長谷川能三のHP月刊『うちゅう』窮理の部屋  

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ THE GLOBE
窮理の部屋19
地球の測り方

1.地球は丸い?
 「地球が丸い」のはみなさんご承知の通りですが、「地球が丸いと実感」したことはあるでしょうか? 「水平線が丸い」「水平線の向こうに消えていく船が下から順に隠れていく」「地球儀が丸い」「アポロから写した地球の写真を見た」「大阪から見えない南十字星も、南に行けば見える」「月食の時に月が地球の丸い影に隠されていく」など、思いあたることがあるかもしれません。
 でも、地球儀やアポロの写真で「実感」というのはちょっと寂しいですね。 それから水平線隠れていく船は非常に小さく、隠れるのにも時間がかかるので、実際にこの様子を見たという人は少ないのではないでしょうか(逆に、船に乗って陸に近づくと山の頂上から順に見えてくるという方がわかりやすいですね)。 また、千葉県の銚子には「地球の丸く見える丘展望館」という所もあるのですが、水平線が丸いというのは本当なんでしょうか?

2.水平線
図1.水平線
 水平線を見ると結構遠くまで見渡せているような気がします。 例えば砂浜の波打ち際に立って(海面から1.5mの高さで)水平線を眺めると、見えている水平線は約4.4km先になります。 また、「水平線」とはいいますが、図1のように水平線は水平方向からわずか0.04度ですが下の方に見えます。 これが、海面から高さ15mの展望台からだと水平線は14km先で水平方向から0.12度下になり、150mの小高い山の上からだと44km先で0.39度下になります。 もっと極端な場合で、地上500kmだと水平線は2600kmも先で水平方向から22度も下に見えます。 これは、地面描いた半径4mの円を、中心に立って見ているのと同じになります。 これくらいだと水平線はまっすぐではなく、丸く上に膨らんだ形になっていることがわかるでしょうね。 ただし地上500kmというと、だいたいスペースシャトルの飛んでいる高さになってしまいます。
 つまり、スペースシャトルに乗って地上500kmまで上がれば、地球が丸いということが感じられそうです。 しかし、150mの小高い山に登ったくらいでは、水平線は水平方向からわずか0.39度下にしか見えませんから、水平線が丸く見えるというのは…気のせいかもしれませんね。

3.地球を測った男
図2.エラトステネスの方法
 地球が丸いことは、実感することが結構難しいのに、かなり古くから知られています。 紀元前200年頃のギリシアの数学者エラトステネスは、地球が丸いかどうかどころか、その大きさまで測っているのです。 彼は、夏至の日に南エジプトのシエネ(現在のアスワン)で太陽の光が深い井戸の底まで射し込む、つまり太陽が天頂を通ることを知りました。 しかしアレキサンドリアでは、夏至の日の太陽は天頂から7度南を通ります。 そこで、シエネとアレキサンドリアとは緯度が7度違うと考え、シエネ〜アレキサンドリアの距離を約50倍して、地球の周囲は約45000km(実際には約40000km)であると計算しています。

4.地球を歩かない地球の測り方
 しかしエラトステネスの方法は、シエネ〜アレキサンドリアの距離を測らないといけません。 もっと簡単に地球の大きさを測る方法はないのでしょうか。
 上に書いたように、高い位置になるほど水平線は水平方向より下の方に見えるようになります。 ですから、波打ち際に座って夕陽を見た場合と、立って見た場合では、水平線の見える高さがわずかに違っているはずです。 このため、座って太陽が水平線に沈みきるのを見た後、すぐに立ち上がると、もう一度太陽が見え、また沈んでいくことになるのです。
 太陽が1度余計に沈むためには、( 240/cos 緯度 ) 秒だけ ( 北緯35度では293秒 ) 時間がかかります。 このため、座って太陽が沈むのを見てから、立ち上がってもう一度太陽が沈むまで3秒かかったとすれば、水平線の見える高さ(角度)が約100分の1度違うことになります。
 また、水平線の見える高さ(水平方向からの角度)は、海面からの高さをh、地球半径をRとすると、 になります。 座ったときと立ったときの海面から目までの高さを測り、それぞれの高さでの水平線の高さ(角度)を求め、その差を計算すると、上の例では100分の1度になるはずです。 逆に角度の差からRを求めることができ、これは地球の半径を測っていることになるのです。
 水平線に沈む夕陽を見かけたら、地球の大きさを測ってみませんか?
大阪市立科学館 友の会 『月刊うちゅう』 2000年1月号