ホシ ヲ メグル センイチ ワ

星を巡る1001話

 

星や天文にまつわる短いお話を1001話書こうと思います。スタートは2005年2月25日。ボチボチやっていきます。


公序良俗に反さないかぎり、配布・コピーは自由とします。出展を、小さくてもけっこうなので、明記してください。WEBに転載される場合は大阪市立科学館の渡部ページにリンクをお願いします。

大阪市立科学館 学芸員 渡部義弥


2022年12月8日 第125話 火星の接近

火星は、地球と同じ太陽系の惑星で、地球のすぐ外側を公転しています。内側の地球は1年、外側の火星は1年11ヶ月ほどで巡るため、2年2ヶ月ごとに地球は火星を追い越します。追い越すときが一番近づくので、火星の接近は2年2ヶ月ごとになります。

ただ、火星の公転軌道は円からそこそこずれているため、接近場所によってその度合いが2倍も変わります。最も近づくパターンは、16〜18年に1度で、これを大接近といっています。火星の距離はパソコン用の星空シミュレーションアプリなどで容易に調べられます。18年分をグラフにしてみました。
今年の後しばらくは接近しても遠いことがわかります。



2022年12月2日 第124話 近代的プラネタリウム(光学式プラネタリウム)

プラネタリウムは、任意の場所、時刻の星空を再現する装置です。
特に、空を模したドームスクリーンに、投影機から星空を映し出し、その機器全体を歯車仕掛けで動かすものを、近代的なプラネタリウムまたは光学式プラネタリウムということがあり、いわゆるプラネタリウムはこの「投影機+ドームスクリーン」のイメージが強く、デファクトスタンダードは、1923年に発明され、この記事の公開時には99周年となります。

ただ、プラネタリウムという言葉はもっと前から使われています。有名なのがオランダのアイジンガのプラネタリウムで、それは天井に太陽系のリアルタイムで動く歯車仕掛けの模型がはめ込まれたものです。太陽系の惑星(プラネット)の動きを模すものなのでプラネタリウムというのです。

2022年11月23日 第123話 木星の雲の縞模様
木星の表面ははカラフルな縞模様です。その色は模様を作っている雲のてっぺんの物質で変わり、上昇気流の場所は赤、下降気流の場所は白の雲になっていると書きました。

これが縞模様の原因であるとすると、赤道をはさんで、緯度ごとに交互に、上昇気流と下降気流の場所ができていることになります。
これは、地球でも似たようなことが起こっており、地球の赤道では上昇気流で雨がち、そこから少し南北で離れた時は下降気流で晴れがちな砂漠地帯ができています。ただ、地球では赤道で上昇した空気が北半球では北に移動して、砂漠地帯で下降し、その少し北側ではまた上昇して、そのさらの北で下降し、またさらに北側で上昇、北極付近で下降という3セット(南半球をあわせると6セット)があり、南北方向に空気が大きく移動しています。

ところが木星の場合は、南北方向への移動をしている様子がみられません。東西方向の移動により、縞模様が維持されています。

これは、大気の循環をつかさどる熱が、地球はほぼ太陽ですが、木星の場合は内部から出る熱が太陽のほぼ倍になっており、これが駆動力になります。また、木星は地球の11倍もの直径を持つ巨大な惑星ですが、自転は10時間と短く、それも影響しているようです。

2022年11月22日 第122話 木星の雲の色
木星を望遠鏡で観察すると、そばに2〜4個の衛星が一列にならんでいるのが目に留まります。これは、1610年にイタリアの著名な科学者ガリレオが、手製の望遠鏡で発見したので「ガリレオ衛星」と呼ばれていますね。

一方、もう少し性能がよい望遠鏡を使うと、木星の表面に縞模様が見えます。赤い帯と白い帯が、赤道に並行にならんでいます。木星は雲で覆われているので、これらは雲のてっぺんを見ていることになります。では、なぜ雲のてっぺんが赤と白の模様になるのでしょう。

雲の色に注目しています。木星の表面は165K、すなわち、マイナス100度ほどです。また、木星表面の重力は地球の2.5倍もあり圧力も高くなります。雲は氷のような固体の微粒子(希に液体の粒)が空中に浮いているものですが、この低温・高圧の環境では、地球の雲とちがい水以外のものも氷になれます。木星では、メタン、アンモニア、硫化水素などがそれにあたります。地球上ではメタンが凍るのは-182.5 °C、アンモニアが-77.73 °C、硫化水素が-85.5 °Cです。さらにこれらが化合した硫化水素アンモニウムなども雲を作ります。

