ブラックホールに関する話題3つ

1.あのガス塊は、どうなった?

 2014年5月、天の川銀河中心の巨大ブラックホールにガスの塊が接近するという話題がありました。
 ガス塊がブラックホールに飲み込まれる時には天の川銀河中心が明るくなるのではないか、飲み込まれないまでもガス塊がブラックホールの強い重力で引き裂かれ変形するのではないか、と予測されていましたが、結局、何も起こりませんでした。
 なぜ、予想に反して何も起きなかったのか・・・ヨーロッパ南天文台ESOの超大型望遠鏡が、理由を明らかにしました。
 右図は、2006年からの"ガス塊"の動きです。
 「+」印のところに銀河中心の巨大ブラックホールがありますが、2014年5月に最接近した後、2014年の秋にも、ほとんど大きさが変わっていません。
 どうやら、この"ガス塊"は、フワフワしたものではなく、若い恒星とそれを取り囲むガス円盤だったようです。

 濃く固まっていたので、巨大ブラックホールによって引き裂かれなかったのです。
 この"ガス塊"は時速1200万kmという猛スピードで巨大ブラックホールから離れて行っています。
 
★原文は英語ですがESOのプレスリリースをご覧ください。

2.ブラックホールからの風が星形成を止めた?


 ほとんどの銀河中心巨大ブラックホールは(天の川銀河中心もそうですが)小食で"大人しい"ものです。
 しかし中には大食漢で、周りのガスをどんどん飲み込むものもあります。
 もしも巨大ブラックホールが大量のガス塊を飲み込んだら、どうなるのでしょうか?
 実は、全部を飲み込むわけではなく、一部をゲップ・・・ではなく、猛烈な風"ジェット"として噴き出すことがあります。
 そして、ジェットは星の材料となる銀河の中の低温のガスを巻き込んで吹き飛ばしてしまうこともあります。
 ヨーロッパ宇宙機関ESAのハーシェル赤外線観測衛星の観測で、銀河中心巨大ブラックホールからのジェットによって、低温のガスが吹き飛ばされている様子が確かめられました。
 ブラックホールはガスを飲み込むと成長していきますが、そのジェットによって銀河から星の材料であるガスが無くなれば、その銀河では新たな星形成ができません。
 元気すぎる巨大ブラックホールは、その母天体である銀河の星形成を止めてしまうこともあるのです。
 また、銀河の中のガスが無くなるということは、巨大ブラックホールのエサが無くなることでもあります。 ある時点で、巨大ブラックホールの成長と銀河の星の形成の両方が止まるために、巨大ブラックホールの質量と銀河の星の総質量とが比例するのかもしれません。

★原文は英語ですがESAのプレスリリースをご覧ください。

3.クェーサーのゴースト?

 盛んにガスを飲み込んでいた巨大ブラックホールは、しばしば明るく光る銀河中心核クェーサーとして観測されます。
 巨大ブラックホールのエサとなる大量ガスは銀河同士の衝突・合体によって供給されることが多いです。
 銀河同士が衝突合体もしくは接近する時、互いの重力により大きく変形し、銀河内のガスが帯状に引き出されることがあります。 
 引き出された帯状のガスは、それ自身では光りませんが、何かエネルギーの高い光(紫外線等)が当たると独特の色で光ります。
 下の写真を見てください。
 これらはハッブル宇宙望遠鏡HSTが撮影したクェーサー(の母銀河)ですが、その周りに、緑色の筋が浮かんでいます。 この緑色の筋は、銀河同士の衝突合体の際に引き出されたガスの帯に、クェーサー本体(銀河中心巨大ブラックホール)からの強い紫外線が当たったために光っているのだと考えられます。
 ところで、銀河中心から緑色に光っているガスの筋までは数万光年離れていますから、クェーサー本体が“今”紫外線を出しているわけではありません (実は、“今”のクェーサーの明るさはガス帯を光らせるにはパワー不足です)。
 巨大ブラックホールにガスが大量に落ちてクェーサーが明るくなってから、ガス帯が光るまでは数万年のタイムラグがあります。
 ゴーストのように光るガス帯は、過去のクェーサーの活動を示す、いわば“亡霊”なのです。


★原文は英語ですがHSTのプレスリリースをご覧ください。

2015. 4.18記(石坂

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