長谷川能三のHP研究報告誌  大阪市立科学館研究報告10,83-84(2000)



新展示「虹スクリーン」「スペクトル」製作報告


長谷川 能三

大阪市立科学館


概要
 展示改装に伴い、4階サイエンスタイムトンネルでの光学のハンズオン展示として、「虹スクリーン」と「スペクトル」を製作したので報告する。

1.はじめに
 今回の展示改装で導入した「虹スクリーン」と「スペクトル」は、1999年3月〜5月のサイエンスショー「ひかり・ぴかり・きらっ」での実験内容を展示化したものである。
 人が目の前で行なうサイエンスショーと比べると、伝えられることに制限はあると思われるが、3ヶ月間の期間限定で行なうサイエンスショーに対し、展示場では常設であることの意味は大きいと思われる。

2.「虹スクリーン」
 虹は、雨上がりの空中に漂う水滴によって、太陽の光が分光して見える現象である。 「虹スクリーン」は水滴の代わりに小さなプラスチックのビーズをスクリーンに貼り付けたものであり、背後から当てた照明の光によって虹ができる。
 この虹スクリーンに使用されているビーズは、「虹ビーズ」という名称で中村理科機器から発売されているものであるが、これ以外でもガラスの小さなビーズで虹が見えるものもある。
 
写真1.新展示「虹スクリーン」 写真2.サイエンスショーで使用した
「虹スクリーン」
 この虹ビーズの素材は、屈折率が水よりも大きいため、見える虹は実際の虹に比べると、小さなものとなっている。 また、実際の虹と違って光源が近くにあるために、左右の目で見える虹の方向に差ができる。 光源を観察者の背後においた場合には、右目で見える虹は左目で見える虹よりも右方向にずれて見えるため、虹がダブって見える。 これに対し、光源を観察者よりスクリーン側においた場合には、右目で見える虹は左目で見える虹より左方向にずれてみえるため、これが視差となって虹が宙に浮かんでいるように見える。
 そこで、新展示「虹スクリーン」では、背後からの照明以外に、手で持って移動できる光源も用意した。 しかし、スイッチを付けて必要な時だけ点灯するようにすると、これまでの経験によりスイッチの耐久性が心配であった。 また、スイッチをなくし常時点灯させておくと、電球の熱が心配であった。 そこで、ほとんど発熱しない白色の発光ダイオードを使用した。 明るさは電球に比べるとやや暗いものの、フィラメントが切れる心配もなく、適切だと思われた。 しかし、実際に新展示が完成すると、発光ダイオードは照射範囲が限られるため虹を発見できない、コードがねじ切れるといった問題がでてきた。 そこで現在、発光ダイオードの数を増やして照射範囲を広げることや、コードの取り付け方法の改善を検討中である。

3.「スペクトル」
 虹は一番身近な分光現象であるが、分解能は低く、分光方法としては一般にプリズムや回折格子が使われる。 「スペクトル」では、回折格子を用いていろいろな光源の光を分光して、そのスペクトルを観察できるようにした。
 光源としては、蛍光灯と白熱電球、および3種類のスペクトル管の計5種類を用意した。 蛍光灯は小型のものを使用しているが、点灯にやや時間がかかるのが難点である。 白熱電球は通常の電球型のものではなく、「メトロ管球」という蛍光灯のような形のものを使用した。 これはフィラメントが非常に長く、蛍光灯やスペクトル管とスペクトルを比較するのに都合がよい。 スペクトル管は、「ヘリウム」「ネオン」「窒素」の3種類を用意したが、「窒素」は寿命が短く、常設展示には向かなかった。 そこで、「窒素」代用として、展示場でもスペクトルが見える明るさが確保できる「水素」「水銀」「塩素」も試してみたが、いずれも寿命が短かった。 そこで現在、スペクトル管の代わりに「低圧ナトリウムランプ」の使用を検討している。 ただ、スイッチを入れるとすぐ点くというランプではないため、常時点灯しておいて、スイッチ操作でシャッターを開けるといった工夫が必要となる。
 
写真3.新展示「スペクトル」 写真4.サイエンスショーで使用した
スペクトル関係の機器の一例
 また、回折格子については、格子間隔が狭い方がスペクトルが大きく広がるが、その分スペクトルは光源から離れた角度で見えるため、スペクトルが見つけにくくなる。 そこで、サイエンスショーの経験を生かし、今回は格子間隔が約500本/mmとやや広いものを使用した。 ちなみに、サイエンスショーでは来館者がどのような方向で回折格子を持ってもスペクトルが見えるように、縦横に格子が並んだものを使用したが、今回の展示装置では回折格子にハンドルを付けることにより、縦方向にのみ格子が並んだ回折格子を使用した。


[参考文献]
長谷川 能三
  『サイエンスショー「ひかり・ぴかり・きらっ」実施報告』 大阪市立科学館研究報告No.9,109 (1999)