ダークマターのリング
銀河団Cl0024+17のダークマター・リング(青白くボーっとした雲のようなところ[NASA, ESA, M. Jee and H. Ford (Johns Hopkins University)])

リング状の暗黒物質!?

 アメリカ・ヨーロッパの天文学者グループがハッブル宇宙望遠鏡HST(アメリカ航空宇宙局NASA/ヨーロッパ宇宙局ESA)を使って、 50億光年かなたの銀河団CL0024+17に、リング状のダークマターのかたまりがあることを発見しました。 ダークマターの存在をここまではっきりと可視化できたのは初めて、そして何より、リング状になっているダークマター分布を明らかにしたのも初めてのことです。

 宇宙はその質量のほとんどが光を発さず、光を反射することもない(そして光を遮ることさえもない暗黒物質ダークマターによって占められています(ダークマターは通常物質の7倍ほどあることが分かっています)。
 ダークマターは光を出しませんので、望遠鏡で直接"見る"ことはできません。

 今回、研究者らがダークマターの分布を調べるために使ったのは重力レンズという現象です。

 ダークマターは質量をもち、周囲に重力作用を及ぼします。 一般相対論によると、重力は空間をゆがめ、光の進路を曲げます。 ダークマターは光を反射することはできませんが、屈折させることはできるのです。

 重力レンズ作用を受けると、背後にある天体の見かけの形がゆがみます。

 今回、CL0024+17の背後にある、さらに遠方の銀河の形のゆがみを一つ一つ丹念に測定することで、手前にある銀河団CL0024+17の中でダークマターがどのように分布しているのかが明らかになりました (図で青白くボーっとしている雲のようなものは、銀河のゆがみの強さ、すなわちダークマターの多くあるところを示しています)。

 こうして、銀河団CL0024+17の中のダークマターの分布が分かったわけですが、その分布は驚くべき形をしていました。 銀河団を取り囲むように直径260万光年のリングになっていたのです。
 このような形は誰も想像していなかったものです。

 別の観測から、どうやら、この銀河は20億年前に、2つの銀河団が正面衝突をしたものらしい、ということが分かりました。
 2つの銀河団はお互いに重力を及ぼしあっていますが、まだ合体はしておらず、2つに分かれています。 地球からはその衝突方向に眺めているため、2つの銀河団が重なって1つの銀河団のように見えているのです。
 銀河団同士の衝突では、お互いの銀河団ガスはすり抜けることができず、すみやかに一つにまとまりますが、ダークマターや銀河はかたまりのまますり抜けてしまいます (※このような衝突直後の銀河団を横から見ることができたら、銀河団ガスと暗黒物質が分離しているはずです)。

 ダークマターは銀河団全体に広がっていますが、中心部ほど多く、また銀河一つ一つにも個別の固まりを作っています。 シミュレーションによると、銀河団衝突が起きたとき、すれ違う中心部の濃いダークマターによって、もう一方の銀河団に広がるダークマターが散乱され、外側に飛ばされます。 雨の中を走る車が雨滴をはね飛ばすのに似ています。
 こうしてできたのがダークマターのリングらしいのです。 2つの銀河団はお互いの重力によって数十億年後には一つにまとまり、ダークマターのリングも消えてしまうでしょう。

 今回のように詳細なダークマターの分布を明らかにできたのは、遠方の小さく暗い銀河の形を詳細に映し出したHSTの威力があったからこそです。 ダークマターの正体は全く分かっていませんが、今後、観測・研究が進んでいけば、いつかはその正体が明らかにされる日も来るでしょう。


原文は英語ですがESAもしくはNASAのプレスリリースをご覧ください。


2007.5.17記(石坂

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