プラネタリウム投影

天文担当の学芸員として最も大切な業務の一つが、日々のプラネタリウム投影です。

ここでは、投影にまつわる裏話をしていきましょう。


第5回:落ち込んで、嬉しくて、泣いた日
2022年9月14日 更新

 さて、今回は私が投影1年目の時のことを思い出して(当時から投影日記をつけていた)、お届けしようと思います。


 これを書いている現在、すでに私は中堅学芸員。学芸補助スタッフの投影研修を担当させてもらうこともあります。いろいろと悩みながら練習しているすがたを見て、懐かしく思うこともしばしば(遠い目…)。もちろん私も今でもいろいろ悩みますし、少しでも多くの人に楽しく分かりやすいプラネタリウム解説を目指して奮闘しています。でも、新人の頃に経験したことは、特に鮮明に覚えているものです。きっと、若手プラネタリアンは多かれ少なかれ同じような経験をしているのではないかな~と思い、そんな方々へのエールの気持ちも込めて、綴ります。


 投影デビューして1か月も経っていない頃、プラネタリウムの基本操作や解説に慣れてきた私は、いろいろと欲を出して新しい試みに挑戦していました。新しい話題を入れてみたり、お客様にリアクションを求めたりしてみました。しかしまあ、どれもこれも上手くできません。初めての話題では緊張してよく噛むし、話の筋道が悪くて分かりづらくなったり、お客様にリアクションを求めても、楽しんでくださっているのか不安になってどんどんしどろもどろになるし…。まあ、一言で言って準備不足。今考えると、これに尽きます。


 そんなことを繰り返しているうちに、お客様からの反応が全く分からなくなっていました。今思えば、きちんと客観的に見ていればそんなことはなかったのかも知れません。しかし、自身の投影に全く自信のない私には、お客様から常に冷めた視線を受けているように感じてしまっていたのです。


 そして、ある日の投影でやらかしました。話し方は変になるわ、話の流れは悪くなるわ、機械操作は間違うわ、もう本当に何もかも出来の悪い投影をしてしまいました。終わった後、お客様と目を合わせられないくらい、申し訳なさと不甲斐なさと悔しさとで、完全に心が折れました。やっぱり自分は人様の前で(後ろだけど)、何かを上手く伝えられる人間じゃない、この仕事向いてない、と、ひどく落ち込みました。


 しょんぼりしながら事務所に戻ろうとしたとき、一人の案内員さんが私のほうに笑顔でかけよってきました。「西野さん、先ほどの投影をご覧になっていたお客様が、"とてもおもしろかった~"と、喜んでいらっしゃいましたよ!」と、私に言ってくださったのです。

 その時、こらえていた涙があふれました。申し訳なさと、ありがたさと、嬉しさと、不甲斐なさと、いろんな感情がごちゃごちゃになって、何だかよく分からない涙でした。こんな私の投影でも、一人でも良かったと思って帰ってくださるお客様がいるんだ、と思うと本当に嬉しくて。その時のお客様のお声は、今でも私の心の糧となっています。そして、案内員さんの美しい笑顔も忘れられません笑


 それから、もう10年以上経ちました。もちろん?その後も何度も何度も何度も失敗して、お客様に迷惑かけて(あかんやん)、不甲斐ない自分にたくさん出会ってきました。そうやって、この仕事を続けています。プラネタリアンが生解説をする理由は、生身の人間が熱をもってお話しすることで、伝わる何かがある、と思っているからです。決してきれいにナレーションすることがゴールではないし、私の解説が"おもしろかった"と言ってもらうこともゴールではありません(もちろん、言ってもらえるのは嬉しいですよ)。プラネタリウムを観た多くの人が、実際の星空を見あげ、楽しんでもらうこと。天文学がおもしろい、と宇宙に興味を持ってもらうこと。お客様自身の何かしらの行動につながることを目指して、私は今日も投影台に立ちます。


 …いまだに緊張するし、自信ないし、ヘタレなのは、内緒。