サイエンスショー「電池の実験」実施報告

現代の生活に欠かすことのできない電池。その歴史的な内容を紹介するサイエンスショーを行った。本実験は、1999年12月から2000年2月いっぱいまで行ったサイエンスショーの リバイバルであるが、内容を少し改めて、再実施した。その内容について報告する。

1.はじめに
2005年3月1日から5月31日まで行った電池の実験は、世界で最初の電池を紹介し、その仕組みと、その後の科学に与えた影響などを紹介する形で進めた。他に、乾電池を直列に64個つなげることで、どんなことができるか、また、家庭でもできる簡単な電池の作り方などを紹介した。
普段良く使うことはあっても、その歴史や、中身については、ほとんど省みられることのない電池について、改めて関心を持ってもらえるような内容とした。



2.実験内容
実演した実験の基本的な内容は変わらないので、その詳細については、大阪市立科学館研究報告誌第10号(こちら)を参照されたい。ここでは、変更点を中心に内容を解説する。

実験項目
(1)静電気の実験*

 写真1.イタリアの旧札のボルタ肖像画     写真2.ニギルト電池の電極


(2)世界で最初の電池−ボルタの電池−
(3)11円電池*
(4)人間電池
(5)96V電池
(6)備長炭電池*
(7)ニギルト電池

*についての内容紹介は、ここでは省略。

(1)静電気実験 省略
(2)世界で最初の電池 前回のサイエンスショーでは、銅板とアルミ板 を用いて実験を行っていたが、今回は、アルミ板の変わりにボルタ(写真1)が用いたのと同じ亜鉛板を使用した。電池の作り方としては、単純で亜鉛板と銅板の間に塩水を含ませたタオルを挟みこむだけである。
(3)11円電池 省略
(4)人間電池 サイエンスショーの見学者の中から、4〜5名ほど参加してもらい、アルミ缶とスプーンを握らせて一人一人をコードでつないでいく。両端に電子オルゴールを取り付け、音を鳴らすことで電圧が発生していることを示す。
(5)96V電池 乾電池を64本直列につなぎ、プラス端子側にカッターの刃、マイナス端子側にシャープペンシルの芯を取り付ける。この両者を短絡させると、強い発光を伴い火花を散らし、カッターの刃を焼ききることができる。
(6)備長炭電池  省略
(7)ニギルト電池 金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムを巻きつけたり、貼ったりした棒を用意した。(写真2) その中から、2種類を選択して握り、電位が発生することを電子オルゴールが鳴ることで確認した。


3.解説
(1)静電気実験 省略
(2)世界で最初の電池 前回1999年実施時には、アルミ板を負極の電極として使用をしていたが、今回は、ボルタが行ったのと同じ亜鉛を使用した。 アルミと亜鉛の違いは、電池を作ったときに、電極の腐食が激しいことである。アルミと違い、亜鉛の表面には、酸化皮膜ができないため、簡単に腐食されるのではないかと考えられる。 そのため、途中で、何度も亜鉛板を新品と替えなければならなかった。 ちなみに亜鉛の酸化還元電位は以下の通りである。
Zn ⇔ Zn2+ +2e-    E゜=−0.76V

(3)11円電池 省略
(4)人間電池 使用したアルミ缶は、内容物を空にしたものを使ったのだが、握ったときの力加減が分からない子どもに、しばしば握りつぶされた。その対策として、期間途中から缶の中に発泡ウレタンを充填したのだが、それがプルタブの部分から見えるため、そこに何か秘密があるのではないかと実験をしていた子どもに指摘を受けることがあった。 実験道具の消耗を押さえるために取った対策が、逆に実験に疑念を抱かせることになってしまったようである。
(5)96V電池 サイエンスプロデューサーの米村傳冶郎氏がテレビで実演していたものをスペックダウン

 
写真3.96V電池の実験装置。この台には7本までアクリルパイプを立てられる。最大112個まで電池をセットすることができる。

したものである。ただし、見学者に電池が何本あるかを良く見えるようにアクリルパイプに詰め込み、工作した設置台にU字フックを利用して垂直に立てるようにした。 使用したアクリルパイプは長さ1m、外径が40mm、内径35mmのものを使用した。そうすると、ほぼ単1電池の外径約33mmに等しくなり、パイプの中でずれることなく、つなげることができる。また、電極部分は、ゴム栓に鍋ネジを埋め込んだものとした。

