遠く若い銀河の新たな謎・・・

銀河の成長と重元素の増加の歴史

 ヨーロッパ南天文台ESOの超大型望遠鏡VLTが、120億年前(宇宙誕生から約20億年後)の遠方銀河に、これまで予想されなかったほどの豊富な重元素が含まれていることを発見しました。 
 この銀河に発生したガンマ線バーストGRB090323の光が、貫いた銀河中の星雲に含まれる元素の組成の情報を刻み込んでいたのです。
 それによると、生まれたてと言ってもいいほど若い銀河なのに、すでに現在の成熟した銀河よりも多いくらいの重元素を含んでいました。
 重元素(ここでは、水素、ヘリウム、リチウム以外の全ての元素のこと)は星の中で合成され、星の死とともに宇宙に広がっていきます。 ですから、初期宇宙では重元素は少なく、現在に近づくにつれ、だんだんと増えていく、と考えられていました。
 
 実はこの銀河はすぐ近くにもう一つ銀河があり、合体している最中だと考えられています。
 銀河の合体により星生成は盛んになります。 星生成が盛んになれば、大質量星もたくさん生れますし、重元素の合成も効率が上がります。
 ガンマ線バーストは、ある条件がそろった場合の大質量星の超新星爆発だと考えられています。

 VLTが観測したこの銀河は、合体中のため重元素が多くなり、ガンマ線バーストが発生したのだとすると、説明がうまくつきます。

 ところで、もしも若い銀河が全て、この銀河のような合体を経験して星生成が盛んになったのだとすると、逆に、現在の銀河の重元素量が説明できなくなります。

 銀河たちが、いつ、どのくらいの頻度で合体を経験したか、はまだよく分かっていません。 HSTが観測した80〜90億年前の銀河。衝突合体により歪んだ形をしている。[ NASA, ESA, J. Lotz (STScI), M. Davis (University of California, Berkeley), and A. Koekemoer (STScI)]
 ハッブル宇宙望遠鏡HSTは、80−90億年前までの宇宙を観測し、大きな銀河同士の合体はこの90億年間に平均して1回程度しか起きておらず、小さな銀河を吸収する方がその3倍程度頻繁だったとの見積を出しました。
 宇宙で最も星生成が盛んになったのは、上で述べたような110億年くらい前のことです。

 110億年前の宇宙で、銀河の合体が頻繁に起きていたかどうか、今後の観測によって明らかにされるでしょう。


 原文は英語ですが
・銀河の重元素量についてはESOのプレスリリース
・銀河の合体頻度についてはHSTのプレスリリース
をご覧ください。

2011.11.5記(石坂

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