特に上空の冷たいところでは、アンモニアが白い雲を作ります。ここが高気圧=下降気流だと、この白になります。一方、木星の内部は熱く、その熱が湧き上がるところ=上昇気流=低気圧では、白い雲はなくなり内部から湧き上がる物質が色をつけているとされています。リン、硫黄、炭化水素などが、太陽の紫外線で光化学反応をおこして色を出しているとされていますが、教科書をよんでも「よくわからない」と書かれています。

2022年11月19日 第121話 天体名の基準(教育現場で)
アルヴァカ、織女、ヴェガ、ベガ、こと座α星。これはすべて同じ星の名前です。織り姫星は、よく目立つ明るい星ですので、様々な呼ばれ方をしてきました。これらはどれが正しくて、どれが間違っているということはありません。ただ、星について知ったり学んだりするときは、基準になる名前があると学びやすくなります。教育現場ではそういう配慮の元、表記をできるだけ統一するようにしています。

問題は、何を基準にするかです。文部科学省は、一部の分野については「学術用語集」というのを編纂していますので、研究者向けではありますが、これを権威とすることはできます。ここには星座の表記の一覧表があります。しかし、個別の星の名前は載っていません。次に権威ががあるのは、国の研究機関が編纂する白書のようなものです。星の世界では、国立天文台が編纂している理科年表(出版は丸善)がそうで、教科書などもこれを基準にしています。ところが、ここでは木星や土星などは載っているのですが、織り姫星は英語で Vegaとあるだけで、どう読むのかは書いていません。ちなみに、このVegaは、ちょっと前までは通称の一つだったのですが、国際天文学連合(IAU)が主な星の名前を決めたことで落ち着きました。ただ、よくつかっていたくじら座のデネブカイトスはディフダという名前でおちついたので、これはこれで工夫がが必要になってしまいましたが。では、どうするかというと、決めてはなく、国立天文台と日本天文学会で表記が違ったりする、アークトゥールス|アルクトゥールスのようなものもあります。

広く使われなければ、教科書や何かで教えなければ、まあ、そこまで迷わないのですが、目立つ星は困りますよね。で、困っているのです。

2022年11月16日 第120話 「電視」観望

中国では、テレビ局のことを電視台というそうです。テレ・ビジョン(遠くで観る)に対して、電視は、電波や電機技術を駆使して観るという感じで、より技術のないように沿った表現ですね。まあ、将来にわたって電機技術を使うかというと、それはわからないわけですけれど。

さて、ここでいう電視観望は、眼視観望に対する言葉です。技術をさしていっているわけです。望遠鏡を使っての観察のさいに、電子センサーでとらえた天体画像を電子ビューファインダーやテレビモニターで観るので、そう言っています。同じ音で、電子を使うこともありますが、電視が主流になりつつあります。電視+観望だと観る、観るみたいで重複している感じもありますが、まあ言葉というのは倣ってくると当たり前にりますし、あまり気にせずに使っている感じですね。

さて、電視観望ですが、考え方そのものは昔からあって、太陽の映像をとらえ、中継をしたりしたり、そもそも月食などをテレビで中継しているのを観るのは一種の電視観望といえます。ただ、昨今話題になっているのは、人間の目ではとらえられない天体の色やかすかな光を、電子技術を使って、しっかりととらえるところにあります。背景の明るさをデジタル技術でかき消し、天体だけを引き上げることで、これまで都会での観察は諦めていたような天体も観られるのがポイントです。

この1001話は、日付を明記しながらの記述です。いまはこんな書き方をしていますが、将来はどうなのでしょうね。

2022年11月13日 第119話 プロキシマ − 最も近い恒星
1915年、南アフリカのヨハネスブルグ天文台で、11等級という暗い恒星に、ある発見がありました。その恒星は、最も近い恒星であるケンタウルス座α星から2度ほど離れた場所にあり、空間運動がケンタウルス座α星と同じだったのです。またこの恒星の距離が測定され、ケンタウルス座α星と同じ距離であることもわかりました。これらから、2つの1等級の恒星がまわりあっているケンタウルス座α星系の3つ目の恒星ということが示唆されました。そして、わずかながらケンタウルス座αの既知の2星(A,B)より近く、太陽にもっとも近い恒星であることがわかりました。そこで「最も近い」を意味するプロキシマという名前がつけられたのです。現在はケンタウルス座のという意味のケンタウリが加わり、プロキシマ・ケンタウリが正式名称となっています。

ところで、このプロキシマ・ケンタウリのあたりの11等級までの星図を示すとこんな感じになります(ステラナビゲータというソフトで作成しました)。ちょうど天の川の中にあたり、無数の星があります。近いためにこの星の固有運動は大きく、時間をおいて2枚の写真を撮影するとチェックできるのですが、よくまあ見つけたなと感心してしまいます。


