ホシ ヲ メグル センイチ ワ

星を巡る1001話

星や天文にまつわる短いお話を1001話書こうと思います。スタートは2005年2月25日。ボチボチやっていきます。


公序良俗に反さないかぎり、配布・コピーは自由とします。出展を、小さくてもけっこうなので、明記してください。WEBに転載される場合は大阪市立科学館の渡部ページにリンクをお願いします。

大阪市立科学館 学芸員 渡部義弥




2023年11月18日 第157話  太陽から太陽系内の惑星までは光でどれくらいかかる?

地球と太陽の間の距離はおよそ1.5億km、正確には1億4959万7870.7kmです。太陽の直径が140万km、地球が太陽を楕円軌道で回っているので年間で300万kmくらい変動がありますから、これは平均値です。

一方で、光のスピードすなわち光速は秒速およそ30万km。これは定義された定数で厳密には2.99792458×10^8m・s-1 (国立天文台編「理科年表2024」天1)であり、1983年以降は光速から1mが求められるようになっています。

この30万kmは、地球の円周4万kmの7.5倍にあたるので、光はよく「1秒間に地球を七回り半まわる」と表現されます。ものすごい速さですが、それでも0.1秒なら地球1周できず、地球の裏側のブラジルと電話すると、わずかな遅延を感じることになります(実際は、光ファイバーの経路などの問題でさらに遅れる)。

さらに、平均38万km彼方の月だと、1秒以上ですから、月面探査をする宇宙船とのやりとりは「あ、そこ危ないからよけろ」とかいっても、間に合わないことがおこります。月よりさらにはなれた小惑星探査や火星探査などでは、人間の指示では間に合わないのは明白なので、着陸などの寸刻をあらそうミッションでは、自律的に宇宙船が機能しなければいけません。

さて、前置きが長くなりましたが、では、そうした天体までに光、まあ電波も同じ電磁波なので、通信が届くのにどれくらいかかるでしょうか。星座の星なら何光年みたいなズバリな言い方がありますが、それをあまり聞かない太陽系の一覧にしてみました。もとより軌道の関係で、天体が地球に近いときと遠いがありますので、平均ではということになります。(内惑星である水星と金星の平均距離は太陽と同じになります)

天体名 平均距離
(億km) 
 光の速度で
(秒)
 光の速度で
(分)
 光の速度で
(時)
 月  0.0038  1.27  
 太陽、金星、水星  1.50 499  8.32  
 火星  2.28  760  12.7  
 準惑星ケレス
(元小惑星1番)
 4.14  1381  23.0  
 木星  7.78  2596  43.3  
 土星  14.29  4768  79.5  1時間19分
 天王星  28.75  9590  160  2時間40分
 海王星  45.04  15025  250  4時間10分
 準惑星冥王星  59.23  19756  329  5時間29分


2023年8月11日 第156話  地球や宇宙の写真・動画を使うのに便利なNASAのWEBサイト

インターネットといいますか、いわゆるホームページ(WEB)は、スイスにある国際的な素粒子実験施設CERNで誕生しました。場内の様々な情報の共有のために、同所の上級技術者であったティム・バーナーズ・リーが1990年12月にNeXTというUNIXというOS(Windowsのようなもの)で作動するワークステーション(大型コンピュータ並の能力を持つデスクにのるコンピュータ。いまはほぼPCに統合された死語)に実装したものです。

このWEBの技術は1993年に開放され、当時発展しつつあったインターネット網に接続されていた官民の研究機関を中心に広がっていき、様々な情報が「インターネットのWEB」で入手できるようになり、いまや、世界の情報の基盤となっています

さて、このWEBは研究機関からはじまったこともあり、NASAなど宇宙研究に関係する機関も、当初から天文台や宇宙探査機が撮影した写真や動画の公開をはじめました。NASAについてはもともと、各機関のほかに、アメリカの各州に写真や映像を特に教育向けに提供する事務所を構え、公開専属の職員をかまえていたこともあり、これらの機能がWEBへも反映されていきました。また、権利関係についても非営利・教育目的に使いやすいように整備されています(※)。

なお、この権利関係については時々見直されることがあり、適宜チェックが必要です。基本的には、使いやすくなるようへの改訂です。(NASAのロゴマークの使用だけはずっと厳格です。)