サイエンスショーでは、64本の電池を直列につなぎ96Vを得てショートさせることにした。実際、煮電圧を測定すると、新しい電池をつないだときは、電圧が104V前後であった。新品の電池をおろして、1日3回から4回の実施で、約2月間同じ電池で実験をすることができた。なお、カッターの刃が融けにくくなるなど、調子が悪くなってきたときの電圧は、 91V前後に落ちていた。 3ヶ月の実施期間の間電池を交換したのは1回だけだった。

 この実験では、シャープペンの芯とカッターの刃をショートさせたときに強烈な発光が伴う。恐らく紫外線も出ているため、裸眼で直視すると目に悪影響を及ぼす。そこで演示者は、溶接用サングラスを掛けた。また、見学者用には、直径約30cmのアクリルパイプに自動車の窓ガラスに貼る紫外線カットフィルムの一番暗いものを貼り付けその中で実験するようにした。 実験を見てもらう際には、まず、閃光を防御するカバーをせずにカッターの刃とシャープペンの芯を一瞬ショートさせ、強烈な閃光が出ることを確認した。 その後、カバーをつけて実験を行ったが、火花を結構飛ば

写真4.アクリルパイプに紫外線
カットフィルムを巻いたもの。可視光
透過率は5%のもの
写真5.融けたカッターの刃。焼き切ることもできるが、
刃の間を大きくえぐり、刃の状態がどうなっているのか
を見せることが多かった。なお、カッターの刃であるため、
融かした部分は、折って捨てることができ、次の部分が
すぐ実験できるようになる。

すので、花火のようにも見える。実際には、カッターの刃を焼き切ることができるが、見学者からは、その状態がわかりにくいことがあるので、刃の途中をえぐるようにして融かした。

(6)備長炭電池 省略
(7)ニギルト電池 本サイエンスショーではほとんど実演することが無かったが、実験が終了した後、お客さんとの質問などのやり取りの中で、サービス実験として行っていた。(4)の人間電池と内容が重なるため、あまり実験をしなかったという理由があるが、別の理由としては、用意した電極の製作ミスが挙げられる。

今回用意した電極のうち、金と銀の電極については、金箔と銀箔を直径3cm程度の木の棒に貼り付けたものであった。これを、大人が握る分には、問題が無かったが、手にいつも汗をかいているような子供たちが握ると、たちまち箔がはがれてしまい、子供たちの手についてしまった。今回はスプレーのりで箔を貼り付けたため、そういった問題が生じたのかもしれない。本来、金箔などは漆を用いて接着するが、今回のスプレーのりなどでの接着法では弱かったものと考えられる。 また、金や銀をめっきしてくれる業者もあるので、そちらで製作してもらう手もある。


4.まとめ
今回のサイエンスショーでは、非常に身近である電池について取り上げた。身近でもあるにもかかわらず、その歴史などについては、ほとんど知られていない。そのような中で行った本サイエンスショーであるが、やはり、最初のボルタ電池のシンプルさには、多くの人が驚いていたようであった。
 実験の演出については、本サイエンスショーは、弱い電圧、電流を発生させる電池を紹介こともあったが、電池になっていると言うことを証明するために電子オルゴールを使用した。音が小さいため、あまりにサイエンスショーの会場外が騒がしいときには、マイクで音を拾うなどしなければならなかった。そうでない場合は、見学者に対して、静かにしてもらって音を聴いてもらうなど、意識を集中してもらうには良かったかもしれない。 しかし、やはり何か大きな音、動きなどの表現ができないものかと模索し続けたのは言わずもがなである。今後の実験のためにも、この電池になっていることを示す道具を開発したい。

謝辞
96V 電池の予備実験を行うにあたり、そのセッティングなどに多大な協力をしていただいた、渡辺孝史氏に紙面を借りてお礼申し上げます。

参考文献
・小野昌弘 大阪市科学館研究報告誌第10号 (2000) p113


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