した。 アフタヌーンレクチャーは当館学芸員がそれぞれの専門分野を生かし、大人向けに科学講義を行うものである。 2005年度には第1〜第3シリーズを実施した(第2、第3シリーズに関してはそれぞれ参考文献[1][2]を参照のこと)。 実施日はすべて金曜日の午後で、各回14:00〜15:30、隔週4回連続である。 聴講料は4回分で一般2000円、友の会会員1500円であった。
 第1シリーズではアインシュタインの相対性理論に関連して「相対論的宇宙論入門〜ビッグバンの正しい間違え方」と題し、宇宙がどのようにして始まり、どのように進化したのか、また、ビッグバンとはなにか、といったテーマで相対論的宇宙論の概要を講義した。 定員50名に対し、67名の申込があった。
 レクチャーの教育効果を調べるため、聴講者に対して講義初日と講義最終日にアンケートを行った。 第2章では、講義の概要について報告し、アンケート内容とその集計結果については第3章で報告する。


2.講義の概要

 講義においては聴講者にレジュメを配布した上で、プレゼンテーション・ソフト(パワーポイント)を使用した。
 4回の講義テーマおよび当日の受講者数は次の通りである。 詳細な内容については筆者のホームページ[3]を参照されたい。

   9月 2日: 宇宙論の変遷       (受講者55人)
   9月16日: 宇宙膨張の観測的証拠      (51人)
   9月30日: 相対論的宇宙論入門       (46人)
  10月14日: ビッグバンの正しい間違え方  (43人)


 各回の参加者数は回を追っても大きく減ることはなく、1割程度の減少率で推移した。
 また、男女比率、年齢別は図1の通りである。男女比はほぼ同数、年齢別では60才代が最も多く、次いで40代、70代、30代と続いている。

図1 受講者男女別(上)、年齢別(下)



3.アンケートについて

3-1.アンケート内容

講義に当たり、聴講者に対し、初回と最終回にアンケートを実施した。 設問【1】【2】については初回、【3】【4】については最終回、【5】については初回と最終回両方でアンケートを行った。設問【5】を初回・最終回共に行ったのは、聴講者に対する講義の効果を知るためである。

 【1】 このアフタヌーンレクチャーのことをどこでお知りになりましたか?
 【2】いままで「宇宙論」について勉強したことがありますか?
 【3】第1シリーズ「相対論的宇宙論入門」の内容はいかがでしたか?(レクチャーの難易度)
 【4】第1シリーズ「相対論的宇宙論入門」を聴講して、あなたの目的は達せられましたか?(満足度)
 【5】次の文章は正しいと思いますか?それとも正しくないと思いますか?
   (1)宇宙は137億年前、ある一点から、大爆発によって始まった
   (2)137億光年より遠いところでも宇宙空間は同じように続いている
   (3)宇宙の果てでは銀河が光速で飛び去っている
   (4)宇宙論的赤方偏移は銀河の後退速度によるドップラー効果である


3-2.アンケート結果

アンケートの結果は次の通りである。


【1】当レクチャーのことをどこで知ったか
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図2 当レクチャーをどこで知ったか


 アフタヌーンレクチャーの実施は当館の広報媒体「科学館ニュース」で広報した他、専用のチラシを館内外各方面に送付し、また、当館友の会の会報「月刊うちゅう」でも呼びかけを行った。参加者のほとんど(80%)がこの3つの媒体によってレクチャーのことを知ったことが分かる。 一方、日本経済新聞社の科学雑誌「日経サイエンス」にも掲載されたが、残念ながらこれを見て参加した者はなかった。


【2】いままで「宇宙論」について勉強したことがあるか
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図3 宇宙論をいままでに勉強したことがあるか


 本、雑誌やテレビなどで、宇宙論についてかじったことのある参加者は多かったが、大学等で本格的に勉強したことのある者はほとんどおらず、今回初めて学ぶものも少なくなかった。


【3】「相対論的宇宙論入門」の難易度
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図4 「相対論的宇宙論入門」の難易度


 設問2をふまえ、歴史的な事柄から話を始め、数式をほとんど使わずにレクチャーを構成した。 受講者の65%がレクチャーの難易度を適度としている。容易すぎた、と答えた受講者は皆無であったが、難しかったと答えた受講者は35%いた。
 難しかった、と答えた理由を訊ねると、基礎知識がなかった、言葉が理解できなかった、直感的に理解できなかった、というものが多かった。


【4】レクチャー受講の満足度
   )足した  不満が残る  L亀入

図5 満足度


 ほぼ6割の受講者が「満足」と答えていることは喜ばしい限りである。「不満」と答えた理由については、難しかった、論理的な理解ができなかった、というものが多く、相対論的宇宙論を基礎知識のない受講者に数式なしで解説する困難を感じた。ただし、不満と答えたり、回答しなかったりした受講者の中にも、よく分からなかったが面白かった、もっと本を読みたい、という声があり、入門講座としては目的を達することができたのではないかと考える。


【5】理解度の変化〜レクチャーの効果
 設問5は、初回と最終回に同じ質問を行った。
 回答は4問とも、\気靴ぁ↓∪気靴ない、8斥佞琉嫐が分からない、から選択させた。


(1) 宇宙は137億年前、ある一点から、大爆発によって始まったか?