2022年11月3日 第118話 ステラ・ストリーム(恒星ストリーム、または星流)

私たちのすむ太陽系は、円盤型をした天体の集まり、天の川銀河の中にあります。そして、太陽の周りを地球が回るように、天の川銀河の中心の周りを円盤に沿って2億年で一周しています。天の川銀河の円盤にある天体はほとんどはそういう運動をしているのです。
しかし、そうでない天体もあります。そしてそれは1個2個ではなく、まとまってそうした運動をしているのです。そのグループをステラ・ストリームといい、1971年ごろにアメリカの天文学者エッゲンらが発見しました。図は、ステラ・ストリームのイメージ図で、天の川銀河に突っ込んだり出たりするそんな運動をしているイメージがわかると思います。このステラ・ストリームは天の川銀河に別の小型の銀河や球状星団がぶつかって、取り込まれるところと見て取れます。

天の川銀河は中心部と周辺の円盤(渦をまいているところ)では性質が違い。周辺の方が次々に新しい天体が誕生したり死んだりして、その分、世代を経て、星の中で生まれた酸素や炭素などが多くなっています。私たちが明るい星として見上げる太陽の近くの星は、基本そんな世代を経た「種族I」の星です。長生きし世代を経ていない「種族II」の星もありますが、そうしたものは長生きする代わりに暗いために肉眼では見えません。

しかし、中には、明るいくせに酸素や炭素が少ない星があります。その代表がうしかい座のアークトゥルスです。この天体は、アークトゥルススター・ストリームの50個ばかりの星のメンバーで、さきほど言ったようにもともと他の銀河か球状星団のメンバーだったので出自が違うのです。さらにアークトゥルスは死ぬ間際で、非常に膨張し明るくなっている特殊な天体です。明るいアークトゥルスを含むステラ・ストリームこそ、最初に発見されたステラ・ストリームなのです。


2022年10月23日 第117話 3分割?4分割? アルゴ座

1922年に定められた星座は88個。ただし、その表外にアルゴ座という星座があります。二千数百年前のギリシア神話に登場する船、アルゴをかたどった星座で、冬の空のオリオン座やおおいぬ座の下、水平線すれすれに考えられたものです。ただ、さらに水平線の南にヨーロッパ人が進出するようになると、アルゴ座というまとまりをもう少し大きくしないといけないように考えられました。結果として、非常に巨大な星座になったのです。

南の空の観測を行った18世紀の天文学者ラカイユは、便宜上アルゴ座を3パーツに分けました。とも(船尾)、りゅうこつ(竜骨)、ほ(帆)です。へさき(船首)ではなく、ともがあるところで、船を後ろ(船尾)からみたように見立てられていたのがわかりますね。さらにラカイユは帆の中にらしんばん(羅針盤:船用の方位磁石)も定めました。羅針盤は1000年ごろに中国で発明された(それより前の三国志の時代にもあったと考えられている)のですが、アルゴ船が考えられた時代には存在しませんでした。南の空の観測のために南の国に渡ったラカイユは「船には羅針盤が必要にきまっている」と自身の経験から強く思ったのかもしれません(文献などはなく、私の勝手な想像です)。

さて、アルゴ座はその巨大さ故に「空の住所」としての星座の区分をするのに不向きで、1922年〜1930年に国際天文学連合によって星座の領域が確定したときに、ラカイユの分割にしたがって、とも座、りゅうこつ座、ほ座、そしてらしんばん座に分割されました。羅針盤は古代にはなかったのだから、らしんばん座はアルゴ船から分割というのはおかしいという考え方も言われることがあるのですが。星座の領域が確定する前に、ラカイユが示し、広く使われていたたアルゴ座の構成から成立したので、らしんばん座もアルゴ座から分割されたといってよいでしょう。

2022年10月22日 第116話 小さな星座

星座は88個あります。そのサイズはまちまちで、東西120度にもおよぶうみへび座から、東西南北が10度に満たないみなみじゅうじ座まで様々です。
星座は1922年〜1930年に国際天文学連合によって境界線が定められました。これによって、星座の「面積」も確定し、大きな星座。小さな星座の順位も決まっています。
小さな星座を小さい順に、みなみじゅうじ座(68平方度)、こうま座( 72平方度)、や座(80平方度)、コンパス座(93平方度)、たて座(109平方度)、みなみのさんかく座(110平方度)、レチクル座(114平方度)、ちょうこくぐ座(125平方度)、みなみのかんむり座(128平方度)となります。聞き慣れない南の方の星座が多いですね。

