長谷川能三のHP月刊『うちゅう』窮理の部屋  大阪市立科学館 友の会 『月刊うちゅう』 1999年7月号

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ DOUBLE REFRACTION
窮理の部屋13
光のお話 −複屈折と偏光−

図1.セロハンテープを貼った偏光フィルター
 『うちゅう』1999年3月号(※)の『光のお話−偏光−』(斎藤吉彦)を覚えているでしょうか? 2枚の偏光フィルターを重ねると、重ねる向きによっては真っ黒になってしまいましたね。 ところが、 2枚の偏光フィルターを重ねる前に片方の偏光フィルターの表面にセロハンテープをべたべた貼っておくと、 2枚のフィルターを重ねても真っ黒にはならず、 まるでステンドグラスのようにいろいろな色に透けて見えます(写真1)。 同じように、岩石をスライスして向こうが透けて見えるくらい(0.02〜0.03mm)まで薄く磨いたもの(薄片)を 2枚の偏光フィルターの間に挟んで顕微鏡で見ると、岩石の中の細かい粒々がカラフルな色に見え、 さらに偏光フィルターの向きを変えると、色も変わります。 石に関する本や、教科書などで見たことはないでしょうか?
 ここで、話を先に進める前に光についてまとめておきましょう。 光には波の性質があるのですが、海の波というより長いロープを振ってできた波に似ています。 ロープの場合、ロープを左右に振れば横方向にうねった波になりますし、 上下に振れば縦にうねった波になります(図1)。 光の場合は「偏光」というのが波のうねっている方向のことで、 偏光フィルターはある方向に偏光した光(の成分)しか通しません。 このため2つの偏光フィルターを直角に重ねると光は通ることができず、真っ黒になります(図2)。 それから、ロープを振る速さによって、波の山から山までの長さ(ひと繰り返しの長さ)が変わります。 この長さを波長といって、光の場合はおよそ380〜770nm(ナノメートル)です。 光の色は波長で決まり、赤い光は波長が長く、虹の七色の順に波長は短くなります。
(a)横に偏光した光(b)縦に偏光した光
図1.光の波の偏光図2.偏光フィルターと光
 さてそれでは話を元に戻して、偏光フィルターにセロハンテープを貼ると、 どうしてカラフルな色に見えるのでしょうか? セロハンテープは、製造するときに材料を引き延ばして作っているようで、 テープの長さ方向と幅方向では少し性質が違っています。 このため、 セロハンテープにあてる光がテープの長さ方向に偏光しているのか幅方向に偏光しているのかによって、 屈折率が少し違うのです。 このような性質を複屈折といいます。
 屈折率というのは、光がどのくらい屈折する(表面で曲がる)かを表わしていますが、 光が屈折するのは物質中で光の波長が変わるからです。 物質中の光の波長は、真空中での波長の[屈折率]分の1になります (光の色は真空中での波長で決まっているので、屈折率によって色が変わるわけではありません)。
 それでは、偏光の向きによって屈折率が異なるものに、 斜めに偏光した光があたるとどうなるのでしょうか(図3)。 この場合は、光の偏光をテープの長さ方向の成分と幅方向の成分に分けると考えやすくなります。 セロハンテープにあたるまでの光では、テープの長さ方向の光の成分と幅方向の光の成分は、 波の山や谷になる位置が一致しています。 しかしセロハンテープの中に入ると波長が違うので、 長さ方向の成分と幅方向の成分では、山や谷の位置が少しずつずれていきます。 このため、偏光の方向が元の光とは全く違ってしまったり、 円偏光というロープをくるくる回したような偏光になったりします(図4)。
図3.斜めに偏光した光図4.複屈折による偏光方向の変化
 このようにして、 セロハンテープを抜けてきた光は2枚目の偏光フィルターも通り抜けることができるのです。 しかも、 元々の光の波長(光の色)とテープの厚さによって偏光の向きがどの程度変化するかが違うため、 セロハンテープの重ね具合によって、ステンドグラスのようなカラフルな色になるのです。 しかし、逆に、 偏光フィルターが通す光の偏光の向きに平行に(もしくは垂直に)セロハンテープを貼っても、 偏光の向きが変わりませんので、ステンドグラスのようにはなりません。 ご注意を…

※『うちゅう』バックナンバーは、科学館にて1冊200円でお分けしています。
大阪市立科学館 友の会 『月刊うちゅう』 1999年7月号