裸の暗黒物質

ガスをはぎ取られた暗黒物質

ガスと暗黒物質が分離した銀河団([NASA/STScI; ESO WFI; Magellan/U.Arizona/D.Clowe et al.])  世の中では、目に見えるものより、目に見えないものの方が圧倒的に多く、そして重要です。
 宇宙も同じです。宇宙を支配しているのは暗黒エネルギー(宇宙項)であり、暗黒物質です。 しかしこれらは直接見ることはできません。

 今回、アメリカ航空宇宙局NASAのX線観測衛星チャンドラとハッブル宇宙望遠鏡の研究者らが、通常の物質と暗黒物質が分離している天体を撮影しました。

 この天体は1E0657−56という銀河団(銀河の集団)で、 ピンク色に見える部分がチャンドラ衛星によって撮影された高温ガスの存在する領域、 青い部分はハッブル宇宙望遠鏡などで撮影された銀河の分布(重力レンズ効果)から求めた暗黒物質の存在する領域です。

 実は銀河団1E0657−56は2つの銀河団が衝突した直後です。

 銀河団は文字通り銀河の集団ですが、その質量の90%は暗黒物質が占め、銀河の合計質量は10%もありません。 そして、銀河と同量か、少し多いぐらいの高温プラズマ(銀河団ガス)が銀河団を満たしています。

 銀河団は宇宙最大クラスの天体ですが、より小規模の銀河団や銀河群が合体することで、大きく成長してきたと考えられています。 銀河団同士が衝突合体をするとき、銀河や暗黒物質は一旦通り過ぎます(やがて互いの重力により戻ってきて合体します)が、双方の銀河団ガスは通り抜けることができずに、ぶつかり合い、密度や温度が上がります(衝撃波の発生)。

 チャンドラ衛星の写真に写っているピンク色の部分は、ぶつかり合う銀河団ガスを表しているのです。 写真中央右側に三角の領域がありますが、これは左から右に抜けた小銀河団に附属していた銀河団ガスの特に濃い部分が、衝突の衝撃によって高温高密になったものです。
 また、ピンク色の領域の真ん中にたてに黒い筋が入っていますが、これは一度高温になった銀河団ガスが、膨張して密度と温度が下がった領域です。

 チャンドラ衛星とハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真を重ね合わせたこの画像には、銀河団同士の衝突によってガスをはぎ取られ裸になった暗黒物質が映っているのです。

※原文は英語ですが、NASAのプレスリリースをご覧ください。


2006.8.23記(石坂

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