図6 設問(1)への回答



 初回時には約6割の受講者がビッグバンを「大爆発」と答えていたが、最終回時には13%に減り、約7割の受講者が「ビッグバンは大爆発とは違う」と回答している。受講者の理解が格段に進んだことを示している。
 宇宙膨張に関しては、無限に広がる空間そのものの膨張であることを直感的には理解できないことが、ビッグバンに対する正しい理解の妨げになっているようである。


(2) 137億光年より遠いところでも宇宙空間は同じように続いているか?

図7 設問(2)への回答



 初回時には、宇宙が空間的に無限と考える受講者と有限と考える受講者が半々であったが、受講後は8割を超える人が宇宙が無限に広がっていることを理解していた。
 宇宙原理を仮定している限り、宇宙に空間的境界は存在しえないが、「見たことがないので、分からない」と答えた受講者もいた。


(3) 宇宙の果てで銀河は光速で飛び去っているか?

図8 設問(3)への回答



 「宇宙の果て」「後退速度」という言葉の意味や、宇宙論で扱う一般相対性理論と、「光速」が限界となる特殊相対性理論との違いを理解できていれば、空間に対して運動をしていない銀河が「速度」というものを持つはずがないこと、また宇宙論的赤方偏移が見かけ上、光速を超えているように「観測」される場合もある、ということを理解できる。
 講義後は7割以上の受講者が理解できていた。


(4) 宇宙論的赤方偏移は銀河の後退速度によるドップラー効果であるか?

図9 設問(4)への回答



 初回時には圧倒的に言葉の意味が分からない受講者が多かったが、レクチャー後にはほとんどの受講者が言葉を理解し、宇宙論的赤方偏移がドップラー効果ではないことを正しく理解できていた。
 ただし、一般の解説書に安易に記述されているように、「後退速度」という言葉に引きずられて、宇宙論的赤方偏移をドップラー効果と誤解してしまう傾向が非常に強かった。


4.まとめ

 「相対論的宇宙論」、「ビッグバン」という言葉は科学や宇宙に興味のある人々を引きつけてやまない。 今回のレクチャーは、各シリーズで最も多い受講者をみた。
 ただし、本格的に宇宙論の勉強をしたわけではない受講者の多くは思い込みや安易なイメージ的理解をしており、当レクチャーでも、その既成概念の打ち壊しに労力を使った。正しく論理的に理解するためには訓練が必要であり、誤ったイメージによる概念形成ははるかに易しく執拗である。
 ここで受講者の声を挙げておく。
  • 雑学みたいな話もいっぱい聞けて、カラフルなイラストも見られて楽しかった。
  • 直観的に理解するのが難しい。もっと勉強が必要。
  • 感覚的には理解できたが、ロジカルに理解できたかというとそこまでは至らなかった。宇宙原理と空間の膨張を理解する上では有意義な内容だった。
  • 相対論的宇宙論は「宇宙原理」を仮定していることがわかり、宇宙の仕組みが少し理解できた。
  • 本によって様々な書き方がされていて、どのように考えてよいか分からなかったことを、それなりに整理することができた。
  • 今まで自分が思いこんでいた宇宙やBig Bangが全然ちがうものと分かり目からウロコが落ちた思いです。
  • 前提となる知識が全くなくても、楽しく親しみをもって聴講できた。簡単に素人が数時間で理解できるレベルの事柄ではないと思いますが、相対論的宇宙論に親しみを感じることができ、本当にありがたいです。
  • 分かりやすくお話していただけたのでよかったです。教員をしているので、いかに生徒に分かりやすく教えられるか参考になりました。
  • 星を見て「わぁ、きれい!」と感動する。少しでも宇宙の謎が解ければいいな、と参加しましたが謎は深まるばかり。でも、"分からない"ということが分かってよかったです。興味は尽きません。
  • 時々、意味を理解して納得するのに手間取ることがあり、その間に話が進んでしまってオタオタしました。でも、知りたかった内容は大体分かりましたし、色々詳しい説明やちょっとした余談などもあって楽しく拝聴しました。
  • 物理を知らずに相対性理論の本を読んでも理解できず、イメージがわかない事が多く、頭がついていかないと思いました。もっときちんと勉強したい。
  • 難しかったですが、分かりやすい例えなどを用いてご説明いただき、ありがとうございました。ビッグバンについてのイメージが、聴講の前後で変わりました。ただ、まだ自分の中で消化しきれていないところがあるので、ご教授いただいたことなどをもとに、これからも探求していきたいと思います。
  • 宇宙論に入門した感が生まれました。

 今後も相対論的宇宙論やビッグバンの正しい理解を一般に普及するため、分かりやすい解説の開発にたずさわっていきたい。


参考文献

[1]大倉宏 「原子核物理入門」実施報告 大阪市立科学館研究報告16号(2005年) P143
[2]長谷川能三 「光とは何だろう」実施報告 大阪市立科学館研究報告16号(2005年) P147
[3]石坂千春 「相対論的宇宙論入門〜ビッグバンの正しい間違え方〜」

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