2022年10月21日 第115話 日時計のノーモンの仰角

日時計は人類最古の科学機器だなんていいます。太陽の影の方向や長さを読み取ることで時刻を知るのが日時計です。
太陽は、日中東から西に方向を変え、高度も正午をピークに上がって下がる。影もそれに応じて変化するので、それを利用するわけですね。
日時計では、棒や板で影を作りますが、その影を作る棒を、ノーモンとかグノモンといいます。太陽の動きは、地球の自転によるので、自転の軸にあわせて
ノーモンを設置すると、影の回転がそのまわりを一定ペースで動くので、日時計製作が簡単になります。

では、軸にあわせるとは、どういうことかというと、ノーモンの先を天の北極、つまりは北極星に向ければよいのです。
北極星の仰角は、北極点で真上、つまり90度になります。赤道では0度ですね。では、北緯35度の大阪とかでは、仰角35度になります。
ですから、日時計のノーモンの仰角は35度にするのが簡単なのです。

もちろん、違う角度のノーモンにする手はあるのですが、そうなると季節ごとに回転などが変化するため、目盛りを非常に複雑にする必要があります。
コンピュータを使って計算すればいいといえばいいのですが、なんであんな変な目盛りにするんだということになるので、ノーモンは素直に天の北極を
向けたほうがいいでしょうね。

あ、これ望遠鏡を持っている人だと「赤道儀の極軸と同じ」と思うでしょう。はい、原理はまったく同じです。




2022年10月14日
第114話 カルドウェルカタログ(C天体)=メシエ天体を埋める20世紀のカタログ

話で、メシエカタログに入らなかったけれど、なんでというほど見応えがある天体がありますよ。というお話をしました。
同じことを考える人は、もちろん大勢いるのですが、とりあえずNGCやICといった、ずっと網羅的なカタログがあり、プロの天文学者も広く使っているので、アマチュアや天文ファンもそれを踏襲したり、二重星団、らせん星雲のようなニックネームで呼んできました。

これに対して、いや、メシエ天体にない見やすいものはそれだけでやっぱりカタログ作ろうよということになりましたが、なにしろメシエほどの決定版というのはなかなか作りにくいものです。そこに登場したのがカルドウェルカタログです。メシエ天体と同じ109個で、メシエの補完ですのでかぶっていません。提唱者は、英国でアマチュア天文家、そして1957年〜2022年現在も続く長寿のBBCのラジオ天文番組 SKY AT NIGHTのパーソナリティとしても活躍した”パトリック・ムーア”こと、サー・パトリック。カルドウェル・アルフレッド=ムーア氏(1923年3月〜2012年12月)です。1995年に世界で最も売れている天文雑誌 SKY AND TELECOPEで発表しました。ムーアカタログといってもいいのですが、それだと頭文字がメシエのMと同じになってしまうので、カルドウェルをとって
います。Cナンバーをつけることもあります。

ムーア氏は、永年英国天文協会の会長を務め、70冊もの書籍を書き、上記のラジオ番組やテレビでの解説、ドラマでの出演など英国では知らない人がいない天文家でした。ギネスブックの天文バージョンはムーア氏が参加して見違えるほどすばらしい出来になったといわれています。そしてその活動で「サー」の称号を受けています。音楽活動でサーといえば、ビートルズなどですが、天文版のビートルズのような存在ですね。そして、それは「なるほど!」というできばえだったのです。

概ね、北→南にナンバリングされており、C1は最も古い散開星団として知られるNGC188(ケフェウス座)、C14が二重星団、C38がNGC4565銀河(ニードル銀河)、そしてC41がヒアデス星団となっています。南の方にある、球状星団ωはC80、みなみじゅうじ座の横にある石炭袋は唯一の暗黒星雲でC99、きょうしちょう座47球状星団がC107、C109はカメレオン座の惑星状星雲NGC3195です。

リストは カタログの詳細は Caldwell Clubで見てください。日本ではまだ知られていませんが、早晩使われるようになるような優れた内容です。南天のものは日本で見られないですが、そこれは全部チェック可能なメシエ天体との違いですね。


2022年9月27日
第113話 メシエ天体にならなかった見応えがある天体

前項の「メシエ天体」は、天文ファンが様々な天体観察にチャレンジする目安としてよく使われます。「日本百名山」とかそんな感じですね。
一方、観察しやすいのに、メシエ天体に入っていない天体も少なからずあります。たとえば、M45(おうし座のプレアデス星団)が入っているのに、よりわかりやすいおうし座のヒアデス星団やかみのけ座をつくるMel.111星団が入っていません。ただメシエはそもそも「ぼんやり広がった彗星とまちがえそうな天体」のカタログを作っていたので、はっきり見えるこれらは相応しくなくM45がむしろ無理矢理入れたという感じになります。