NASAのホームページは研究や開発のブランチごとに多数ありますが、基本は
https://www.nasa.gov/ です。画像は、https://images.nasa.gov/ の検索ページが便利だと思います。

※2023年8月11日現在の権利について
 https://www.nasa.gov/multimedia/guidelines/index.html 
1)非営利目的の静止画、音声録音、ビデオ、および関連するコンピューターファイル
 NASA製作のものは、断りなしに使えます(個人のWEBもふくむ)。出所はNASAだということは消えません。第三者の製作物をNASAのサイトでお断りしたうえで使用していることがあるが、これはその製作者に個別に問い合わせてください。

2)商業目的で使用されるNASAのコンテンツ
 広告などについて、それぞれガイドラインが示されています。NASAのアポロ計画には「オメガの時計」が使われました。といったことは、事実をきちんとなぞりなさいというルールになっています。おもしろいのは「NASAは、アルコールやタバコ製品に関連するプロモーションには協力しないという長年の方針を持っています」ということですね。その他は、https://www.nasa.gov/multimedia/guidelines/index.html からガイドラインをたどって確認してください。


2023年8月3日 第155話  村上星図

社会科の地理の学習には「地図帳」が定番です。日本では、帝国書院のものがよく知られていますね。様々な地図が一冊になっており、地域の特徴などが記事になっていることもあり、何かで話題になった地域について調べるには便利です。もっとも最近はネット地図が非常に便利になったので、出番は減っていますね。

一方で、理科の天文の学習には、「星図帳」があればいいなということになります。単に星図があるだけでなく、解説などもあると見ている星についていろいろなことがわかってきます。広島文理大学の村上忠敬さんは、戦前の1934年に「全天星図」を作成しましたが、まさにそういう考えの図でした。俗に村上星図と呼ばれるこの星図帳は判をかさね、昭和中期ではよく知られた星図でした。星空の案内役として、多くの天文ファンを導いたそうです。

ただ、そこから進んで、彗星の捜査をしようとか、変光星の観測をしようとかなると、掲載された星の数など使いにくく、別の星図にみなシフトしていくことになります。


2023年7月9日 第154話  フランス・ストラスブール天文台のSIMBAD

ストラスブールは、フランスの北東部のアルザス地方、ドイツとの国境のライン川沿いにある古い都市です。ライン川を使った交易の要衝として栄えました。また、なんどもドイツ領になったりフランス領になったりという係争の地でもありました。

このストラスブールの旧市街は2017年にユネスコの世界遺産になっており、その構成物の一つとして、ストラスブール大聖堂(ノートルダム大聖堂)の天文時計があります。時刻だけでなく、月齢など天文の運行も知らせる機能をもった時計で、この手の時計としては世界最大のものとされています。他にも壁面日時計もいくつかあります。

さて、そのストラスブールは、現在も世界の天文学者にとって、重要な地位を占めています。その源泉は、ストラスブール大学に付属したストラスブール天文台であり、しばしば所属する科学者が重要な研究発表をしていますが、なによりも知られているのは、同天文台が運営する天文データセンターのデータベースSIMBADです。インターネットから使うことができます。

これは当初、世界中の天文学者が作った、様々な恒星のカタログを横断的に検索できるものとして作られており、たとえば織姫星(Vega)について検索をすると、



次のようにVegaについての様々な情報が一気にしめされます。リンク先には元の論文やデータカタログが紐付けられており、星図などを表示するシステムと連携しています。とても便利です。全部英語ですが。読む方は自動翻訳でなんとかなりますが、問いかける方は、天文学と英語の知識が必要になります。


このSIMBADは無料で誰でも使えるもので、この天文データをベースにして研究することも可能です。実際に望遠鏡を使わなくても、観測データが好きにとれるので、バーチャル天文台といったりします。大学などに所属しなくとも、天文学の蓄積が活用できるすぐれものです。


2023年7月6日 第153話  宇宙望遠鏡の名前

人工衛星に望遠鏡を搭載する宇宙望遠鏡。当初は大気が邪魔で観測ができない、X線や紫外線、赤外線を観測するために宇宙空間に設置しました。地上から観測できる可視光や電波はわざわざ運用が面倒な宇宙に設置する必要がなかったからですね。

ところが、国際紫外線天文衛星(IUE:1978年打ち上げ)が大成功し、また1983年には赤外線天文衛星(IRAS)も画期的な仕事をし、撮像管だったものがCCDのような半導体二次元撮像素子になりと環境が整い、可視光や近赤外の宇宙望遠鏡を打ち上げるということになっていったのです。

