長谷川能三のHP月刊『うちゅう』窮理の部屋  

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窮理の部屋 28
おいしいビールの話(2)

 夏の間は「ちょっと風呂上がりにビールでも…」という方も多かったかもしれませんね。 今年の夏は記録的な暑さだったようですが、そんな夏も終わり、ようやく秋の気配がやってきました。 でも、未成年の方やお酒を飲まない方には申し訳ないのですが、7月号に引き続き「おいしいビールの話」です。
 今回のおいしいビールは「ドラフト・ギネス」というアイルランドのビールです(写真1左)。 黒に近い濃い色で、焙煎の苦み香ばしい…。 なかなかおいしいのですが、夏よりも秋〜冬向きのビールですね。
 
写真1.「ドラフト・ギネス」ビール写真2.クリーミーな泡
 さて、よく冷やしたこのドラフト・ギネスの缶をあけ、ガラスのコップに注ぐと、最初はコーヒー牛乳のような色をしているのですが、しだいにビールと泡が分離してきます。 そして、泡に爪楊枝がつき刺さるくらい非常に細かい泡ができるのです(写真2)。
 あれっ?前回の「おいしいビールの話」では、細かい泡を作るために、内側が素焼きになった陶器製のマグカップがいいということで、ガラスのコップでは細かい泡ができなかったはず…。 しかしこのビールの缶には、「グラスを傾けて」ビールを注ぐということが書いてあります。 グラスを使って、しかもそのグラスを傾けるというのは、泡をなるべく出さないビールの注ぎ方ですね。 それなのに、このドラフト・ギネスなら、非常に細かいクリーミーな泡ができるのです。
写真3.缶に入っていたボール
 ドラフト・ギネスの缶を振ってみると、カラカラ音がします。 何が入っいるんだろうということで、空き缶を開いてみると、中から写真のような堅いボールが出てきました。 写真ではわかりませんが、このボールには小さな穴がひとつあいています。 このボールが、ドラフト・ギネスのクリーミーな泡の秘密だったのです。
 ビールの缶を開ける前は缶の中は高圧になっていて、このボールの中にも高圧のガス(おそらく二酸化炭素か窒素)が入っています。 缶を開けると圧力が下がるため、ボールの小さな穴からガスが吹き出してきます。 これがビールに細かい泡を作っていたのです。
 ちなみに、この「ドラフト・ギネス」を夏前から数本買っていたのですが、この夏、パッケージデザインが新しく変わったようです。 写真1の右が従来の缶で、左が新しい缶です(ちなみに、まん中は「ドラフト」ではない「ギネス」で、細かい泡になる特別な仕掛けは付いていないため、同じ330ミリリットル入りでも缶はひとまわり小さい)。 ところが、この写真1右の従来の缶にはボールは入っていなくて、振ってもカラカラ音はしません。 そこで、こちらの缶も開いてみると、ボールの代わりになるプラスチック製の中空部品が、缶の底に入っていました。 これにもやはり小さな穴があいていて、缶をあけたときに吹き出したガスでクリーミーな泡を作っていることにはかわりはありませんでした。
写真4.缶底に入っていた仕掛け
 ところで、このようなプラスチックの仕掛けが入っていると、アルミ缶のリサイクルに支障があるのではないかと思い輸入販売元に問い合わせてみました。 すると、アルミのリサイクルでは、非常に高い温度でアルミを融かすため、このプラスチック部品は燃えて完全になくなり、しかも不純物の燃焼を助ける助燃剤の役割をするということでした。
大阪市立科学館 友の会 『月刊うちゅう』 2000年10月号