それ以外では、なんでといわれるものとしてはNGC4565銀河があります。ニードル銀河とかいわれるもので、まさに針のように見えるのですが入っていません。またNGC891銀河も同様です。また、NGC7293というみずがめ座の惑星状星雲もそうですが、この星雲は大きいのですが淡いので観測しにくかったのかもしれません。
天文ファンがよく注目するペルセウス座の二重星団はクッキリ見えるのに除外されています。なんで? という感じです。おおいぬ座のNGC2362星団もなんでだろうなあという感じです。

一方、仕方ないよなというのが、パリから見られない南の天体です。その中でもケンタウルス座のω星団は、肉眼でも悠々見える球状星団です。赤緯がマイナス47度なので、パリからは見られません。日本の大阪では、赤緯がマイナス55度くらいまでいけますので、なんとか観察対象になります。惜しいのがさそり座のNGC6231という散開星団です。赤緯はマイナス41度。おしい! という感じですね。


2022年9月3日 第112話 メシエ(M)天体

M1やM42のように、名称にMがついている天体があります。これは、メシエ天体といわれていて、フランスの18-19世紀の天文学者メシエが作ったカタログにある天体のことで、M1〜110まであります。メシエはぼんやり広がった彗星の捜索をしていて、彗星とまちがえそうなぼやっと広がった星雲や星団をリストアップしていました。当初はM39まで作り、ちょっと半端なのでどうみても2つの星があるだけのものをM40として数字をあわせました。その後M41を見つけてしまったために、すでによく知られていて間違いようもない、M42オリオン大星雲とその附属星雲のM43,かに座のプレセペ星団M44、すばるM45をリストに突っ込みました。最終的にM103までリストアップしました。その後後世の人たちが、メシエの記録などから判断し、M110まで拡張して現在に至ります。

メシエはフランスのパリ中心部のクリュニー邸(現在も美術館として 建物は残る)で小型の望遠鏡で観察をしていました。メシエカタログは、小さな望遠鏡でも確認できるバラエティにとんだ天体のカタログとして、いまもよく使われています。

ただ、言うまでもなく、パリ(北緯49度)での観測から作られたので、赤緯マイナス40度以南の天体は含まれていません。(一番南のものは散開星団M7の南緯マイナス35度です。)


2022年8月23日 第111話 話題多きうしかい座のアークトゥルス

うしかい座の1等星、アークトゥルスは、地球から見える恒星(太陽をのぞく)の中で4番目に明るく輝く星です。しかも、天の北半球では織り姫星をかわして1位。なのに、あまりにも名前が知られていません。

この星は、明るいだけでなく、みやすい赤色巨星であり、高速度で天を移動する星としてはじめて発見され、宇宙の初期から生き延びてきている種族IIの恒星でもあります。他にも聞くだけで、情報がおなかいっぱいの話題の星なので、時々語ろうと思います。
 

2016年9月15日 第110話 八面六臂、天文学者ハレー

第109話で登場した、天文学者エドモンド・ハレーですが、英国グリニッジ天文台の台長を勤めるほどの大物でした。ただ、科学帆船の船長だったこともふくめ、その業績があまり広く知られているとはいえません。

ここでは、斉田博さんの「星の年表」誠文堂新光社、という本に載っている、ハレーの業績をピックアップしてみます。え、それもハレーだったの? とちょっと私もびっくり。まさに、八面六臂の活躍ぶりです。

