長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告9,127-133(1999)



科学教室「だれでも作れるかんたんラジオ」実施報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 1996年度および1997年度に斎藤学芸員が行なった科学教室「だれでも作れるかんたんラジオ」を改良し、夏休みに科学教室を実施したので報告する。

1.はじめに
 ラジオ放送を聞くことができるのは、電波によって音声信号が送られてきているからであるが、電波(電磁波)は信号を伝えているだけではなく、エネルギーも伝えている。 現在のラジオは電池などを使うために電磁波のエネルギーを意識することがないが、電源不要の鉱石ラジオやゲルマニウムラジオでは、電磁波にエネルギーがあることを実感することができる。 そこで今回の科学教室では、ゲルマニウムラジオを通して電磁波について理解を深めることを目的とした。また、ゲルマニウムラジオの製作を通じて、電気回路や電子部品に対する興味を持ってもらうことも目的とした。

2.実施日時
 1998年7月30日(木)14時〜16時
 31日(金)14時〜16時

3.内容
(1) 電池で音を出す
 スピーカーやイヤホンに電池をつないでみて、音が聞こえるかどうか実験した。 この実験から、電池にはスピーカーやイヤホンから音を出す能力があるが、音が出るのは電池をつないだり離したりしたときであることがわかった。

(2) 連続音を出す
 (1)の実験から、音を出し出し続けるには、イヤホンに電源とスイッチをつなぎ、スイッチのON・OFFを繰り返し行なわなければならないことがわかる。 そこで、その代わりにオシレーター(周波数可変発振器)の出力をパルス波にセットし、参加者のイヤホンをつないで周波数をだんだん上げていくとどのような音が聞こえるか実験した。 この実験により、最初はスイッチのON・OFFと同じ断続音だったものが、次第に連続音として聞こえるようになり、しかもだんだん高い音に変化していくことがわかった。 また、出力を正弦波に切り替えて同様の実験を行なうことにより、電圧の変化がイヤホンによって音にかえられ、その周期によって音の高さが決まることもわかった。 さらに、あまりにも周波数が高くなると音が聞こえなくなることも実験した。

(3) アンテナによる電波の受信
 電池などの電源につながず、1m程度の被覆線だけをつないだイヤホンで、ヘルツの実験を行なった。 電波源には誘導コイルにアンテナ(ベニヤ板にアルミ箔を貼ったもの)をつないで使用した。 この実験により、誘導コイルからは「何か目には見えないが電気を伝えるもの」がイヤホンに伝わっていることがわかった。 そこで、この電気を伝えているものが電波であり、ラジオの場合にも放送局から電波で放送が送られていることを解説した。

(4) ラジオの製作
 前年度まで齋藤学芸員が行なった教室では、
 ・ ハンダ付けに時間がかかる
 ・ ポリバリコン(容量可変コンデンサ)がやや高価
 ・ マイクロインダクタがコイルには見えない
といった点が気になっていた。 そこで今回の製作したゲルマニウムラジオでは、コンデンサーは容量の決まった安価なセラミックコンデンサを使用し、コイルは塩化ビニール製の水道管を切ったものにエナメル線を巻いたものを用意した。 このため、ラジオの同調はコイルにフェライトコアをどの程度差し込むかでインダタンスを変化させることにより行なう。 また、ベニヤ板の台座にねじでバネを固定して、このバネに部品を挟み込むことによりハンダ付けを不要とした。

(5) その他
 アンテナは、約25mの被覆線を建物から2m程度離して張り、末端を分岐して参加者で供用した。 しかし自宅に帰ってからは自分でアンテナを張る必要があるので、アンテナの代用になるものをいろいろ紹介し、またさまざまな方法を試してみることを示唆した。 大阪ではAMラジオの送信所が高石市や堺市などにあり、送信所に近い地域では1m程度のアンテナでもよく聞こえたようである。 しかし、大阪府内でも北摂地域などでは比較的電波が弱く、アンテナを長く伸ばしても小さな音でしか聞こえなかったようである。 今回は紹介しなかったが、アンテナ線を電話機のコード(電話線)に巻き付けるのが、比較的安全で電波の弱い地域でもよく聞こえる方法と思われる。
 また、これを機会に電子工作に興味を持ってもらえたらと思い、電子部品や電子工作キットの入手先を紹介した。
4.テキスト
 当日配布したテキストには作り方は記載せず、実験結果を書き込めるようにした。 また、家に帰ってから参考になるアンテナのことなどを記載した。 このテキストを129〜130ページに掲載する。

5.考察
 今回の教室では、ラジオの仕様変更に伴い事前の準備に手間がかかったが、その分ハンダ付けを行なわないなど当日の負担が軽減した。 また、工作にかける時間を短くすることができたことから、電気や電磁波に関する実験に時間を多めに割くことができた。 さらにハンダ付けがないことから、参加年齢の制限を、昨年までの小学5年生以上から小学4年生以上へと緩和させたが、特に混乱はなかった。 これは、前年度まで3月実施であったことを考慮すると、1年8ヶ月の年齢制限の緩和になる。
 また、2日間で各日30名、計60名の定員であったが、2倍を越える応募があり、当日参加できなかった人や来館者のためにキット販売も行なった。 販売キットでは工作内容は同じであるが、装置が必要な実験は行なえないため、電磁波に関する実験は省いた。 その代わり、指導員がいなくても工作ができるように、詳しい作り方のテキストを同梱した。 この販売キットに同梱したテキストを131〜133ページに掲載する。 またこの販売キットは、用意した74個を8月・9月で完売した。


[参考文献]
斎藤 吉彦
   大阪市立科学館研究報告No.7,99 (1997)
斎藤 吉彦
   大阪市立科学館研究報告No.8,89 (1998)