そして打ち上がったのが1990年のハッブル宇宙望遠鏡です。それまでは機能をそのまま名前にしたようなものですが、人名がつきました。ハッブルはアンドロメダ銀河が天の川銀河の外にある天体であることを発見し、宇宙が膨張していることを示唆する研究をしたアメリカの天文学者、エドウィン・ハッブルにちなんでいます。

その後に製作された宇宙望遠鏡も、人名がつくものが多くあります。

スピッツァー宇宙望遠鏡は、1940年代に宇宙望遠鏡を提唱した研究者の名前。
チャンドラX線天文衛星 インド出身の科学者でチャンドラセカールにちなみます。
ハーシェル宇宙望遠鏡 大型の赤外線宇宙望遠鏡で、天王星と赤外線の発見者でもある英国の科学者ウィリアム・ハーシェルにちなみます。
ケプラー宇宙望遠鏡は、17世紀に活躍した科学者ケプラーにちなみます。惑星の軌道の3法則で有名ですが、ケプラー式望遠鏡の考案者でもあります。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 これは科学者でなく行政官としてNASAの長官も務めたジェイムズ・E・ウェッブにちなみます。彼は有人月着陸のアポロ計画や惑星探査計画などを指揮し、成功に導いています。


2023年7月5日 第152話  ロウソクと太陽の明るさはどれくらい違うか

ロウソクの光も、直射日光も、両方とも明るいものです。ただ、その明るさが全く違うことは言を待ちません。

では、それはどれくらい違うのか。意外とこれを探すと資料がないのですが、天文学のデータブックで古典的な標準といわれる Allen's Astrophysical Quantities (第4版)の119ページに載っているのをたまたま見つけました(Walsh,J,W.T.,Photometry,3rd ed.(Dover社)のP529が典拠)

それによると

ロウソクの明るさが0.6に対し、
天頂から降り注ぐ太陽光は165000で、
30万倍も明るさが違います。

その他には、アセチレンランプが10.8、白熱電球のフィラメントが800、快晴の青空が0.2−0.6です。おもしろいのはアーク灯で16000です。なお、時代が時代のデータなので、例えば典型的なLEDランプの明るさなどは掲載されていません。


2023年5月6日 第151話  星までの距離を測る・年周視差

星は日常感覚からすると、無限といっていいほど遠くにありますが、本当に無限であれば見えなくなるので、有限の距離があります。では、その星までの距離を測るにはどうすればいいのでしょうか?

これにはいろいろな方法がありますが、一番直接的なのは、人間が両目で距離を推定するのと同じ「視差」を使う方法です。すなわち、2カ所から星を見て、2カ所の間の距離と見える方向の違いから距離を測定する方法です。星の距離はうんと遠いので、2カ所には、人類が達成できる最も遠距離である、地球が太陽の向こうとコッチになる。夏と冬、秋と春などの場所が使われました。2カ所間の距離は3億kmです。この地球の半年あいての角度の差を特に「年周視差」といいます。

恒星の中で一番近いのがプロキシマという星ですが(プロキシマは最も近いという意味)プロキシマ(Proxima)の年周視差は、SIMBAD http://simbad.u-strasbg.fr/simbad/ という天文データベースで調べると、 768.0665ミリ秒角とあります。 5000分の1度であり、ラジアン単位だとざっと30万分の1ラジアンです。実は年周視差は2点間の距離の半分に換算することになっている(太陽〜地球間の距離)ます。

小さい角度の場合、
ラジアンであらわした角度×対象までの距離=測定2点間の距離ですので
対象までの距離は=測定2点間の距離/ラジアンであらわした角度になります。
つまりプロキシマまでの距離は 1.5億÷1/30万 〜45兆kmとなります。厳密に計算すると40兆kmであり、1光年は9.46kmなので、4.2光年あまりがプロキシマまでの距離となります。

なお、プロキシマはケンタウルス座という南天の星座の星で、大阪からは見えません。北緯28度以南ならばわかりますが、奄美大島より南で見られます。ただし、明るさは11等と、肉眼はもとより見えず、小型望遠鏡でもとらえるのが困難な明るさです。
1〜25話 26〜50話 51〜75話 76〜100話 101〜125話

126〜150話