なお、斉田さんは、ハレーを「ハリー」と表記していて、こちらの方が原語に近いらしいのですが、ここではこれまでの本記事での表記にならってハレーといたします。

1656年10月29日 誕生 ロンドンの東の家は裕福な石鹸製造業者。

1676年(20歳) セントヘレナ島で、南天の天体を観測。当時、オックスフォード大学を中退。ちなみに師匠は、初代グリニッジ天文台長になるフラムスチード。

1677年(21歳) エータ・カリーナ星雲、オメガ・ケンタウリ星団発見

1678年(22歳) 金星太陽面通過を利用しての、太陽距離測定法を考案、発表。

同年、南天星表発表。この成果により卒業資格を得る。

1682年(26歳) 彗星の周期性の発見。後にハレー彗星とよばれる彗星の回帰で確認される。

1683年(27歳) 地磁気の研究。

1686年(30歳) 流星は太陽系の微少天体の地球への落下と推論。

1693年(37歳) 月の永年加速を発見

同年、屈折光学の法則発見。 1/f = 1/a+1/b 焦点距離 f と物体までの距離a、像までの距離b の関係

1695年(39歳) 地球自転速度の変化を発見

1699年〜1701年 科学帆船パラモア・ピンクの船長として大西洋の南北縦断調査航海を敢行。

1701年(41歳) 地磁気の偏角図を史上初めて作成。

1705年(49歳) 1682年の彗星が1758年に回帰すると発表。その位置などの計算結果も示す。

1708年(52歳) 流星は宇宙起源だと考える(1686年とかぶりますが、年表には両方記載されています)。

1715年(59歳) 日食でベイリーのビーズの最初の観測

同年 球状星団M13を記載

1716年(60歳) オーロラと電荷の関係を示唆

1718年(62歳) 恒星の固有運動発見

1720年(64歳) 宇宙は無限であるという説を発表。
同年、グリニッジ天文台長に就任(第二代)。

1721年(65歳) 金星は望遠鏡で弓形に見えるときに、最大光輝になることを発見。

1742年1月14日 没(満85歳) 現職のグリニッジ天文台長のまま死亡。死因は、ブランデーを飲んでそのまま事切れてしまったということだそうです。

2016年8月9日 第109話 科学帆船パラモア・ピンク(Paramore-Pink)とハレー船長

ハレー彗星の予言で有名な、イギリスの科学者エドモンド・ハレーは、グリニッジ天文台の第二代の天文台長(1720〜42年)であり、天文学者としての名声はゆるぎないものです。また、オックスフォード大学で40年に渡り教鞭をとった数学の教授でもありました。

しかし、彼が、船長として世界初の科学探査船パラモア・ピンク号を指揮して2年間の航海をしたことはあまり知られていません。

ハレーの仕事は、大西洋とイギリス海峡の地図作りでした。特に、大西洋は、1699年の航海で、イギリスからアルゼンチン沖の南緯53度まで南下し、1年間をかけて、ぐるりと巡りながら、地図を作成しました。

地図の作成には、天体観測が欠かせません。ハレーの専門はここに発揮されたのです。

この地図では、はじめて、地磁気の偏角が記入されていました。つまり、コンパスと実際の南北のズレがどこならどれくらいかが分かるようになっていたのです。これは「ハレヤン・ライン(Halleyan lines)」と呼ばれていました。

なお、ハレーの乗船パラモア・ピンク号は、世界初の科学探査専用の船でした。大西洋航海では、カナリア諸島、ケープベルデ諸島、フェルナンドデンロンハ、ケープフリオ、トリスタン・ダ・クーニャー、セントヘレナ、トリニダード、パラナンブコ、バミューダ−、ニューファンドランド島などを巡っています。

 

2016年8月4日 第108話 宇宙戦艦ヤマトのガミラス星人の地球攻撃に使われた「遊星爆弾」について

1974年に放送されたSFアニメ番組「宇宙戦艦ヤマト」は、衝撃的な内容でした。ガミラス星人の侵略攻撃により、人類が地球表面に住めなくなってしまうという内容でした。軍隊が負けたとか、そういうレベルではなく、海が干上がり、地球表面まるごとが、火星のように赤茶けた砂漠になるというものでした。

短時間に地球を火星のようにしてしまったのは、ガミラス星人の使った「遊星爆弾」によるものです。遊星といは惑星と同じ意味で使われていた言葉ですが、ここでは、小天体(それでも直径1kmとか)を次々に地球に落とすということを差していました。そして、その遊星爆弾の発射基地は、冥王星という設定でした。

ところで、1974年当時の太陽系の理解は、どうだったのでしょうか。太陽系には9つの惑星(冥王星をふくむ)がまわっており、そのほかに、火星と木星の間の軌道に多数の小惑星が発見されていました。また、木星と同じ距離に、アキレスとパトロクロス、ヘクトルいう小惑星が1906年〜1907年に発見されています。また、彗星のなかには、冥王星よりも遠くからやってくるものがあることが知られていました。

しかし、冥王星の近所からコントロールして小天体を落とそうにも、そんなにたくさんの天体があるのかな? という感じだったのは確かです。

ところで、彗星のなかには、ちょうど冥王星くらいの距離が遠地点の軌道を持つものが存在していました。また知られている彗星の軌道と分布を考えると、もともと冥王星くらいの距離に、彗星の巣ともいえるようなエリアがあることが考えられました。これがエッジワース・カイパーベルトでありました。当初は科学上の仮説だったのですが、後に1977年のキロンをはじめ(考えてみれば、冥王星や海王星の衛星のトリトンもそうだった)、1990年代から続々と、そのあたりにある天体が発見されたのです。

2012年にリメイクされたアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」では、このエッジワース・カイパーベルト天体が遊星爆弾に改造されるというシーンがありました。SFが未来を予見することがありますが、これもその一つと言ってもいいでしょう。

 

2016年7月24日 第107話 古代中国の渾天説

渾天説(こんてんせつ)は、蓋天説の後にでてきた中国の宇宙についての考え方です。紀元前2世紀ころに現れ、紀元2世紀ごろには、主流になっていきます。

蓋天説では、天と地が上下にありましたが、この渾天説では、大地が水に浮かび、その大地と水を巨大な卵の殻のような天が包んでいます。水の下にも天があるというのが斬新な考え方でした。

天体は殻のような天に沿って、昇ったり沈んだりします。これは、天球とよく似た考えであり、実際の天体の動きをよく説明できました。

このような卵の殻のような球殻が考えられたのは、天体の観察を渾天儀というものでできるようになったからです。渾天儀は、地球儀の枠だけのようなもので、天体の高度と方位を調べられます。それによると天体はいつも同じ時間に一定の角度を動いていくことがよくわかります。

そうしたことから、卵のような丸いものが我々の上も下もとりまいているという考え方が生まれたようです。

 

2016年7月24日 第106話 古代中国の蓋天説

天蓋付きのベッドというのがあります。お姫様が寝るような上に覆いがある、あれですね。

いまから2,000年ほど前、紀元前3世紀〜3世紀ごろの古代中国の人たちは、天空に実際に覆いがあり、そこに太陽や星がへばりついていると考えていました。これを天蓋ではなく、蓋天説(がいてんせつ)と呼んでいます。中国で、非常に古い起源をもつ宇宙構造論です。

蓋天説は、第一次と第二次があるそうです。第一次は天も地も平面、まさに天蓋ベッド。第二次は天も地も中心が高く周囲が低い、ドームのような曲面という形になっています。天の中心は北極で、太陽はその周りをまわります。ただ、季節によってまわる軌道が上下し、夏至は内衝、春分秋分は中衝、冬至は外衝をまわるとしていました。

いずれ、太陽も「沈む」のではなく、自分のいる場所から「遠ざかる」から暗くなるという考えになっていたのが面白いところです。

また、天のなかで、太陽や月が動くのは、天そのものは左へ行くが、太陽や月が右に行き天につられてやや左に行くという考え方でした。

蓋説は、日時計(ノーモン)の影から考えられた説だったとのことです。すなわち、南に行くと、影が小さいのは、太陽がより真上にくるからと考えたのだそうです。

2016年7月24日 第105話 質量が大きい恒星は短命

恒星の燃料は、質量の10%、だから質量が大きい、重い星ほど、たくさん燃料を持っているという話をしました。

ところが、質量が大きいと、燃費が悪くなるのです。それは中心部の圧力があがり、核融合の効率がよくなるからなのです。つまりじゃんじゃんエネルギーを出して、燃料をバカ食いするのですね。

そのバカ食い度合いは、質量の3〜5乗に比例します。大きな恒星だと3〜1乗とおだやかになります。

ですから、太陽の一生、燃料を使い尽くすのは100億年(100,0000,0000)程度なのですが、太陽の10倍の質量の恒星だと、この0が4つとれ、燃料が10倍で1つ増えて都合3つ0がとれますのでたったの1000万年になってしまいます。

逆に仮に質量が太陽の10分の1だと、0が5つ追加され、燃料が10分の1で1つ減って、都合4つ0が加わるので、一生は100兆年になります。

ただし、 あまり質量が小さいと、核融合反応そのものができなくなります。その限界は、太陽の質量の8%です。

2016年7月24日 第104話 恒星はその身体の10%までを自らを輝かせる燃料にする。

恒星が輝くのは、中心で水素の核融合反応がおこり、その熱によるものだということでした。水素がヘリウムになるなかで0.7%の質量がエネルギーに転換されるため、です。

恒星はほぼ水素でできています。一番身近な恒星の太陽の場合、78%が水素、20%がヘリウム、2%がその他の酸素や鉄などです。で、78%の水素ですがそれを使い尽くすことはありません。核融合をおこすには、恒星の中心あたりのような高温高圧な条件が必要だからです。

中心では核融合反応により、次第に水素が減り、ヘリウムばかりになります。そうなると、燃料切れで核融合反応はおこれません。

もっとも、他にも水素はいくらでもあるではないかといいたくなります。ところが外側の水素が中心部にまざることはないのです。中心部が反応しなくなると、中心がつぶれ、その周囲が反応するようになりますが、これは長くは持ちません。

そのため、恒星は大きさによらず、おおむねその身体の10%の質量までを核融合させると、そこで燃料切れになります。

つまり、質量が大きい恒星ほど、たくさんエネルギーを作れるということになりますね。

2016年7月24日 第103話 恒星を輝かせる水素核融合反応は、スゴイなパワーを発揮する。

自ら輝く星、恒星は、その中心で猛烈な熱が発生し、熱くなって輝いています。

この熱は、ほとんどの恒星では水素の核融合反応で発生しています。4つの水素が一つになって、ヘリウムへと変化(核融合)すると、その質量の0.7%が減ります。その分が、アインシュタインの相対性理論の式、

E=Mc^2  エネルギー=質量×光速の2乗

にしたがって、エネルギーに変換します。わずか0.7%ですが、光速(30万km毎秒)という非常に大きな数字が2乗のかけ算になっているのがポイントです。水素1グラムがヘリウムに核融合すると、6×10^11ジュールのエネルギーがでてきます。この量は、20万キロワット時ですから、ちょっとした発電所が1時間で作る電気エネルギーに相当します。また5〜8万戸の家の電力を1時間まかなうことができます。

2015年11月11日 第102話 特別な4つの1等星

夜空の星のなかで、特に明るい1等星は21個あります。そのなかで、4つの1等星は、特別に表が用意されます。しし座のレグルス、おうし座のアルデバラン、おとめ座のスピカ、そして、さそり座のアンタレスです。

この4つの1等星の共通点は何かというと、誕生日の星座(黄道12星座)の恒星ということです。

そしてこれらは、月によって隠される、星食がおこる恒星なんです。月は、白道といって、太陽の通り道の黄道より平均して±5度8分ほど南北にふれる経路を通りますが、そこまでいれても、上記の4つの1等星だけが星食をおこすことになります。

ちなみに、それぞれの黄道からの距離は次のようになっています。1回星食があると、月の軌道がゆっくり変化する関係で、何回も連続して星食がおこります。

特にアルデバランは5度と、白道がうねる頂上ふきんの変化が少ないところにあるため、連続して星食がおきやすい恒星です。

恒星
アルデバラン −5度28分

レグルス 0度28分

スピカ  −2度3分

アンタレス −4度34分

(参考)ポルックス 6度41分

2015年7月8日 第101話 世界一の1m望遠鏡

望遠鏡の性能をあらわすのに、光を集める対物レンズや反射鏡の直径をよく使います。大きなレンズや反射鏡は、それだけ暗い天体を観測できますから当然です。

ただ、レンズが大きくなると、本体も大きくなり取り回しがしにくいなど大変になってきます。1945年に、アメリカが反射鏡の直径が5mのヘール望遠鏡を作成。長い間、これを超える望遠鏡はありませんでした。旧ソ連が6mの望遠鏡を1970年代に製作したのですが、うまく動かせなかったということです。

その後、21世紀になると、8mや10mという望遠鏡が作られるようになります。コンピュータや制御技術の進歩で、機械ではうまくやれなかった微妙なコントロールができるようになったためです。現在では、30mの望遠鏡も建設がはじまっています。

ところで、世界一の望遠鏡の鏡はというと・・・ものによっては1mなんですね。実はこれは1mの望遠鏡を6台おいて、得られた光を「干渉」させ、全体として300mの望遠鏡に相当する性能を出すというものです。

2003年に本格観測をはじめた、ジョージア州立大学のCHARAがそれで、カリフォルニアのウィルソン山で活動しています。

この1m望遠鏡により、彦星の形が横に伸びていることがとらえられたり、しし座のレグルスの赤道が暗くなっていることや、巨大なガスの円盤が星を覆っていく様子をとらえることもできています。

CHARAのホームページには誇らしげに「世界で初めて!」こんなことができたというのが並んでいます。(2015年7月現在は下記の通り)

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First direct detection of gravity darkening on a single star (Regulus)
First direct measurement of the "P-factor" in the Baade-Wesselink method (δ Cep)
First detection of hot exozodiacal dust around a main-sequence star (Vega)
First model-independent measurement of an exoplanet diameter (HD 189733b)
First angular diameter for a halo population star (μ Cas)
First image of a single, main-sequence star (Altair)
First direct image of an interacting binary (β Lyr)
Shortest-period (1.14 days) binary star system yet resolved (σ2 CrB)
First image of a binary star system in eclipse (ε Aur)
Earliest measurements of a nova fireball after detonation (Nova Delphini 2013)

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